45.あなたの思うようにすれば良い。
どこまでも、どこまでも付きまとう原作の鎖。
まるで呪いのようだ。
自分が気にもとめず、無視しても向こうからやってくる。
私はこの辺境の地で密やかに生きていきたいだけ。
それなのに終わったことをほじくり返して、何としてでも表に引きずり出そうとするこの流れが恨めしい。
創造主もそろそろ放っておいてくれないものか。
私はただの不運な悪役で、メインキャラクターではないのだから。
翌朝、アロイスとイザークが執務室に揃ったところで話を切り出した。
「アロイス、イザーク。私、求婚されたの」
「は? どこの物好きからでございますか?」
メルドルフの筆頭行政官は不機嫌そうに訊く。
帝国との交渉後の処理に時間がかかってしまい、ほぼ徹夜したらしいアロイスの目の下には、濃い隈ができていた。
(疲れているのは分かるけど)
物好きは無くない?
確かに婚約破棄された不名誉持ちかもしれないけれど。ゲテモノ扱いしなくても。私を好いてくれている人もいるわけだし。
「物好きかどうかは分からないけれど、相手はあのハラルド殿下よ」
「なんとまぁ……。また皇室のバカどもが性懲りも無く、ですか。宮廷から追放したコニー様に再び求婚するなんて、さすが厚顔無恥の畜生。一体あの方々の脳はどうなっているのか、詳しく検分してみたいですね」
疲労のせいでアロイスの毒舌フィルターが解除されてしまっているようだ。
「コニー様、それでどうなさるおつもりですか?」
私はチラリとイザークを見る。
どことなく顔色を悪くしたイザークは、そわそわと落ち着かない様子で、私と視線を合わそうとしない。
「もちろん断るわ。ウィルヘルムの弟と縁付く気なんてさらさらないの」
私の答えにイザークが脱力し椅子の背にもたれかかる。
大男で強面なのに、どこかかわいらしい。
アロイスは私とイザークを見比べると、片方の眉だけわざとらしくあげ「左様ですか」と頷いた。
「……政治的には中枢と繋がっていた方が何事にも有益。ですが、現在のカスだらけの皇族にそれ程の価値があるとは思えませんし、むしろハイデランド縁者である方が断然重要です。コニー様は侯爵閣下の御令嬢。故に、優先されるべきはコニー様のお心になります。あなた様の思うようになさったらいい」
上司の我がままを全肯定してくれる部下。
なんてありがたいんだろう。
「本当に大丈夫なのね? メルドルフに被害はないのね? 賠償金渋られたりしないかしら」
「皇帝の出方次第ではありますが……。お気になさることではありません。この程度どうとでもなりますし、します。あぁコニー様が望むならば、帝位もご用意することも可能ですが? なぁに易いことです。まずハイデランドの閣……」
「ア……アロイス、ちょっと落ち着きなさい。私はそんなこと望みもしないわ。このメルドルフで皇室に煩わされることなく、民と共に静かに生きていけるだけでいいのよ」
「ふむ、メルドルフに骨を埋める覚悟があるということですか。大いに結構でございます。では早々に民に表明いたしましょう。その折りに、コニー様の隣にイザーク卿が立っていれば尚よろしいのですが」
「え、アロイス? ちょっと突然、何を……」
私は思わず赤面してしまう。
領主の隣に立てる者は配偶者だけだ。
つまりはイザークと結婚しろと言われているようなものだ。
「皇室からいちゃもんを付けられる前に婚約……いいえ結婚してしまったほうが、メルドルフとしては吉です。配偶者のある者を無理矢理奪うなどすれば、皇室の評判は地に落ちます。クズの巣窟の皇室ですが、そこまでは愚かではないと思います。ハイデランド侯爵閣下も二度目は絶対に許さないでしょうし」
理に適っていて反論すらできない。
「コニー様のお心次第です」
「私が決めるのね」
神や皇帝に命ぜられるのではない。
誰かに選ばれるのではなく自ら選ぶのだ。
メルドルフの領主として、否、コンスタンツェとして。
私はイザークの方へ向き直す。
照れたような困ったような表情のイザークが眩しく見えた。
45話をお送りします。
ブクマ評価ありがとうございます!
最後まで頑張ります。
次回もお会いできるように祈って。
皆様に多謝を。




