48.帰京。
メルドルフから帝都までの道のりは馬車で1週間。
帝都から下洛した時。
事情があったとはいえ、同行する者たちも最小限、傍目から見るとずいぶん惨めなものであったと覚えている。
一年が経とうとする今、あの時とはまるでちがっていた。
私たちは惨めさなど微塵も感じさせず入京したのだ。
メルドルフの紋章が入った四頭立ての馬車に乗り、イザークの直属の部下である鍛え抜かれた領兵たちとともに領主としての格式を保って堂々と。
(婚約破棄を言い渡されてほぼ一年で、こんなに変わるだなんて)
私自身、思いもよらなかった。
かつての皇太子に弄ばれ捨てられた惨めな私はもういなかった。
ここにいるのは婚約を破棄された悪女でもハイデランド侯爵令嬢でもない。
メルドルフのコンスタンツェ・フォン・ラッファーだ。
爵位こそないが、帝国でも稀な女性として一つの領地を治める領主。
だから恥じることも恐れることもない。
例え帝国貴族からどんなに卑下されようとも。
と心の中では思っているし、間違ってもいないと思う。
ただ皇帝陛下の主宰する舞踏会の会場でのメルドルフの伝統衣装を身にまとった私とイザークは、明らかに異質であった。
好奇心と驚愕の混ざった不躾な視線が四方から突き刺さる。
(たしかに浮いているわね)
つい自嘲してしまう。
今年の社交界の女性の流行は、襟ぐりが大きく開いたオフショルダーに限界までコルセットで絞った細い腰と大きく広がった裾であるらしい。
似たスタイルの豪華な装飾が施されたドレスの海の中では、かえってメルドルフのシンプルさは目立ってしまっていた。
けれど女性のドレスを見て思う。
(これが女らしく優雅?……正気なのかしら?)
上半身がほぼ丸出しともいえる、角度によれば胸が全て見えてしまうかもしれない状態は、さすがに露出が多すぎて下品ではないか?
(田舎暮らしに染まった私がきっと無粋なのね)
辺境の貧しく保守的なメルドルフにいただけに、貴族社会の大胆さに目を丸くするばかりだ。
メルドルフの鮮やかな刺繍と着る人の身体の線にそった丁寧な仕立ては、露出は少なくとも、帝都の最新デザインのドレスにも負けていない上品さがあると思うのだけど、分かってもらえないのが悔しい。
「久しぶりだけど、やっぱり社交界は好きになれないわ。値踏みするような視線を全身に浴びなくてはならないなんて、拷問ね。ほんと人を珍獣を見るかのようにジロジロみなくてもいいのに」
と思わずイザークに愚痴ってしまう。
「……コンスタンツェ」
イザークは私を愛称ではなく、あえて名前で呼ぶと額に口づけをする。
「それはあなたがここにいる誰よりも綺麗だからですよ。着飾ったご婦人方よりも、ずっと美しいのですから。……私はあなたに向けられる男の視線が耐えられません。許されるのなら、全員斬り捨ててしまいたいくらいです」
熱のこもった言葉に、私は面映くなり顔を伏せてしまった。
イザークの融通が効かないほどの堅物っぷりはどこに行ったのか。
照れ臭さすぎてしばらく夫の顔を見ることができなかった。
「あ……ありがとう。イザーク。あなたも素敵よ。メルドルフの礼装がよく似合ってるわ」
「光栄です。コニー様に褒めていただけるのは嬉しいですね」
イザークは軽く私を抱きしめる。
私と結婚してからはイザークもメルドルフの服だけを身につけるようになった。
ハイデランド騎士の徽章で飾られた礼服も凛々しかったが、シンプルなメルドルフの礼服の方が、イザークの肉体的な魅力が引き立つような気がする。
同じように考えるマダムたちも多いらしく、イザークに注がれる視線は私以上だ。
気にする様子もないイザークだが、ちょっと気持ちが落ち着かないのは仕方のないことかな……。
「これはこれは。人前だというのにお熱いことだ。かつては社交界の頂点にいたというのに、いつのまにか礼儀も知らぬ田舎者に落ちぶれたようだな」
嘲笑う声に、私はハッと我にかえる。
「えー、なんて貧乏くさい格好してるんですか、コンスタンツェさん。社交界の華が台無しですね」
一番会いたくなかった相手、ウィルヘルムと聖女シルヴィアがそこにいた。
48話をお送りします。
話数が増えてしまったので、章に分けてみました。
いかがでしょうか?
PVブクマ感想ありがとうございます!
活動報告にもコメントいただきました。
ほんとうに嬉しくて……。
ありがとう!
では皆様と次回もまたお会いできることを祈って。




