プロローグ・攻撃力ゼロの男、冒険者パーティーを追放される
初日、五話程投稿予定です。
俺──レクセル・バートンは生まれた時から両親とは違う銀色の髪だった。父親にいたっては写真でしか見た事がない。だが、その事について俺から母親に質問した事は一度もなかった。
その代わり。家の農業を継がず冒険者になる事だけは決して譲らなかったのだ。
幼い頃から俺の記憶には一人の『勇者』がいた。誰かは分からない。父親かもしれないし、他人かもしれない。その顔は記憶の中でいつもぼやけていたが、たった一本の剣で道を切り開いて行くその姿に憧れて、俺もいつか勇者になると決めたのだ。
十五歳の成人をきっかけに満を持して【王都・ブルーム】で冒険者登録をしてまだ三ヶ月程だが。既に俺は理解していた。俺の考えは甘かったのだ。
そこそこ戦えると思っていた俺だが、実際には……「お前、使えねぇな」「火力なさすぎんだろ」「もう明日から来んなよ」と、どこのパーティーに入っても直ぐに追放されるという現実を見た。
それでもなりふり構わず多くのパーティーに参加した為、今では『攻撃力ゼロの男・雑魚セル』なんてあだ名が殆どの冒険者に広まってしまった。
本当情けない話だが現状、俺をパーティーに参加させてくれる者は殆どいなくなっていた。
今のパーティーもギルドマスターが頼んでくれたおかげで入れてもらえたのだが────
「おい、雑魚セル。弱いのは攻撃力だけじゃなくて頭もか? そんなんで勇者目指すとかよく言えたな。ハハッ」
黒いフードローブを着た男の、人を小馬鹿にした言い方に俺は唇を噛み締めた。
「ブッシュ。それ以上はやめとけ。────なあ、レクセル。おまえの攻撃力が無い事は大目に見ていたが、さすがに勝手な行動は困るんだよ」
酒場の一角で所属パーティーのリーダー、マルコはやれやれといった感じで頭をかきながら俺に呆れ果てていた。
「マルコの言う通りだ。俺の魔法が間に合ってなかったら、マリンはやられてたかもしれないんだぜ。雑魚セルくんよぉ……おい、聞いてんのか?」
黒いフードローブの男──魔法使いのブッシュはそう言って、自慢の杖で俺の頭をゴツンと叩いた。そして、パーティー唯一の女性メンバーであるマリンも、眉間にシワを寄せて俺に怒りを露にする。
「本当よ! こっちに逃げてくるなんて信じられない。せめて、誰もいない所に逃げてよね!」
それは数時間前。イザナイの洞窟最深部で、見た事のない大きなトカゲの魔物と戦闘になった時の事だ。
ベテラン冒険者の彼らに比べたら自分が雑魚なのは承知していた。だが少しでも役に立たなければ……っと、焦ってしまった俺は、前衛のマルコの横に飛び出しトカゲを斬りつけたのだ。
すると急にトカゲは狂った様に暴れだしたので、俺はヘイトを集めているであろうマルコにその場を任せ、一旦下がる事にした。
しかしトカゲは何故かマルコを無視して俺を追って来た為、後衛のマリン達にも危険が及んだ。という話をクドクドと言われ続けているのだ。
言い訳なんてしたくはない。だがトカゲのヘイトを集めていたのは、ずっと前衛で攻撃し続けていたマルコの筈だ。なのに一度攻撃しただけの、まして攻撃力の乏しい俺の方が狙われたのはイレギュラーなのだから仕方ないじゃないか、と俺は主張したい。
「俺は少しでも皆の役に立ちたかっただけなんですよ。それに何度も言いますが、逃げたつもりは────」
「言い訳なんていらないのよ! 役に立ちたいって? アホなの? あんたスライムすら倒せないじゃん! なのに飛び込んで、しまいに人を巻き込むなんて」
何を言っても言い訳だと切り捨てられるのだが。マリンの冷たい視線と罵声を浴びた俺は余計に何も言えなくなった。
「悪いがもうパーティーを抜けてくれ。面倒見きれない。後さぁ……お前は冒険者向いてないと思うよ」
マルコが言った。〝向いてない……〟その言葉が心に深く突き刺さった。思えばこのパーティーはとても優秀だった。凄腕剣士で有名なリーダーのマルコ。強力な攻撃魔法使いのブッシュ。回復、補助系魔法に優れたマリン。
ギルドでも有名なパーティーだ。ここなら少しは実戦経験を積めるかと思ったが、俺みたいなのは居るだけでお荷物でしかないという事だろう。
「そうですね。俺は向いてないのかもしれません。でも……誰だって最初はそうだと思うんですよ!」
ここをクビにされたら行き場が無い俺は、何とか食い下がろうとマルコを説得しようとした。しかし、その時。突然テーブルの上に、ゴトンッと雑にビールグラスが置かれた。
見ればエプロンをつけた栗色のショートヘアーの女性が立っている。酒場のウェイトレスだろう。どうやらマルコが頼んだビールを持って来たようだ。
「話、聞いてました」
と突然声をかけて来た。そしてウェイトレスは続ける。
「この方達はあなたを邪魔だって言ってるのが分かりませんか? 黙ってパーティーを抜けたらどうですかね」
えっ? 俺に言ってる?────こっわ!
