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アロイス・ベルルは野望を抱く。

webtoon完結記念で更新です。


アロイス目線のアロイスの過去のお話です。

※アロイス目線の番外編です。

========================



 アロイス、お前は他人を苛立たせる天才だ。


 ほんの子供の頃から繰り返し聞かされた言葉だ。

「こまっしゃくれた生意気者」と侮蔑を込めて言い放つ異母兄のその醜い顔を目にするたびに、幼いながらも思ったものだ。



「なんと阿呆なことだ。なぜ自分の間違いを認めないのだろう?」



 と。

 まぁそんな風に考えてしまう俺も俺なのだが。

 当時は大人からなぜそこまで厭われるのか見当もつかなかった。が、今なら理解できる。



 ――――ただただ目障りだったのだ。



 なにせアロイス・ベルルは異母兄達とは違い、桁外れに優秀なのだから。



 幼い頃より俺は特に努力なしでも誰よりもうまく立ち回ることができる子供だった。

 十代前半には一人前の番頭のように何ごともサラリと(こな)すこともできるほどだった。


 何件もの立ち消えそうになった商いを蘇らせ、利益を上げる。


 やればやるほどに成果が出る。当時の俺にとって何よりも喜びだった。

 当然、商人だった父は未子の俺を称賛し寵愛した。


 当主から愛された上に生意気しか言わない鼻持ちならない小僧が目の前にいたとしたらどうするか?



 (当然、いじめ抜くだろうな)

 

 

 嫌味の一つでも言いたくなるのが人間というもの。

 特に、異母兄にとって俺は癪に触る存在であったのだろう。


 小さな小間物屋の娘だった後妻から生まれた役立たずでなければならない末の子が、名門商家出の前妻の子よりも出来が良いなどと決して認めることなどできない。



(生まれではなく実力のみで評価されるべきだ。血脈を重んじる貴族じゃあるまいし)



 常に思う。


 ベルルは平民で、しかも商売人だ。

 商売は他者に先んずる眼力と胆力が何よりも重視される。

 他人を陥れても断行できる冷淡さと行動力。そしてどれだけの富を家門にもたらすか。

 血統のみにあぐらをかいているようでは先が知れるというものだ。


 ならば。


 ベルルは俺を慈しむべきだ。

 俺には成すことができるのだから。



 だが。

 現実はそうはならなかった。


 それは十四になった夜のことだった。



 真夜中の寝台の上で俺は左頬に出来た青い痣をさすった。

 昼間、虫の居所が悪かった一番上の兄に強かに殴られたのだ。

 いや、ひどく打ちのめされた。


 番頭から頼まれ雲行きの怪しかった兄の事業に少しばかり梃入(てこいれ)をしたことに腹を立てたから、らしい。

 どうにもバカらしい理由だ。

 愚兄が言うには年上である自分を適当にあしらったのもいけなかったようだ。



(くそが。俺にもう少し力があったらこんなことはさせなかったのに!)



