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ふと、澪は目が覚める。室内は暗く、足元の非常灯がぼんやりと部屋の輪郭を浮かび上がらせているのみ。枕元の時計を引き寄せれば、針は深夜の2時、その少し前を指し示していた。
澪はぶるり、体を震わせる。
「寒…」
トイレにでも行けば解決するだろうか。
澪はベッド下にあった、可愛さの欠片もないマジックテープタイプの靴を履いて部屋を出た。
◇
当然ながら病院内には明かりが点在しており、それが白い光を放っている。
けれども昼間の喧騒とは打って変わって静まり返った院内、明かりがあろうと廊下の奥は暗く見通せない。反響する自分の足音が、いやに心をざわつかせた。
「………早く病室に戻ろ」
足を早める。巡回中の看護師にも会わなかったが、やはり不安は不安のまま、トイレまでたどり着いた。
とっとと用を済ませると個室から出て、手洗い場の蛇口をひねる。
「はぁぁ…何をいまさら怖がってるんだか」
ぼやきつつ、下を見て手を洗う。ふと鏡に目をやったところで、何か、部屋の端に影を見つけた。
「…………?」
変に暗いその影をじっと見つめた澪は、それに気が付いてぎしり、と体を凍り付かせた。
それは、人型をしていた。足も頭もある、けれども腕や指や髪はなく、肌の区別も何もなく全身が黒に染まっている。元からその色をしているのだろうか。身長は3メートルほどか、壁に沿って立ち、頭部分は天井に沿うように横倒している。
それに目はない。目鼻のある部分はただ黒く塗りつぶされている。けれどもそれはじ、と下を、澪を、見つめている。澪は動けない。鏡を見つめたまま。上から視線が、じい、と澪を見やって、見つめて、見下ろして、
鏡の中のそれの頭が、不意に澪の方へ向かって降りてくる。
「………っ!!!」
理解した途端、硬直が解ける。澪は弾かれたように廊下へ飛び出し、走り出した。