7年という月日は人を変える。
アロイス目線のお話です。
アロイス目線のお話です。
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行政官としてハイデランドに仕えて14年目。
この夏でコンスタンツェ様と共にメルドルフに下向し7年が過ぎようとしていた。
かつては出来上がった組織の中で粛々と働くよりは、新しい環境で自らを試したいとの一心でこの辺境の地まできた。
自分ならばきっと出来る。
できないはずはないのだと胸に抱いて。
ーーーーだが。
7年間で自らの考えの甘さを痛感することになった。
このメルドルフ、想像を遥かに超える厳しい領だったのだ。
地理的に自然災害の多い土地柄であるのに加え穢土によるダメージまで受け、経済は脆弱の三重苦。
さすが『見捨てられた領地』の名に偽りは無し、である。
さらに政治的にも危うい位置にもあった。
ザールラント支配者である現帝室との関係が芳しくないのだ。
コンスタンツェ様がヴローム公との縁組ーーーー先帝が望み成された婚姻だったーーーーを解消したことを切欠にそれこそ目の敵にされている。
おかげで聖女禍から数年経った今でも、近隣の領主たちも“触らぬ何とかに祟りなし“を決め込み関わろうとはしてこない。
孤独、であることは悪いことではないが……。
有事の時の支援も期待できないと同意だ。
(ハラルド皇太子が帝位に就けば変わってくる。今上が薨るまであと数年は難しい対応をせねばならないかもしれない)
それまでに何事もないことを祈るばかりだ。
メルドルフがこれほどまでにうんざりする状況にありながらも、不思議とメルドルフの民やハイデランド旧臣たちで離脱する者はいなかった。
なぜか。
そう。
メルドルフの主人であるメルドルフ女男爵コンスタンツェ・フォン・ラッファーの存在だ。
「私のことはねメルドルフの領主が傀儡だって貶されてもいいのよ。優秀な部下たちがその才能を活かしてメルドルフを発展させ民に幸せをもたらしてくれるのなら、私は人から何を言われても気にしないわ。大いに利用してもらっても構わない。大切なのはね、メルドルフ男爵家ではなくメルドルフの民だから」
いつだったかコンスタンツェ様はそう仰せられた。
「だから民に不利益を与えること、私利私欲は許さないわ。全力で排除するつもりよ。覚悟しておいてね」
例え帝室でも容赦しない、と微笑んだ。
「コニー様、帝室と事を構えるおつもりですか?」
「まさか。戦争なんて馬鹿げたことはしない。戦は負債しかもたらさないわ。勝っても負けても経済的にも人的にも大きなダメージが残るだけよ。私やアロイス、メルドルフにいる行政官が行うことは、戦になる前に戦を防ぐことでしょう?」
「確かに。開戦は外交の失敗ですからね」
他国・他領と開戦すること。
それはつまり文官にとっては自らの施策が失敗だったと公言することであり、最大の恥だということだ。
男の領主は敵と戦ってなんぼと考える者も少なくない。
勇ましく戦うことが全てで後始末のことなど考えもしないのだ。
(あぁこの主人は実に面白い人だ)
おかげで、退屈することもないだろう。
この方の下でなら俺は俺の思うままに理想を作り上げることができる。
この方ならばやり遂げることができる。
メルドルフの希望の旗印となってくれるだろう。
悪くない。
「そういえばアロイス、西部の港湾整備で人足の間でトラブルがあったでしょう? そろそろ報告が上がってもいい頃だと思うんだけど、どうなっているかしら?」
書類を捲りながらコンスタンツェ様が訊いた。
聖女禍により荒廃した霊峰リギで発見されたエメラルド鉱脈。
復興の光と見られていたが資金面で折り合いがつかず一昨年になってようやく採掘が始まったのだ。
しかし未だ採掘量は少なく、東大陸での限られた相手との取引のみとなっている。
現在は希少性でもてはやされてはいるが、そう長くは続かないはずだ。
あと数年もすれば多くの量を産出可能になる。
そうなれば価格も下がるだろう。
それを見越して、西大陸へ輸出することを想定し(西大陸では碧い宝石は珍重されるのだ!)、埠頭と船の接岸できる場の造設を現在おこなっているのだ。
聖女禍の賠償金の多くを注ぎ込む事業だが、輸出入を自らでコントロールできる港を所有する利点は計り知れない。
産業という産業のないメルドルフにとって将来の貴重な収入源になるはずだ。
造港工事は急ピッチで進められているが、問題が一つ。
労働力不足していること。
メルドルフは人口が少なく労働者を雇い入れることが難しい。
そこで他領から人足を雇い入れた。
ーーーーその中に無頼者も混ざっていた。
経歴がどうであれ真面目に働きさえすれば文句はない。
しかし元々法に縛られない輩たちだ。
決まりに従うなどど出来るはずもない。
最初は大人しかったのだが、最近では怠惰な上に現場で騒ぎを起こすようになってきたらしい。
現場では対応できなくなり、十日前にイザーク卿と領兵たちが派遣されたのである。
「先ほど便りが届きました。イザーク卿がうまく処理したようです。やはり荒くれ者の相手には適任でしたね」
書状には到着初日に一人でヤクザ者たちを叩きのめし、二日後には不届き者たちの主人となったようだ。
コニー様は目を丸くする。
「イザークが? 意外だわ。怒ることなんてない優しい人なのに腕力で制圧するなんて」
「おや。コニー様はお忘れのようですが、あなた様の夫君は戦鬼と呼ばれたほどの英雄ですよ。ずいぶん長い間、荒っぽい世界で生きてきましたからね。無頼者たちを扱うのはお手のものです」
「……そうだったわね。あまりに平和だったから、すっかり忘れてた。イザークは騎士だったわ」
聖女禍がおさまってすぐにコニー様は護衛騎士であったイザーク卿と結婚し、以後、大きな動乱もなく平穏な日々を過ごしている。
無愛想で有名だった漢が眉を下げっぱなしのだだ甘い表情しかしなくなれば、優しい笑顔が当たり前となってしまうのだろう。
七年という月日は思っている以上に長いのだ。
「イザーク卿、明日にはバルトに戻られるそうです」
「嬉しいわ。ご馳走用意しなくちゃね。イザークの好きなウナギを採ってくるように、伝えなきゃ……」
突然、叫び声と共に大きな音を立てて扉が開く。
同時に青ざめた乳母が執務室に飛び込んできた。
「コニー様! 大変でございます。アスリッド様とエグモンド様のお姿が見えなくなりました!!」
読んでくださってありがとうございます。
吉井あんです。
アロイス目線のお話、2話目となりました。
あと2話くらいで終わる予定です。
(お話自体も完結です!)
最後までお付き合いくださいね。
ブックマーク・評価・いいねありがとうございます。
とても嬉しいです。
☆webtoon版のお知らせ☆
本日、12/3(土)18時 comicoさん配信の88話をもちまして完結いたします。
長らくご愛顧いただきありがとうございました。
他サイトも順次完結となっていくと思われます。
この機会にぜひお読みいただければ幸いです。




