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このドラゴンは名前があって、言葉も喋れて、ついでにメスであるようです

 

 近付いてくるドラゴンに合わせ腰の剣を抜くと同時に斬る。剣術スキルの居合い斬りだが。正直あの巨体相手に通用するとは思えない。あわよくば一矢報いる事が出来たら良かった。

 ただ、それだけの想いを乗せて。俺の剣とドラゴンの巨体は触れ合った。


 ガキィィンッ! と、想像以上に大きな金属同士が打ち合うような音の後、キィーンという酷い耳鳴りが脳内へフィードバックした。

 しかし次の瞬間。凄い勢いで十メートル程、数本の木をなぎ倒しながら後退していくドラゴンの姿が目に入った。


 その巨体が後退りした事により辺りにはものすごい砂ぼこりが舞い上がり、その砂ぼこりにドラゴンの姿を見失った俺は次の攻撃に備えて剣を正中にかまえ直す。合わせて俺の背後から魔法の詠唱が聞こえ始めた。ルカも援護してくれるつもりなのだろう。


 ところが次の瞬間────「ちょっと、まった!」と、女性の叫び声が突如辺りに響き渡り、俺の張り詰めていた緊張感が散開する。いや。俺だけではなくルカも詠唱を止めたようだ。


 その叫びは女性のものではありながら、明らかにルカとは別の声質だった。しかし俺は一応ルカの顔を見たのだが、彼女は〝私じゃないよ〟っといった感じで首を横に振る。


「ちょ、ちょっと待ちなさい!」


 再度。今度はハッキリと聞こえた。

 すると砂ぼこりの向こうからドシンドシンと、先程とは別物のように動きのキレを失ったドラゴンが歩いてくる。しかも、喋っているかの様にその口が動いている。


「待ちなさい。待つのよ……」


 いや、どうも本当に喋っている。さすがにドラゴンが喋っていると認知するには少し時間がかかったが、現実にそのドラゴンが喋ってるのは間違いないのだ。しばらくして商人のアールが呟いた。


「なんてこった。こいつは、エンシェント・ドラゴンに違いない」


 アールが言うにはドラゴンにもいくつか種類があるらしく、中でも既に滅びたとされているのが『エンシェント・ドラゴン』らしい。そのドラゴン種はとても知恵が高く。長く生きるうちに人の言葉を覚え、話が出来たと伝えられているとか。

 そんな話をアールがしている間、ドラゴンはおとなしく俺達の話が終わるのを待っていた。さっきまでの攻撃的な様子が無いようなので、俺は恐る恐る話しかけてみた。


「俺の言葉がわかるのか?」


 ドラゴンは大きな頭を動かしこちらを見た。その視線に威圧感はあるが殺気は感じない。


「もちろん。私の名前はジルクレイア。あなたも名乗りなさい」


 改めて声を聞くと比較的若い女性のイメージだ。メスのドラゴンだろうか……何歳なのだろうか。気になる事は沢山あるが、とりあえず今はそれどころではない。

 話がわかるならば────と、俺はドラゴンを相手に停戦を試みることにした。


「俺の名前はレクセルだ。えーっと。ジルクレイア? このまま俺達を見逃してくれないかな?」


 その視線が一層鋭くなる。〝見逃すなんてバカを言うな〟と言いたげな目で俺を睨み付けた。やっぱり、そう甘くはいかないようだと俺は覚悟を決めて再び剣をかまえた────


「ま、まって! しかたないわね。強き者レクセル……あなたに免じて、今日の所は見逃してあげてもいいわよ」


 俺が強き者? どういう意味だ? いや。おそらく『強き者』ではなく『強気な者』と言ったのだろう。確かに世界最強の生物であるドラゴン相手に頼みごとをするなんて、かなり強気な行動だったかもしれないが、結果的にそれが良かったのだろう。どうも見逃してくれそうだと、俺がそう思った時。突然ルカが口を挟んできた。


「そんな事言って。本当はあなたもヤバいと思ったんじゃないですか? 自分が助か……り……むぐぐ」


 俺は慌ててルカの口をふさいだ。せっかく丸くおさまりそうなのに彼女が挑発するような事を言い出したからだ。ドラゴンの機嫌をそこねたらヤバい! そう思っていると案の定────


