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【完結&漫画化】婚約を破棄された悪役令嬢は荒野に生きる。  作者: 吉井あん
第4章 『救国の聖女』完結する。
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66.なかったことにしよう。守るべきもののために。

「私に近づかないで!」



 シルヴィアは大声をあげ獣のように威嚇する。



「こっちに来ないで! 触らないでよ!!」



 手足を激しく動かし抵抗する。


 が、イザークにあっさりと押さえつけられてしまった。

 シルヴィアは華奢な女性。屈強な男性に勝てるわけはない。


 なれた手つきでシルヴィアを縛り上げるイザークを眺めながら、私は必死に思考をめぐらせた。


 最も良い手立てはなにか。

 アロイスがいない今、自分で考えて判断せねばならない。



(うん。これしかないわ。メルドルフが干渉を受けずにいられる術は)



 この考えも悪くはないはず。

 きっとメルドルフもハイデランドも帝国から咎を受けることはないだろう。


 逃げられないように手足を縛られ地面に這いつくばったシルヴィアは、容姿の美しさもあり見ている者の哀れを誘った。

 手を差し伸べたい衝動が走る。

 だが私は感情を抑え、悪女のように眉をあげ思いっきり軽蔑した態度を作った。


 ここから一芝居うたねばならないのだから。



「まぁ恐ろしいわ。なんてことでしょう。聖女様の名をかたるなんて、神をも畏れぬ不届きな行いを……。恥知らずな方」



 私はあえて冷やかに言い放った。

 売れない大根女優のようなあからさまな棒読みに、自分でも驚く。声がひっくり返らなかったところだけは良かった。



()()()()()()()()()()()()()、世も末だわ」



(シルヴィアの失踪はまだ公になっていないはず。ここにいるシルヴィアを聖女に憧れた気の触れた女だということにしてしまえば、帝国からの追求も”知らぬ存ぜぬ”でかわすことができる)



 常識的に考えてみれば、遥か彼方の女修道院からメルドルフまで瞬間移動するなんてことは、この『救国の聖女』の世界でも不可能だ。


 今ここにシルヴィアがいること。

 メルドルフに存在することの方が不自然なのだ。

 本物の聖女は修道院の奥深く祈りの日々をおくっているはずなのだから。


 だからシルヴィアとよく似た女が自らが聖女と偽りメルドルフ(わたしたち)がそう判断してもおかしくはないだろう。


 そう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()



(修道院からこちらに一瞬で来る手立てなんてないわ。きっと隠し通せる)



 シルヴィアは私の意外な言葉に驚いたのだろう。しばらく唖然とし、やがて喉の奥からしわがれた声を洩らした。



「コンスタンツェさん、頭どうかしたんじゃない。私はシルヴィアよ。聖女シルヴィアは私よ」


「そうはおっしゃられても……。何処のシルヴィア様でしょうか? 私の知る聖女様は今は皇帝陛下の御加護の下、修道院にて心安らかにお過ごしになられておられます。そんな聖女様がこんな辺境にいらっしゃるわけがありません」



 私はシルヴィアの後ろで警戒を怠らないイザークに目配せをする。



「そうでしょう? イザーク卿」



 心得たとばかりにイザークは微かに頷き、大げさな仕草で首をかしげた。



「……左様でございますな。聖女様は帝国にとって、至宝も同じ。この辺境メルドルフに先告げもなくご降臨なさることなどあり得ません」


「そうよね。聖女様ではないわよね」


「コンスタンツェ様。私は災禍時に聖女様のご尊顔を拝見させていただいたことがございますが、この世のものとは思えぬほどに神々しく清らかであられました。この女人とは天と地ほど異なります」



 私とイザークの様子から、シルヴィアを囲む領兵たちも空気を読み同調し、『もっと美人だった』『神聖力がすごかった』『物腰が上品だった』など好き放題、騒ぎ立てた。



「たしかに皆の言うとおりだわ。聖女様はもっとお美しくいらっしゃった。この方は下品だし、似ても似つかないわ。偽者であればこの荒野に置いていってもいいけれど……」


「コンスタンツェ様。メルドルフで偽聖女の亡骸を晒すのは良い気がしません。とりあえず領都に連行し然るべき処分を下すべきだと」


「そうね。そうしましょう」



 私は領兵にシルヴィアを荷馬車に乗せる様に命じ、そっと息をついた。

 

 これで何とかなるかもしれない。

 表向きはメルドルフとハイデランドは無関係になるはずだ。



「このクソ女!!!」



 両脇を掴まれむりやり立たされたシルヴィアは、前につんのめりそうになるほどに身を乗り出した。



「あんたなんか死んでしまえばいい! レディ・コンスタンツェ。いいえ、異端者。覚えてなさいよ。呪ってやるから!!」



 と酷い悪態をつき私に向け唾を吐いた。


 唾は私の足元に弧をえがいて落ちる。夏の太陽に焼かれた乾いた大地の中にあっという間に吸い込まれていった。


呆然とする私を代弁するように「この無礼者め!」とイザークが叱責し、シルヴィアに猿轡さるぐつわを嵌める。


 大きな瞳に涙をため、それでも抵抗するシルヴィアは、最後には領兵に引きずられながら荷馬車に詰め込まれることになった。


 シルヴィアを見送りながら、私は唇をかたく結ぶ。



(ううん、違うわ。シルヴィア。私は過去から完全に解放されて幸せになるの)



 私は呪いになんか負けない。

 この大地とともに生きていくのだ。

66話をお送りします。


シルヴィアの行く末も見えてきました。

少しずつ問題がクリアになってきています。


ブックマーク評価ありがとうございます!

感想もいただきました。

嬉しいです!!!!!

落ち込んでいても感想をいただけるだけで立ち直れます笑


次回も読みに来てくださいね!!

皆様に他者を。

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― 新着の感想 ―
[一言] コニーの判断は正しいと思います。 厄介なものはさっさと処分するに限ります。 最後にシルヴィアが本性を表したように、生かして情けをかけても逆恨みし、シルヴィアを殺したとしてもコニーを恨むでし…
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