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ドラゴンの行く先を知る女性はグレイピットと名乗りました

 

 護衛仕事の終着地点、エデルの街についた俺とルカはセカンドを扱ってるショップへと向かった。セカンドとは所謂、中古品の事だ。エデルにはセカンドの取り扱いが豊富にある為、バリアンテ王国の見習い冒険者は大体がエデルで買い物をするらしく、ルカもその一人だと言う。


 俺達は武器や防具が一杯並んでいる一軒の店に入った。この街では有名な店らしく客は多い。店内を見て回っていると店の主人らしき人物が話し掛けてきた。


「いらっしゃい! その銀色の髪。兄さんが噂のドラゴンスレイヤーだね。渡したい物があるんだよ」


「ドラゴンスレイヤー? 何の話ですか?」


「聞いてるよ。ドラゴンを蹴散らしたそうじゃないか。とにかく、ちょっと待っててくれ」


 店主は慌てて店の奥へ行った。そもそもドラゴンを蹴散らしたわけではないし、倒してもいないのにドラゴンスレイヤーと呼ばれるのは正直恥ずかしい。

 しかし。あの店主が俺とドラゴンで一悶着あったのを誰かに聞いて知っているのは確かなようだ。


「あの人、完全にレクセルさんを待ってた感じじゃなかったですか!?」


 そう驚くルカに、俺も全く同感だった。不自然な程、ピンポイントで俺に声をかけてきてドラゴンの話を知ってるという事は、教えたのはアール達だろうな。彼らなら俺の剣が折れた事も知っているので武器屋に来る事は想定するだろうし。寧ろ、それ以外に考えられない。

 暫くして店主が戻って来て、俺に一本の剣を渡した。それは完全に新品の綺麗な剣だ。


「これってセカンド……じゃないですよね? まさかおすすめですか? こんな高そうな物、俺には買えませんよ」


「いやいや。それは既にあんた宛てに購入済みだ。あと、購入した方から伝言を預かってる。それはプレゼントだって言ってたよ。あと、急いで王都に戻った方が良いとも言ってた。何でもドラゴンが王都の方に向かったとか────」


 話が何もかも先回りされている感じで理解出来ない。プレゼントだけならアール達という事で頷けるのだが。ドラゴンの行き先を知ってる事とかを考えると違う気がして、今更ながらにそれが誰なのかを訊ねると。やはりアールでは無かった。


「名前は確か『グレイピット』と言っていたなぁ。凄く綺麗な女性だったね。兄さんより少し歳上だとは思うけど、一体どういう関係なんだい?」


 関係も何もこっちが聞きたい。女性でグレイピットという名前に俺はまったく身に覚えがないのだから。とにかく俺は店主に剣を貰い受け「また来ます」と言い残すと。到着早々、出発の準備を始める事にした。

 グレイピットという女性は気になるし剣のお礼もしたいのだが、優先すべきは伝言通りに直ぐに王都へ戻る事だろう。きっと、その女性もそれを求めているのだろうから。


 ◇◇◇◇


 俺達が王都ブルームに帰れたのは翌日の昼の事だった。門をくぐった途端目に映ったのは、大きく破壊されたいくつかの建物だった。人のすすり泣く声も聞こえた。

 近くには傷付いた王国の兵士達も沢山いたが、俺達は急いで街の中へと歩みを進めた。だが、よく見ると被害が酷いのは門の付近や見張り台。兵士の宿舎といった軍事施設に集中している。


 街中に向かう程に意外と被害は少なかったのだ。おそらく飛んで来たドラゴンに対して兵士達が侵入を阻止しようと攻撃した為、反撃された結果なのだろう。つまり無差別に街を攻撃しているわけではないのかもしれない。


「御主人様! あれを見てください!」


 ルカが空を指差す。その方角に飛んでいるドラゴンの姿が見えた。ドラゴンが飛んでいる場所には一際大きな建物が聳え立っている。バリアンテ王国・王城『フェイズシュタイン城』である。


 ドラゴンと城の間で様々な色の光が飛び交っている。宮廷魔法士達による攻撃が行われているのだろう。一方でドラゴンからも負けじと蒼白い光が放たれていて、その爆発音はここまで轟いている。


「城が攻撃されてる! ジルクレイアかもしれないし、俺が見てくるからルカはギルドにでも行っててくれ。後から落ち合おう」


 俺はルカを置き去りに城の方向に走り出した。本来ならば近寄らない方が良いのかもしれないが、あのドラゴンがジルクレイアなら解決の余地はある。

 ドラゴンと城の攻防戦を遠目に見ながら走っていた俺だが、突然ドラゴンが城から離れたのが見えた。


 どうした、撤退か? しかし、ドラゴンは突然身を翻して俺の上空を飛び越え街の中心へと降下していった。その辺は比較的人通りも多い場所だ。人口も勿論密集しているし、ルカに向かわせたギルドもある。