「はあぁ!? 何言ってくれちゃってんの小娘。あんた、一回死んでみる? あんたなんか一撃で殺せるわよ! あたしは、そっちの兄さんに提案してんの。空気読みなさい! 言っとくけどあたしにちょっかい出してきたのは、あんた達でしょ。殺されて当然なのに見逃してもらえるなんて、マジラッキーなんだからね」


 ドラゴンがルカにキレてしまった。口調がすっかり変わっているし相当お怒りのようだ。ここは話題を変えなればならない。


「俺達がちょっかい出したって。どういう意味?」


 ドラゴンは大きな翼をバタバタした。どうやら怒りを露にしているのだろうが、そこから送られてくる突風はかなりヤバい。


「あたしの家に大岩投げ込んだの、あんた達でしょうが!」


 話を聞けば、どうやらこのドラゴンの巣になっている大きな縦穴が近くにあるらしい。そこで眠っていた所を突然、上から大岩を落とされて怒り狂っていたようだ。それで、近くで火を起こしていた俺達を見付けて来たのだという。

 しかし俺達は大岩を落とした覚えは無い。それを懇切丁寧に説明するとドラゴンはモジモジし始めた。相手を間違えていた事が恥ずかしいのか、行き場のない怒りと葛藤しているのか。どちらにしても、これ以上ここにいるのは危険そうだ。


「とにかく、俺達じゃないんで。それにあなたは既に罪の無い人を二人殺してるんだ。それもあなたの間違いで……」


「わ、分かってるわよ。もうあなた達には手を出さないから安心しなさい!」


 ドラゴンはそう言うと大きな翼を羽ばたかせ、辺りに激しい砂ぼこりだけを残して飛んで行った。悪いのは向こうだと思うのだが、とりあえず命拾いしたのは間違いない。

 その直後。

 俺の持っていた剣がパキンッ!と突然折れた。そんな衝撃は加えていないと思うのだが、ドラゴンが去った後で本当に良かった。まさに、九死に一生であるが、そもそも話の出来ない普通のドラゴンだったら俺達は全滅していただろう。


「いやあ。あんた強いんだね! 本当に助かったよ。犠牲になった者達は残念だが、あんたがいてくれなきゃ全員死んでいた」


 と、アールは言う。だが俺は正直、捨て鉢にカウンターを狙いにいっただけで理由は知らないが、剣が当たった瞬間に警戒したドラゴンの方が勝手に距離をとってくれただけなのだと思う。


「本当に助かったよ。とりあえず、死んだ彼等を埋葬してやろう」


 ベールがそう言って直ぐにスコップを取り出して少し離れた所の地面を掘り始めた。俺にとって死んで悲しい二人ではないのだが、同じ冒険者である事は変わらない。


 こうしてドラゴンの犠牲になった冒険者二人を弔った俺達は、その場にとどまる事をやめて直ぐにエデルへと出発した。その後。魔物に出くわす事も、これといったトラブルもなく。夜が明ける頃にはエデルの街に到着した。



 二人の商人は何度も俺達に感謝すると、最後にアールがもう一組の冒険者達の分も完了サインをくれた。生き残った一人は逃げてしまったし、とりあえず貰っておく事にしよう。


「じゃあ。また何かあったら頼むよ。次はあんたを指名させてもらうからな」


 最後まで俺を英雄のように持ち上げていた商人達は、エデルの街の中へと消えていった。これで依頼は完了だ。時刻はまだ午前なので、今からすぐ戻れば効率がいいのだが帰りの分の物資補給も必要だし。何よりも、折れた剣を新調しないと危なくて帰れない。


「ルカ。俺、新しい剣を買いたいんだけどいいかな?」


「御主人様、普通の剣でドラゴンをぶっ飛ばしましたもんね。そりゃ折れますよ」


 どうやらルカには後退りしたドラゴンの姿が、まるで俺が吹っ飛ばしたように見えたようだな。それより、御主人様が定着しつつある。


「そんなバカな。吹っ飛んだんじゃなくて、あいつが後退りしただけだよ」


「そうですか? 私にも御主人様の動きが速すぎて見えなかったんでハッキリとは言えませんが。 それはともかく、武器屋なら向こうの通りです。行きましょう」


 ────だから、その呼び方やめてくれ。そう思いながら俺はルカに手を引っ張られながら武器屋に向けて駆け出した。

 


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