 深夜になっても痛みと悔しさで悶々とで眠れなかった。

 そんなところに盆を掲げた母が現れたのだ。



「昼間の事、きいたわ。お兄様は母違いとはいえ血の繋がった弟に本当にひどいことをする……」



 傷の手当をしに来たのだと母は手際よくテーブルの上に薬品を並べる。



「アロイス。母さん思ったのよ。ベルルの家はお前とって毒にしかならない。ベルル(ここ)はあなたの居る場所ではないんじゃ無いかって」



 母の目には涙が浮かんでいた。

 母は後妻として入った婚家で苦労して生きている人だ。

 善良で心優しい女性だが、唯一の子が異母兄から虐待を受けていると知ってからは自分を責めてばかりいる。


 我が子と兄達との諍いを聞き居た堪れなくなって真夜中というのにやってきたのだろう。


 俺は頬の痛みに顔を歪ませ、



「母さん。できるならそうしたいけど。俺を必要としてくれる所なんて、ザールラントにあるはずがない。血のつながったベルルの家でさえも異端扱いするじゃないか」


「そんなことはないわ。アロイスを必要とする場所は必ずあるわ。世界は広いのよ」



 母はそっと左頬に手を当てた。

 夏だというのに随分ひんやりとしていて気持ちがいい。



「あなたの夢は何? このままベルルで三番手としてくすぶって生きていきたいの?」


「俺の夢は……」



 商売を始めてのし上がるのもいいが(おそらくこれが一番簡単だ)、本当にやりたいことは、



 ――――(まつりごと)だ。



 政策を練り、実行する。

 民と領に利益が出る術を巡らす。


 それを自らの理想とする組織で行いたい。

 もしくは作りたい。



 しかし。

 現実は不可能だ。


 ザールラントも各地にある貴族が支配する領も、民を治め法を定めるのは貴族とその血族のみが許されているのだ。

 平民には望むことすらできない。


 所詮は子供の夢だ。


 俺はため息をついた。



「夢はあるよ。やりたいことはある。笑わないでほしいんだけど、俺は国を……いや人の為になる組織を作り運用したいんだ。皆が幸せで暮らせるように」


「……そう。素敵な夢ね。じゃあ、行くべき場所は一つだけね」



 母は持って来たのであろう薬瓶の蓋を開け、頬の傷に軟膏を塗った。

 薬草の青臭い香りが鼻につく。



「アロイス。ハイデランドにお行きなさい。ハイデランドを治めるラッファー家は代々先進的な考えをもつ家門なのよ。特に今の当主である侯爵様は、才能さえあれば年齢も身分も問わずに臣下として取り立ててくださるそうよ」



 お前の才覚をハイデランド侯爵閣下はきっと認めてくれるわと微笑みながら母はガーゼを当てる。



(ベルルを出て、ハイデランドの家臣に? 平民の俺が??)



 ハイデランド。

 この帝国の穀倉地帯にあるラッファー家が治める豊かな領。


 かつては一つの国家であった。

 二百年前、初代ザールラント皇帝の起こした統一戦争末期に自ら帝国の軍門に降り、以降は帝国の忠臣として現在に続く。


 最後のハイデランド王の残した“戦禍に苦しむ民を見捨てることはできない“という名言を家訓とし、民第一の施作を講じている。

 当代のハイデランド侯爵は名君と評され、ラッファー家に忠誠を誓う最強と名高い私設騎士団の存在も魅力的だ。


 けれど……。



「俺がいなくなったら……」



 ベルルは没落してしまうだろう。

 父親はまだしも凡才の兄ではどうにもならない。


 母は首を振り気丈に笑った。



「ベルルのことなんて気にしなくていい。あなたが自由に生きることのほうが大切よ。もちろん母さんの事も心配しなくてもいいのよ。母さんは強いんだからどうとでもなるわ」


「母さん……」


「アロイス、あなたはもっと自分に素直に生きていいのよ。あなたが幸せであることが大事なの」




 そして。


 俺はベルルの家を出た。



 後ろ髪を引かれないでもなかったが、これから先のハイデランドでの未来の方が優った。


 新しい土地、新しい環境でどんな人生が待っているのだろう。


 考えるだけで胸が躍った。

 ベルルは厳しい道を歩むことになるだろうが、恨みたいのなら恨めばいい。


 俺は俺を必要とされている場所で生きるだけだ。

読んでいただきありがとうございます。

お久しぶりです。

吉井あんです。


この度、webtoon(タテヨミ漫画)化した拙作『婚約を破棄された悪役令嬢は荒野に生きる。』が2022年12月2日のcomicoさん配信をもちまして完結ということになりました。

2021年8月半ばから始まり1年4ヶ月。

全88話という大作となりました。

ご愛顧いただき本当にありがとうございました。

関わってくださったクリエイターの皆様にも感謝いたします。


それに合わせて外伝っぽいものを書いてみました。

アロイスさんのお話です。

楽しんでいただけたら嬉しいです。


来週も同じ時間に更新できたらいいなと思います。

また読みに来てくださいね。

では。

皆様に多謝を。

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