表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/31

[ルカストレア視点] あの日、私が知った彼の秘密……


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 レミアさんの作る料理はマジで美味しい!と、私──ルカストレア・パールゲイツは現在、彼──レクセルさんの実家におり、彼のお母さんであるレミアさんの夕食をご馳走になりながら思っていた。

 そこには彼、私、レミアさんの三人しかいないがとても賑やかな夕食の場だった。


「じゃあ、俺は先に寝るよ」


「あら、レクセル。もう寝るのね。二階のあなたの部屋はそのままだから、ユックリおやすみなさい」


「ああ。おやすみ母さん、ルカ」


 そう言うと、おそらく彼にとっても数ヶ月ぶりであろう自室へと戻って行った。その後、夕食をご馳走になって何もしないわけにはいかない、と。せっせと洗い物をしていた私にレミアさんが言った。


「ねえ、ルカちゃん。この後ちょっと私の部屋で話さない?」


「あ、はい。いいですけど」


 まだ話し足りないのだろうか? 夕食の席でさんざん話をしたのだが私はその誘い乗ることにした。

 部屋に入ってからの私は何とも言えない緊張感を抱いていたが、それを推し量ったように温かい紅茶を差し出してくれて、レミアさんはそのまま喋りだすのだ。


「ルカちゃん。急にこんな事をあなたに言うのは変かもしれないのだけれど。私は何となくあなたなら、レクセルを正しく導いてくれるんじゃないかと思っているのよ」


「は、はぁ……導く? 私が? レクセルさんをですか? どうしてですか?」


「フフ……それはまあ、何となくね。ルカちゃんは、あの子の味方でいてくれる気なの?」


 言いたい事がよく分からない。しかし敢えて答えるならば。それは味方で──という感じよりは、希望だろうか? 私が望んでいるのだ。彼が私の側にいてくれる事を。心のどこかで。


「味方と言うか。私はレクセルさんと離れるのが不安なのです。別にまだ会って数日なのですが。何て言うか、私はレクセルさんに助けられてる……っと、感じてますから」


 さて。何を言っているのだろうか? ハッキリ言って自分でも混乱しているのか、何の答えにもなっていない。しかし、レミアさんはそんな私を見て更なる質問をしてきた。いや……不意を突いてきたと言うべきか。


「そう。本当はルカちゃんって、あの子の強さに気付いてるんじゃない?」


 いつもの私ならサラリととぼけていただろうけど、さすがに明らかに驚きを顔に出してしまった。普段から私は出来るだけ抜けた感じを演じている。

 それは少し抜けた人間でいる方が、色々と助けて貰える事も多い為であり。臆病な私がこの世界で生き抜いて行く為に身に付けた、自分なりの手段だったのだが────崩壊させられたようだ。


 レミアさんは〝やっぱりね〟といった感じで、全てを見透かした様な目を私に向けていた。しかし、そんな事はどうでもよい。私の好奇心は爆発寸前だ。

 だって、()()()()私自身が一番知りたかったのだから。


 最初。彼に大きなスライムの攻撃から守ってもらった時。そして、他の魔物の反応を見ていても思った。とにかく、色々な場面で私は感じていたのだ。〝本当に彼は弱いのか?〟と。

 彼は確かに攻撃力が無い事で有名だしスライムにとどめをさした所も見たことがないが。森ではスライムよりも圧倒的に強いシルバーウルフを楽々倒している。


 私は思っている。彼の弱さは演技じゃないのかと。確かな理由なんて勿論無かったのだがレミアさんの質問から考察するに、やはり私の考えは間違っていなかったのだ。


「やっぱり、レクセルさんって本当は強いんですね! それも普通じゃないくらいに。どうして彼はそれを隠すんですか?」


「隠してないのよ。あの子は気付いていないだけ」


 レミアさんが一瞬表情を落とした事に気付いたが、私の好奇心は止まらない。私の姿勢は更に前のめりになっていた。


「気付いてないって。どういう事ですか!?」


 急に私が積極的になった事に驚いているようだ。しかしレミアさんは直ぐに笑顔になり話を続けた。


「あの子は小さい時から冒険者への憧れが強くて、毎日一人で何時間も剣術を勉強していたわ。強くなりたかったのね……でも実は、あの子は元々が規格外に強いのよ────」


 そしてレミアさんは語り始めた。


 彼の本当の父親は嘗て世界を恐怖に陥れた魔王で、そして彼が父親だと思っている写真の男性は、レミアさんの恋人でレックスという名前だと言う。ここまででも驚きだが、その先は悲劇だった。レックスは魔王を倒した勇者だというのだ。正直、頭が痛くなった。


 聞く所によると王国の依頼で魔王を討伐したレックスが、まだ赤子だった彼を連れて戻ったのだそうだ。魔王の玉座の間の奥の部屋で泣いていた男の子らしく。そして、レックスとレミアさんはその赤子にレクセルと名付けた。


「その後。レックスは再び魔王城に戻ったわ。理由は教えてくれなかったの。でも、二度と彼が帰ってくる事は無かった」


「そこで何があったかは誰も知らないのですね。でも、彼が魔王の子である事は何故分かったんですか?」


「銀色の髪と、その内に秘めた力ね……」

 