 直ぐに俺も引き返して街の中心に辿り着いた時には、既に激しい戦闘が行われていた。ルカはまだ来ていないようだが、ザッと見て十数名の冒険者達がドラゴンに攻撃している。

 この中心街には冒険者ギルドの他、酒場も武器屋もある。つまり、軍とは違う戦力が集中している場所でもあった。


 戦う者の中にはハマンの姿もある。巨大な斧を振りかざしてドラゴンに飛びかかる姿は、他の冒険者を圧倒していた。しかしドラゴンはハマンの攻撃を嫌いはしても臆する気配は全く無い。

 そんな光景に目を奪われていると後ろから「邪魔だ!どけっ!」と声がして誰かに突き飛ばされた。さらに後ろから一人。また一人……と、先頭の人物の後を追いかけてドラゴンに向かって走っていく冒険者グループがいた。────マルコ達だ。


「くそっ! 奴の前方に集中するな。まとめてブレスを食らう事になるぞ! 全員両側に散開しろ。奴に攻撃する隙を与えるな。休まず攻撃を続けろ」


 マルコが仲間や他の冒険者に戦闘の指示を出す。だが、マルコ達程の冒険者でもドラゴン相手には全く歯が立たない状態だった。唯一攻撃が通っているのはハマンくらいだ。

 さすがにこれは死人が出るだろう。俺は戦場へ飛び込み誰よりも前に出て、全身全霊を込めて────叫んだ!


「ジルクレイアァァ!」


 絶叫に近い俺の叫びは辺りに響き渡り。それは、他の冒険者の動きもドラゴンの動きも止めた。よし。話が通じる! と思った矢先。


「戦闘の邪魔なんだよ!」


 俺を横に弾き飛ばしてドラゴンの前に颯爽と立ちはだかったのは魔法使いのブッシュだ。 


「風の神ヴァータよ、我が魔力汝の糧とし強大なる風の刃となりて、かの者を滅せよ!」


 ブッシュの前で緑色の光が膨れ上がり、それが破裂すると同時に無数の光へと分散してドラゴンに飛んで行った。一緒に冒険した時に見た事がある。あれはトカゲを倒したミドルクラスの風魔法スキル『ウィンド・ブレイド』だ。


 それを全身に受けたドラゴンは、ぐぉぉぉん!っと大きく叫んで顔を少し背けたが、正直そこまで効いているとは思えない。それどころか反撃とばかりに長いしっぽを振り回し、それがブッシュを直撃したのだ。弾き飛ばされた彼は建物の壁に激しく叩き付けられた。


 直ぐにマリンはブッシュに近付き、回復魔法をかけようとしているがドラゴンはその隙を見逃さない。二人を狙って大きい腕を振りかざした。そこにいた誰もが、無防備なブッシュとマリンが即死する瞬間を想像したに違いないが、俺だけは諦めずに再度叫んでいた。


「やめろっ! ジルクレイア!」


 再びドラゴンは動きを止めて俺を見た。ゆっくりと俺の方にその大きな身体で近付いてくる。後ろからハマンが俺を呼ぶ鬼気迫る声が聞こえたが、俺は振り向いて〝大丈夫〟と、ハマンに合図した。

 ここでドラゴンを下手に刺激する方が怖い。


 大きさや色から殆どジルクレイアに間違いない。だが万が一、よく似てる別のドラゴンだったらどうする? そんな不安は次第に増していった。何故なら、そのドラゴンが全く喋らないからだ。

 ヤバい、これは違う奴だったか!? 迷いながら奴と目を合わせ続ける俺は既に半分後悔している。

 だがその時────ドラゴンの視線が俺からフッ逸れた。その先に一人の女性が立っている。


「そうそう。あなたの巣に大岩を落としたのは、その男で間違いないわ。確実にその男なのよ。私が保証する」


 そう女性は話しかけた。ドラゴンにむかって。 しかし、その話の内容よりも。その女性が俺の知ってる者だった事に驚いてしまった。

 スラッとした長身に栗色のショートヘア。顔立ちはすごく整っていてパッと見ても綺麗な女性。服装が違うので最初は誰か分からなかったが、確かに記憶にある顔だ。

 衝撃だったので鮮明に覚えている。酒場でマルコ達と共に俺にとどめの一言を発したウェイトレスだったのだ。


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