三人寄れば文殊の知恵?
色んな意味で三人寄ってません。
あらすじからタイトルから詐欺だらけじゃねぇか……。
今年もこの季節がやってきた。
この時期が一年でいちばん頭が痛い季節だって去年美那子先輩が言ってたけど、ほんとだ。
ちなみに、美那子先輩の前の菜穂実先輩も同じこと言っていたらしい。
加奈が四色の付箋に、女子寮全員の名前を書いていく。
全員と言っても、ここカンパニュラ寮は江華大学の寮でいちばん小さい寮なので、女子寮男子寮共に十人ずつしかいないのだが。
A4の裏紙に加奈が書いてくれた寮の部屋の図。
右から、2、2、1、2、2、1と四角く囲われた部屋の中に定員が書いてあってとても親切だ。
その下に並んだ十個の名前に、わたしはつきかけたため息を呑み込む。
よし、気合だ。
気持ちで負けたらだめだ。
大丈夫、できる。
がんばろう。
「まずどこから入れてく?」
「二年生から。」
「だよね。」
加奈は蛍光ピンクの三枚をわたしの前に持ってくる。
どうぞと言わんばかりに机の上に並べられて、本当に胃が痛くなってきた。
「亜希ちゃんは一人部屋にしてあげたい。」
「分かる。とりあえず入れたら。」
「ちなっちゃんは寒がりだから端の部屋はダメでしょ。」
「ああ……そうね、去年死にそうだったもんね。」
「笙子は、端の部屋にして……組ませるとしたら三年生か四年生がいいかもね。一学期のあの感じだと、後輩の世話は大変そう。」
「オッケー。じゃあ、次どうする?」
「一年生でしょ。」
「はい。」
次は蛍光オレンジの付箋だ。
やっぱり三枚ある。
「恵ちゃんも笙子とダメだったんだっけ?」
「そう、陽菜ちゃんも。」
「だとすると、部屋が近くない方がいいね。」
「右側の二人部屋にそれぞれ入れる?」
「ちなっちゃんと陽菜ちゃんと、ちなっちゃんと恵ちゃんだったらどっちがいいかな。」
「うーん、まあ、どっちでも大丈夫そうだけど。」
「あ、陽菜ちゃん喘息持ちだ。」
「じゃあ、冬体調崩しやすいちなつとはちょっと危険だね。」
「ちなっちゃんと恵ちゃんがペアで、その隣の二人部屋に陽菜ちゃんね。」
「うん。」
「そしたら文香ちゃんに笙子の隣の二人部屋に入ってもらおう。」
残るは蛍光グリーンと蛍光イエローだ。
蛍光グリーンが三年生で三枚、蛍光イエローが四年生で一枚。
「美那子先輩ってもう就活終わってたっけ?」
「うん、内定もらってるはず。」
「じゃあ、悪いけど笙子をお願いしよう。」
「でもそうすると、三年で一人部屋になったことがないの私でしょ。去年おととしとインフルエンザ予防接種したのにかかった奇跡のあんたと喘息持ちの陽菜ちゃんは組ませられないし、文香ちゃんはあんた一学期同室だったからかぶるよ。」
「ダメじゃん!!」
思わず机に突っ伏した。
これだから面倒くさいんだよ部屋割り……!!
江華大学は二学期制なので、寮の部屋もその学期に合わせて部屋割りが新しくなる。
一学期の部屋割りは新入生の情報が少ないので寮監が決めるけれども、二学期の部屋割りは学生に任せられている。
それを考えるのが三年生のお役目なのだ。
ちくしょうシミュレーションばっちりだと思ったのに!
インフルと仲良しの自分が憎い!
ていうかこれ去年美那子先輩一人でやったの!?
すごすぎる!!
隣で加奈が冷静に突っ込んでくれなかったら、わたし絶対できない!
