表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結&漫画化】婚約を破棄された悪役令嬢は荒野に生きる。  作者: 吉井あん
第1章 悪役令嬢は荒野に生きる。
10/92

10.堅物騎士は精一杯がんばりました。

 二人の反応は予想通りだった。

 それでもなお私が愛称で呼ぶように命じたのには、考えがあるからだ。



「領都の視察に行こうと思うの」



 領を治めるにあたって、現実を見ておかないと何も出来ない。

 いくら報告書を読んだとしても見えてこない事柄も多くある。



(市井のなかにきっと統治の手がかりがあるはずだわ)



 幸運なことに私がここに到着したのは昨日のこと。


 皇室からメルドルフが下賜され、私が主になったことは領民の上層部・貴族や官僚たちにしか知らされていない。庶民は領主が交代したことすら認識していないだろう。


 現地を査察するに顔を知られていない今こそ、身分を隠して動くいい機会だ。



「あなたたちがお嬢様とか呼んでいたら、私のことが皆にばれてしまうわ。領主の前だといい格好しようとするものでしょ? それじゃ見て回る意味が無いわ」



 真実を暴くには匿名調査が有効だ。

 前世? にそんな記憶がある。


 私の言葉にアロイスはうんうんと頷く。



「その通りでございますね。お嬢様のように身なりの良い者はメルドルフにはおりません。身をやつしたほうが目立たず行えるでしょう。ですが……」



 この若き天才は、執務机に山のように積まれた書類を指差した。

 領の改革を行う上で最優先で整えなければならない案件が、アロイスの処理を待っている。



「私は今回の視察、同行できかねます。コニー様の初公務だというのに、非常に残念ですが……。今日中に対応せねばならない案件が沢山ありまして。どうにも身動き取れそうに無いのです」


「確かに、それだけあれば外に出ている暇なんてないわね。書類の処理はアロイスにしかできないことだから、仕方ないわ。じゃあイザーク、あなたは大丈夫ね?」



 イザークはほんの少しだが口元に笑みを浮かべ、私の前に跪く。



「はい。私の役目はお嬢様の身辺をお守りすることですから、お嬢様がお行きになられると決められたのならば、私に断る選択はありません」



 愛称で呼べと言ったばかりだというのに、イザークはいつもと変わらぬ口調だった。

 まったくこの男は真面目すぎる。

 長所といえば長所だけど……。


 私はすこしからかってみることにした。



「イザーク。思うんだけど、私を呼ぶ名が違うんじゃない?」



 イザークは落ち着き無くしばらく視線を泳がせる。

 そしてようやく覚悟が決まったのか、ためらいがちに口を開いた。



「コ……コニー様。何なりとお申し付けください」


「よろしい。よく言えました」



 まぁ様はいらないんだけど?


 若干不満はあるけれど、上下関係が体の芯まで染みこんだ騎士なんてこんなものか。

 コニーと呼べたことだけでも上出来だろう。

 いずれ自然に言える日を待とう。


 私とイザークのやり取りを見ていたアロイスが、



「幼い頃から絶え間ない鍛錬で鋼の筋肉を手に入れたのに、柔軟性の稽古はしなかったのですね? イザーク卿」



 と茶々をいれた。

 アロイスは意外と(というか当然?)毒舌家らしい。


 イザークはごほんと咳払いをし、



「ではコニー様、今からお出になられますか?」


「ええ、善は急げよ。イザーク、アロイス。警備の手配を。私は着替えてくるわ」



 私は満面の笑顔で指示し執務室を出た。

10話目をお送りします。


とてもたくさんのPV・ブックマーク・評価ありがとうございます!

今まで頂いたことの無い数字に毎日嬉しさのあまり震えるほど興奮しています笑

この幸せが続くように、皆様の癒しになるお話になるように頑張ります!


では、次回もお会いできることを祈って。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