 当時、魔王は一部の人間の間で『銀色の悪魔』と言われていた。その姿を知っている者は限られているだろうが、それは書籍にも残っている。それだけで決め付けるのはどうか? とも思ったが、彼の内にある魔力を知れた人間が一人いたのだ。


「え!? レミアさんって、聖女様なんですか!?」


 彼の強さは勇者レックスのそれではなく。当然、魔王である父親の強大な力を引き継いでいるのだという。それを知れたのは、レミアさんが実は聖女であり。全ての真実を覗くスキル『神聖なる瞳(セイクリッドアイズ)』の持ち主だからだと言うのだ。


「そうなの、ごめんなさい。だから、あなたに質問したのは最初から私の単なる勘では無かったのよ」


 なるほど。最初から私が彼の力に疑問を抱いていたのはお見通しだったわけだ。とにかく、そんな彼の将来に不安を覚えていたレミアさんは毎日女神様に祈りを捧げていたとか。

 そして彼が五歳になった時。突然、その時が来たのだ。


 女神様が彼に『慈愛』というスキルを与えた。そのスキルは常時発動型であり『対象にどんなにダメージを与えても絶対に殺せない』という効果があるのだという。

 つまり彼は、攻撃力が無いから魔物を殺せないのでは無い。いや。寧ろ攻撃力は尋常ではないのだが、相手は死にたくても死ねないのだ。これって女神というより、悪魔が与える拷問の様なスキルだと思ってしまうのだけど? 良くも悪くも魔王の素質だと言える。


 と、言うわけで。そんな想像を遥かに越えた話は、さすがの私にも手に追えるものではなく。そんな私の戸惑った様子に気を遣ったのかレミアさんは突然話しを変えてきた。


「ところでルカちゃんは、どうして冒険者になったの?」


「私は帰る場所がないから……」


 帰る場所が無いのは本当の事だが、その理由を誰かに話す気分にはなれず。それ以上の言葉が出てこなかった。

 余計に空気を重くしてしまっただろうか? と、そんな私の考えも当然レミアさんには分かってしまうのだろう。彼女はスッと立ち上がり優しく私の肩に手を置いた。


「そう。まあ、色々あるわね。ただ、ルカちゃんにレクセルが必要なら一緒にいてあげてちょうだい。きっと、あの子にはルカちゃんみたいな子が必要だと思うから……」


 それだけを言うとレミアさんは「さあ、今日はもう寝ましょう」っと、笑って話を終わらせた。



 私はベッドに入っても眠る事が出来ず。結局、そのまま朝を迎えてしまっていた。ただ。どれだけ考えても私が思う事は〝これからも彼と冒険がしたい〟という気持ちだったので、深く考えるのはやめにしよう! と決めて私はベッドから起き上がったのだ。

 その後朝食を頂き────やがて王都・ブルームへと戻る時が来た。


「じゃあ母さん、俺達はそろそろ戻るよ」


「レクセル。体には気をつけなさいよ。ルカちゃんも無理しないようにね」


「はい。ありがとうございました」


 リーメル村はとても小さい。家を出てからも、村の門を出る直前まで玄関前で私達を見送るレミアさんの姿は見えていた。私は最後にもう一度レミアさんに大きく手を振って村を出た。



「いやあ。久しぶりの実家だと爆睡しちゃうね」


「フフッ……レクセルさん。ご飯食べたら直ぐに部屋に戻っちゃいましたもんね」


「うん。やっぱり安心感があるんだろうな。ついつい身体が自分のベッドを求めちゃうんだ。そういえばルカは? ちゃんと眠れた?」


 眠れません……とは言えるはずもない。他にも色々と言えない事だらけなのだが。


「はい! 大丈夫ですよ。今回の配達の依頼は、やって良かったと思いました」


「そう? まあ、俺の生まれた村だから楽勝だったな。あとは王都に帰って道具屋さんに配達完了報告しないと。あと少し頑張ろう」


「はい!」


 帰りの森でも相変わらず私の魔法スキルは使えない。だが、彼が魔物を倒す姿に驚きは感じない。それは彼が持つ特殊なスキル『慈愛』も無効化されているからと知ってしまったからだ。

 この森の外に出れば再び、彼が攻撃した魔物が死ぬ事はない。だが死ぬ寸前の状態に陥っている事は間違いないのだ。後は私のチョロい魔法で終わる。と、言うか子供が石を投げても倒せるかも?

 ひょっとして、彼のいたパーティーが倒したというグレートバジリスクは、彼が攻撃していなかったら倒せなかったのではないだろうか。


「森を抜けたらルカに頼む事になっちゃうだろうから。それまでは俺の後ろに隠れててよ」


「はい。ありがとうございます」


 バッタバッタとシルバーウルフを斬り捨てる彼の背中を見ながら私は思う。レミアさんに「今はレクセルに真実を言わないように……」と口止めされたが、そんな事は言われなくても彼には教えない。

 だって。彼が自分の強さに気付いたら私は必要なくなってしまうだろうから。


 私はなんてズルい女だろうか。レミアさんを除けば私だけが彼の秘密を知っている。元々規格外の強さを持っている彼の戦い方を上手く私が導けばどんな魔物も倒せるだろう。

 いや。そうではない────私は彼の役に立ちたい。必要とされたい。そう思い始めているのは事実なのだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