比較的綺麗なウエイトレスのお姉さんだが、柄にもない言葉を強めの口調で言い放った為、酒場全体の空気を凍りつかせていた。
一呼吸置いて、ブッシュがその空気を打破するように笑い出す。
「ブワッハッハッ! この姉ちゃんの言う通りだな。グダグダ言い訳すんなよ雑魚セル。とっとと出てけって、この無能が」
正直ブッシュからの言葉よりも見知らぬウェイトレスにまで嫌われていた事のショックが大きい。俺は自分が情けなくなり、その場から逃げ出すように席を立った。
酒場全体から〝早く消えろ〟という雰囲気が滲み出ている。酒場を出る直前、グチャッと何かが顔に当たった。手で拭ってみると生卵だった。
「おっと悪い。手が滑った」
「卵でお化粧する趣味があるのか?」
「もう冒険者やめるんだってよ。お疲れさん。ハッハッハ」
周りのテーブルの奴ら全員が敵に見えた。
そんなアウェイな酒場を出た俺は、気が付けば冒険者ギルドの扉の前に立っていた。ここは俺の冒険者人生の始まりの場所でもあり、この街で俺が頼れる人もここにしかいないからだ。
「おお、坊主! 調子良さそうだな」
中に入ると威勢のいい声がした。その人は俺が初めてギルド登録した時から良くしてくれた人だ。ギルドのマスターであり、元々Sランク冒険者という肩書きもあるハマン・ラッセルだ。
つい先日、誰も仲間に入れてくれない俺の事をマルコに頼んでくれたのもハマンだった。そう……まだ、先日の話だ。
「ハマンさん。随分と陽気ですね」
「ガッハッハ。隠したってムダだぜ。俺に言う事があるんじゃねぇのか?」
もう酒場での事を知ってるとは、さすが情報の早い冒険者ギルドだ。
「相変わらず情報が早いですね。そうなんです。以前ハマンさんに紹介していただいたマルコさんのパーティーなんですが────」
「それだそれ! 聞いたぞ。お前達、グレートバジリスクを倒したんだってな。これは大ニュースだぞ」
「はい? ぐれーと……?」
「とぼけるな。バカでかいトカゲを倒しただろ?」
驚いた感じで聞いてくるハマンを差し置いて、洞窟で遭遇したあのトカゲの事を思い出していた。ハマンの反応を見る限り、あのトカゲは相当強い魔物だったのだろうか。
それを最後、魔法で片付けたのはブッシュだった。彼は、すごい魔法使いだったのだな。
「その件ですか。本当に情報が早いですね……今朝、洞窟から戻ったばかりなのに」
「まあな。イザナイの洞窟にグレートバジリスクが出たって情報が入って、タイミング良くこの街にいた知り合いのSランク冒険者に討伐依頼を出したんだ。
けど、既に倒された後だったって聞いてな。それで、倒したパーティーの特徴を聞いたらお前達だったわけさ」
偶然の戦闘だったがハマンは上機嫌だ。まさか、その後に俺がクビになった事までは知らないのだろう。
「すいませんハマンさん。実は、そのマルコさん達の話なんですが────」
「いやあ。マルコでも倒せるとは思えない超危険な魔物だからな! 最初は耳を疑ったぜ。Sランクの冒険者でも、出来るだけ戦闘は避けるっていうくらいだからな」
人の話を聞いてくれよ。そう思いながら俺は少し強引に本題をねじ込んでみる。
「はあ……その話しはいいんですが。実は俺、先ほどマルコさん達のパーティーをクビになりました。それでここに来たんですよ」
ハマンはようやく口を止め、俺が言いたい事を理解したらしく。喜びの表情から驚きのそれに変わり、やがて残念そうに「そっかぁ……」と溜め息混じりに洩らした。その直後────
「ええぇぇ! クビですか!?」
突然、女性の大きな声がギルド内に響いた。最初は俺に向かって言ったのか? とも思ったが、そうでは無い。俺とハマンは殆ど同時に声の方へと視線を向けた。
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