「はいはい、葉子ー、葉子ちゃーん、落ち着いてー。」
「ううう……もうヤダ……、」
「ヤダじゃない、チョコ食べて落ち着いて。まだ一回目だから。」
「うん……、」
言われた通り加奈が用意してくれたチョコを口に入れる。
なるほど、このためのチョコだったのか。
「ん、落ち着いた。」
「よし、じゃあまず私を一人部屋に入れちゃおう。」
「笙子とわたしで組む?」
「まあ、アリじゃないの? あんたがいいならだけど。」
「いいっていうか、自信はないけど……、」
「そうしたら、都が一学期陽菜ちゃんとだったから、都と文香ちゃんで組んで。」
「美那子先輩と陽菜ちゃん。」
「バランスとしてはいいんじゃない?」
おおー、加奈すごい。
きれいに紙の上の部屋に納まった付箋たちを確認していく。
左から、笙子と私。
次が、文香ちゃんと都。
で、加奈が一人部屋。
その次が、ちなっちゃんと恵ちゃん。
次が、陽菜ちゃんと美那子先輩。
最後が亜希ちゃんで、一人部屋だ。
完璧だ。
「良かった……、納まった……、」
「じゃあ、寮監に写真送っとくわ。」
「ありがとう加奈ぁ……!」
「都が帰ってくる前に終わっちゃったね。」
「あ、ほんとだ。」
本当は都もこの会議と言うか打ち合わせと言うかに参加予定だったのだけど、急にバイトが入ったので、間に合わなかったら先に始めててと言われていたのだった。
にしても、カルミア寮やカランコエ寮がうらやましい。
カルミア寮は定員が二十人ずつだし、カランコエ寮に至っては三十人ずつだ。
十人ずつのカンパニュラ寮は、少ない分だけ人間関係が近いし、濃いし、面倒くさい。
加奈とも都ともぶつかったわたしが言うのもなんだけど。
「二人とも何してんのー?」
「部屋割り。」
「うっわ、大変だね。」
お疲れ、と持っていたスナック菓子をくれた彼は、男子寮唯一の三年生、阿辺くんだ。
彼も男子寮の部屋割りを考えないといけないんだと思うけど、どうしたんだろう。
聞いてみたら、え、あみだくじだけど、ときょとんとされた。
……男子って平和でいいなぁ。
「あ、でも、鹿島だけは問答無用で律と組ましたけど。」
「鹿島? 一年の?」
「ああ、爽やかボーイね。」
「その爽やかボーイがなんで律基くん?」
「あいつ小五みたいないたずら仕掛けてくんだよね。一学期の同室から苦情が出て。」
「黒板消しとか?」
「黒板ねーよ。」
「たしかに。」
「家庭内害虫のおもちゃとか、そういうやつ。」
「……ほんとに小五、」
「今の男子寮、あれダメな人ばっかりだもんね。」
「そ、律基しかいないの。」
なるほど、と加奈と二人して頷いた。
鹿島くんがそんな人だとは知らなかった。
一部の女子からはけっこう人気だったのに。
あとでバラしとこう。
律基くんはほんと、女子寮からも頼れる男子として人気ですよ。
主にあれ関連ですけど。
もはや殺虫剤扱いですけど。
あれ?
人気とは?
「阿辺くんもダメなんだっけ?」
「いや、ダメなわけじゃなくて、俺は共存を試みるタイプなんだよ。」
「ダメなんでしょ?」
「ちがうちがう、無駄な殺生をしないの。」
「だからダメなんでしょ?」
「加奈ちゃんひどい!」
「加奈は全然大丈夫っていうか、むしろ女子寮のスーパーヒーローだもんね。」
そう、加奈は最強女子なのです!
夏は特にお世話になりました!
律基くんは共同スペースじゃないと呼べないけど、加奈ならどこでも呼んでオーケーなのです!
あれ?
律基くんの人気とは?
ていうか何の話だったっけ?
くだらなさのなかにちょっとした人間関係の現実味のアクセントを添えてみる。
三人寄れば文殊の知恵:
凡人であっても三人集まって考えれば、すばらしい知恵が出るものだというたとえ