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誰よりも幸せになってほしい。

番外編です。

本編13話あたりのお話です。


若干甘いかもしれません。

(どうか、このメルドルフに災禍が訪れることなく、領民が皆穏やかに過ごす事ができますように)



 神に願う事があるのならば、これだけだ。


 ここは小説『救国の聖女』の世界。

 登場する人物には創造主(さくしゃ)から役割がふられている。私は悪役で主人公であるシルヴィアの敵役(そして脇役)、だ。

 コンスタンツェ・フォン・ラッファーは小説では悪女と(そし)られロマンスを盛り上げるための当て馬仕様(キャスト)に過ぎないのだ。


 けれど、現実は違う。

 

 私はこの世界に転生し、ハイデランド侯爵令嬢として、皇太子の婚約者として、その地位に恥じぬように生きてきた。

 正々堂々と、前を向いて生きてきたのだ。

 ウィルヘルムにもシルヴィアにも、誰にも非難されるいわれはない。


 それでもなお筋書きだからと創造主から悪女を強いられるのは、理不尽極まりないと思う。

 が、私だけが不利益を被るのならば、どんな苦痛でも受け入れる覚悟はできている。


 ただ。

 罪もなく、名も無く、懸命に毎日を生きているメルドルフの民と美しい大地が、シナリオ通りの災禍で苦しむのを見過ごすことだけは、どうしてもできない。

 メルドルフの主人である私には彼らを守る責任があるのだ。



(お(まじな)いは占いと同じ。気休めっていうのはわかってる)



 例え叶わないとしても、この世界の神という存在に、この祈りがほんのわずかでも届く可能性があるのなら、すがってみたい。



(もう少しすればメルドルフに災禍が起きるでしょう。(わざわい)は土地や民の命だけじゃないわ。イザークも奪っていく……)



 ――聖女シルヴィア。


 この世界の主人公に、思うがままに蹂躙(じゅうりん)されるのだ。

 シナリオで決められているとはいえ、その他大勢(エキストラ)だとしても、大切なものを簡単に奪われていいものなのか。



(だめよ。そんなこと)



 まだ災厄までは時間はある。

 どこかに私ができる事があるかもしれない。



(でも、どうやって……? 脇役の私が話を変える事ができるの?)



 見当もつかない。

 けれど私の対処でメルドルフの未来が決まってしまうのは確かだ。

 妙案が立てられなかったら、このまま無策のままだとしたら。

 民の行く末も大切なものも失ってしまうだろう。

 

 重圧で胸が苦しい。

 窒息しそうだ。



(怖い。誰か、誰か……。私を助けて……)



「コニー様?」



 遠慮がちにイザークが声をかけてきた。


 私は瞼を開ける。

 いつの間にか、皿の中の芯が燃え尽きていた。

 どれくらいの時間思いに(ひた)っていたのだろうか。



「あぁ、ごめんなさい。どれくらい経ったかしら?」


「ほんの数分程度です。それよりも問題ありませんか? ずいぶんお辛そうです。医者を呼びましょうか?」


「大丈夫よ。なんでもないわ」



 私は息を整え、両手で自らの頬を叩く。



「メルドルフのこれからを考えていたの。頑張らなくちゃいけないなって。……ねぇ、イザークは何をお願いしたの?」


「私の願い、ですか。このような機会ではいつもは験担(げんかつ)ぎも兼ねて同じことだけを祈るようにしていますが、今日は別のことを願いました」



 イザークは皿を布に包み、腰に下げた鞄に収めながら、



「コニー様がお幸せであるように、です」

「え……」



 思わずイザークの顔を見返す。



「自分のことではなく、私のことを願ったの?」


「はい。コニー様はこれまでも大変な苦労をなさってこられました。ですので、これからの人生は誰よりもお幸せになっていただきたいのです。メルドルフの領主としてではなく、お一人の女性として。私も助力ができればと願っております」



 イザークはいつもと変わらぬ様子でいう。



『主人の幸せを願う』

 護衛騎士として百点満点な答えだ。


 でもそれは騎士として領主を思うがために出た言葉だろうか。別に本心があったりしないだろうか。

 驚くことに、そうあって欲しいと心のどこかで思う自分がいる。


 もっとイザーク自身の事が知りたい。



(これイザーク本人の好意と思ってもいいのかな)



 私がイザークにかすかに感じている何かのように、イザークも同じ気持ちを持ってくれているのだろうか。

 イザークの顔を盗み見るが、薄暗いせいか表情はわからない。



「嬉しいわ。ありがとう。すごく気が楽になったわ」


「いいえ。お役に立てて幸いでした」


「これからも私を助けてね。イザーク」


「かしこまりました。命がある限り、コニー様、あなた様をお支えいたします」



 その時。

 焚き火が大きな音を立てて爆ぜ、激しく燃え上がった。

 周囲がパッと明るくなる。


 一瞬。

 イザークの横顔が闇に浮かぶ。

 そこには夜目でもわかるほどに頬を赤らめ破顔したイザークがいた。



(ウソ……)



 堅物のイザークがあんな表情するなんて。

 反則だ。


 私は口元を手で覆い、そっと顔を伏せた。

番外編10話目をお届けします。


番外編も10話……早いですねぇ。

次回で一旦お終いということになります。

完結にするかこのまま連載中にするか、悩み中です。


ブックマーク・評価、たくさんのpvありがとうございます。

読んでいただけることが幸せなんだなと実感しています。


次回もお会いできることを祈って。

※週に2回程度の不定期更新です。次回は土曜日の更新予定です。

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