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「落ち着いたかしら?」
「あ…はい」
女性が持ってきてくれた水を飲んで、澪はようやくほっと肩の力を抜いた。
女性は澪を軽く睨む。
「どうしてあんなところに1人でいたの?
怯えていたようだし…付け入る隙にしかならないわよ?」
看護師…というより、看護婦、ナースの方が適切だろうか。
病院の看護師はみんな薄緑色のズボンなので、長袖のワンピースの上に白いエプロンを身につけた看護師なんて見たことがなかった。
ワンピースの形は違うけれど、不思議の国のアリスを思い出す。しかもナース帽着用なんて…コスプレ、にしてはしっかりした作りの服に思えるが…。
「………あの、えっと…」
「気持ちは分からなくもないけれど、早く戻りなさいな」
「え、えと、はい…分かりました、早く病室に戻ります…けど」
「…病室?」
「他の看護師さんはどこに? 山浦さんとか…あ、山浦さんっていうのはよくしてくれる看護師さんで」
女性は澪の言葉に面食らって、それからなにごとかを考え込む。
「……………」
「あ、あの?」
「言い難いのだけれど、他の看護婦は今はいないわ」
「いない?」
「代わりに私が貴女を病室まで送りましょう。貴女、名前は?」
「え、あ、澪と…い、いやいやいやちょっと」
女性の勢いに押されて頷きかけた澪は、慌て首を横に振る。入院生活は長いがこんな看護師見たことない。
「そ、そっちこそ名前は、いやていうかここの病院の人なんですか?
服変だし、私あなたを見たことないし、そもそもあのなんかわけわかんないの見ても全然動じてないし!」
並べ立てる澪に、女性は困った顔をする。
「そうね…いえ、貴女の言う通りだわ。まず自己紹介からかしら。私はハル」
女性は姿勢を正して名乗る。
「この病院勤務は長いのだけれど…そうね、貴女とは会ったことが無いわね。私は夜の院内の見回りだし、此方の病院は私がひとりで見て回っているから、先ず誰とも会わないわね。
こうして会った相手は戻るまで案内するのだけれど…それも、本当に久しぶりだわ。
それから…服だったかしら?
言った通り私は此方の病院の者なの。それが一目で分かるよう、他の看護婦とは違う服を着ているのよ」
「えーと…つまり、同じ病院だけど普段私のいるところと違う場所で働いてる、んですか?
それが分かりやすいように、服が違う?」
「ええ、よく出来ました」
「なっ、撫でないで!」
「あら、ごめんなさいね」
ハルはくすくすと、おかしそうに笑っている。
澪は自身の頭を、落ち着かない様子で撫でつけた。
「(でもこの病院、別棟とかあったっけ…?)」
「それじゃあ行きましょう。はぐれないようにね?」
「あ、はい!」
澪はハルの後について、扉をくぐる。




