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ここは『救国の聖女』の世界。

アロイス目線のお話です!

「コンスタンツェ・フォン・ラッファー!」



 カミラは信じられないと言うように目を見開いた。

 コニー様はカミラを一瞥すると何も言わず席につく。



「……アロイス。彼女はカミラ、といったかしら。出身はメルドルフではないわよね? 言葉に訛りがないわ」


「左様でございます。生まれも育ちも帝都(へベテ)となっております。ひと月前に移ってきたようです」



 俺は書類をコニー様に手渡す。

 書類に目を落としたままコニー様はカミラに質問を投げかけた。



「メルドルフはへベテに比べて過酷な土地よ。それなのにわざわざ移って来たのは、どうして? 仕事を求めてではないのでしょう。……イザークを追って来たの?」


「当たり前でしょ。ヘベテよりも給金の安いこんな辺境に移住する理由が他にあるはずないでしょ」


 メルドルフでイザーク様と私は結ばれる運命なんだから移住しなくちゃいけないんだからとカミラは口元を突き出した。


 二十代中頃であるはずなのに(メルドルフでは大抵の女性は母親になっている年だ)、とても子供っぽい仕草に驚く。

 コニー様も呆れたのか一瞬言葉に詰まってしまう。気を取り直し、再び訊いた。



「イザークへの愛着が強いようだけど。あなた、女中なのよね。イザークとは面識はあるの?」


「ないわよ! でも彼のことならなんでも知ってる」



 ハイデランド騎士団の有望な騎士で一途で真面目な性格だということ。

 侯爵令嬢であり皇太子の元婚約者コンスタンツェに振り回されて迷惑していたということ。

 帝都を追放されたコンスタンツェに無理矢理メルドルフに連れてこられて、酷使されていること。

 浄化の旅でメルドルフを訪れた聖女と恋に落ちたけれど、あっけなく捨てられ絶望していたこと……。


 カミラは語りながらも瞳を潤ませ頬を高揚させる。



(おかしい。厨房の女中如きが領主夫妻と顔を合わせることはない。この女ヘベテでは子爵家の洗濯女だった)



 洗濯女は下級の召使だ。

 下級の召使だとメルドルフでも帝都(ヘベテ)でも、コニー様とイザーク卿と関わることは不可能。

 女の発言は虚偽でしかない。


 だが。



(不思議とカミラから聞かされる話は完全な虚とも思えない)



 まるでその目で見たかのように感じる。

 いや。

 音読ーーーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



(何者だ?)



 コニー様はカミラの話を最後まで聞くと小さく頷いた。



「そう……イザークがね……」


「かわいそうなイザーク様は私が救ってあげなきゃ!」


「でもね、カミラ。あなたの語るイザークは私の知っているイザーク()とは違うわね。彼はすでに私と結婚して幸せに暮らしている。……メルドルフでもヘベテでも知らない人はいないはずなんだけど」


「ハッ。信じないわ。あなたとは偽りの関係でしょ」



「いいこと?」とコニー様は人差し指をカミラに向ける。



「あなたがイザークに恋をしてはるばるメルドルフまで来たとしてもね、イザークにとって私以外の女性はなんの価値もないものなのよ。道端の石や木片と同じ」



 側女になることはできないのだと珍しく強い言葉で言い切った。

 表情からは察せないが、夫に横恋慕する存在を腹ただしく感じているのだろう。


 対してカミラは何のダメージも受けてはいないようだ。



「なんて言い草なの! 最低ね! イザークは優しい子……聖女みたいな子が好きなの! あんたみたいなキツい女なんて好きじゃないわ!」



 聖女。

 再び出てきた。


 優しい聖女なんてものはこの世には存在しない。

 いや聖女はいた。

 

 聖女シルヴィア。

 淫の性質を多く持っており、とても聖人と呼べるレベルではなかっただけだ。

 カミラの語る聖女とシルヴィア、重なるところがない。

 どこの聖女の話をしているのだろうか。

 

 まさか帝室のプロパガンダを間に受けているのか?



(これ以上は無駄だ)



 俺はコニー様に退出を勧めた。



「……コニー様。この女、やはり妄想と現実の区別のつかないようです」


「は? アロイス・ベルル!! 何もわかっちゃいないくせに。部外者が口出さないでよ。現実が見えていないのはあんたたちでしょう?!」



 カミラは立ち上がり、縛られた腕の代わりに椅子を蹴り上げた。

 ガラガラと音を立て椅子が転がっていく。



「コンスタンツェ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!!」



 悪役令嬢?

 なんのことだ?


 コニー様の表情は変わらない。が、額にはうっすらと汗が浮かび、瞳は揺れている。



「『救国の聖女』でコンスタンツェは聖女に追われるただの当て馬だった。それなのに聖女が死んで、あんたがイザーク様と結婚して子供まで作ってるなんてあり得ない! 世界観が台無しよ! なんで設定をぶち壊してくれたの!!!」



 カミラはますますヒートアップする。

 このままでは危険だ。

 狂人は何をしでかすかわからない。

 俺はカミラとコニー様の間に割って入った。



「……アロイス、大丈夫よ」



 コニー様は小さく首を横に振り、



「カミラ。あなたのいう通り、ここは物語の世界よ。でも『救国の聖女』(この世界)のこと、あなたはなぜ知っているの?」


「私は読者だったからよ。イザーク推しだったの。もしもこの世界に来れたなら、シルヴィアにフラれたイザークを慰めたいってずっと願ってたの!!!! 願ってたのに!!!!!」



 ()()

 この世界??

読んでいただきありがとうございます。

吉井です。


ここにきて転生者、しかもちょっとおかしめの子が登場しました。

今回はアロイス目線でのお話ですので、コニーの心情は察するほかありませんがドキドキしているでしょうね。


さて今年の更新もこれで終了です。

1年間お付き合いいただきありがとうございます。

来年もよろしくお願いいたします!


では次回も必ずここでお会いしましょう。

良いお年をお過ごしくださいね。

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