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【完結&漫画化】婚約を破棄された悪役令嬢は荒野に生きる。  作者: 吉井あん
第4章 『救国の聖女』完結する。
61/92

61.民と私の喜び。

今回かなり甘めです。

苦手な方はご注意ください。

 旅の目的地は霊峰リギの麓、穢土による被害を受けた地方に決まった。アロイスの手配した調査団を視察する、という名目の休暇バカンスである。


 旅はとても順調だ。


 夏の爽やかな景色は美しく、車窓から眺めるだけでも心が躍る。


 以前来た時は穢土の浄化の旅。

 ひどく息の詰まる行程だった。


 冬の最中の雪化粧された大地もそれはそれで風格があって素晴らしかったけれど、生命力あふれるこの季節もまた魅力的だ。



(それになんだか街道の雰囲気も変わったわね)



 下向する時も浄化の旅の時も、ぴりぴりとした緊張感に支配されていた街道周辺が、いつのまにやら穏やかな雰囲気につつまれているではないか。

 明らかに治安が良くなっているということだ。


 かつては大勢の護衛を連れて移動するのが当たり前であった。

 今回、最低限の人員の同行者たち――護衛としてイザーク直属の小隊と侍女が数人のみだ――しか用意しなかったのだが、旅路に不安を感じる事はなかった。

 嘘のように平穏だ。


 軍備面を担当しているイザークの施策がうまくいっている、ということだろう。

 政治が安定し、治安も同じように引き上げられたのだ。


 たしかに道すがら通りかかったどの村々も、領民の表情には未来への希望が浮かび、実りの喜びと活気に満ちあふれていた。

 帝国から打ち捨てられた辺境の領、死に体であった領が、大きな災害にみまわれたにも関わらず、メルドルフの民の気概によりここまで立ち上がることができた。


 私たちの対応もあるだろうが、すべては民の力だ。

 なんと尊い人たちなのだろうか。


 統治者が変わるだけでこれだけ変わるのだ。

 領主として肝に銘じておかなければならない。



(本当に領も民も美しいわ。精一杯努力しないといけないわね)



 領主が私でよかった、そう思われるように。



 私たち一行は行く先々で領民から歓迎を受けた。

 貧しいながらも心のこもったもてなしに、民に望まれているのだという実感が湧く。

 ただ領民の、特に若い女性のイザークへの眼差しに熱がこもっているのは、ちょっと気になったけれど。


 イザークも確信しているようで、



「……妬いておられますか?」



 としたり顔で囁くのも無性に腹が立つ。



「そんなことないわよ」



 強がって言ってみるが、イザークにはお見通しのようだ。不敵な笑顔をうかべ、



「私は妬いていますよ。あなたの事を劣情を持って眺めている不届きな男どもが多いので。あなたは私のものだという事を、分からせてやりましょうか」



 などと鯉口を切りながら言うのだ。


 結婚前の実直で堅物、融通が効かなかったイザークはどこに行ったのだろう。

 イザークの一言で感情が揺さぶられるほどに、今では私の方が手玉に取られてしまっているじゃないか。



「もう。あなたの勝ちよ、イザーク。あなたは最高の恋人で旦那様だわ」


「光栄です」



 そしてイザークは決まって頬か額にキスをした。

 唇ではないのは褒めてあげてもいいと思う。


 でもこれを人前でやっちゃうところがイザークの図太いところというか、何というか……。



「見苦しいかしら?」



 とある村の宿屋でハイデランドから長く仕えてくれている侍女アルマに訊いてみた。アルマは私の寝仕度をする手を止め、



「いいえ。むしろ旅先でも平常運行で安心致しますわ。イザーク様のコンスタンツェ様への愛情表現を一日一度は拝見しないと、こちらも調子が出ませんから」



 慣れたものだ。

 いや、慣れ過ぎて恥の基準はどうなのだろう。


 初めて目にした領民たちは騒ぎ立てるけれど、最も私たちに近い場所にいる彼らは、領主夫婦の領主館で行われる日々のやり取りを見ているだけに、ここ最近は完全スルーしてくれている。

 助かる。助かるのだが……。



「でもイザークには自制心が必要だと思うわ」


「左様でございましょうか。夫婦仲が良いというのは、素晴らしいことです。コンスタンツェ様が旦那様から愛されていらっしゃるということでございますよ。メルドルフの女領主様とハイデランドの英雄が、損得抜きの愛情で繋がった結婚をなさった。メルドルフにとっても、ハイデランドにとってもこれ以上の悦びはありません」



 前の方はいけ好かない方でしたからと侍女は声をひそめた。

 私が受けた仕打ちを見知りしている侍女である。相当腹に据えかねていたらしい。



「いけ好かないは言い過ぎよ。でもたしかにそうね。ひどいお方だったわ」


「コンスタンツェ。旅先とはいえ二人の寝室で他の男の話など聞きたくはないですよ」



 いつの間にかイザークが寝仕度を整えて入ってきていた。

 愛称ではなく名で呼ぶところに、イザークの昂りを感じる。


 空気を読んだアルマが頭を下げ、そそくさと退出した。

 私はアルマの背中を見送って、イザークに手を伸ばした。



「分かっているくせに。意地悪だわ、イザーク」


「ええ、全部分かっています。あなたが私以外に揺らぐことなどないことも」



 イザークが上機嫌で寝台に腰をかけ、軽くまとめた私の髪をゆるりとなでた。

61話をお送りします。


今回、若干甘めのお話なので前書きに書いてみました。

甘めのお話の時は一言入れた方がいいでしょうか?


ブックマーク評価ありがとうございます。

皆様の声が原動力です!

励みにさせていただいています。


次回の更新予定次回は13時台になります。

ぜひ読みに来てくださいね。


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