03.ウェディング。
***前回のあらすじ***
森の奥に居たのは、王都から逃れて来た難民だった。ロンバートは彼らを領民として受け入れ、土地や家を与える事にした。ポンコツと呼ばれた元王子はめきめきと頭角を現していった。
「はぅぁ──っ! なんてお可愛らしい…! お綺麗ですわ、シェリナ様!」
「ほんと、まるで天使か妖精の様だね」
支度を終えたシェリナを前に、クリスティアナ付きの侍女マリエッタが歓声を上げ、クリスティアナも満足そうに頷いていた。
シェリナは純白のドレスに身を包み、恥ずかしそうに頬を赤らめている。
そう。結婚式である。
シェリナの纏うドレスは豪奢ではないがシンプルなプリンセスラインで裾に小さな白い小花の刺繍が施され、髪にも小花があしらわれた清楚な姿は彼女に良く似合っていた。首元を飾るエメラルドは、以前ロンバートがシェリナに送ったものだ。
式に招待されたクリスティアナは侍女数名を引き連れ、騎士の格好でやって来た。
枯れてもクリスティアナは侯爵令嬢だ。そのお付きの侍女ともなると、超一流である。
あれよあれよという間に、シェリナを磨き上げ、着替えをし、化粧を施し、髪を結い上げ、息を飲む程愛らしい花嫁姿を作り出していた。
「ありがとうございます、クリス様。マリエッタさんも…」
「心よりお喜び申し上げますわ、シェリナ様」
「おめでとう、シェリナ。本当に綺麗だよ。私は貴女の友であることを誇りに思う」
嬉しそうに微笑んだシェリナに、クリスティアナはそっとその手を取る。うやうやしくその指先に口づけられ、シェリナの頬が更に赤く色づいた。
涼やかな鐘の音が山々に木霊し、小さな教会には入り切れないほどの人が詰めかけていた。
王国の片田舎のオッド領で行われる結婚式は、元王太子の式とは思えないほどに素朴だ。
式場は小さな教会。参列者は身内だけ。
ささやかな式は、けれども大勢の領民が押しかけて今か今かと待ちわびている。
シェリナ様ーっと祝福の声を上げる領民の声が、中に居ても判るほどに響き渡って来る。
領民達が心から祝ってくれる。領主として、これほど幸せな事などあるだろうか。
大勢の人に祝福されながらこの日を迎えるとは、シェリナは夢にも思っていなかった。
***
父であるオッド男爵に手を引かれ、シェリナは粛々とバージンロードを歩く。
警護をするのは赤の騎士団。招待を受けたクリスティアナは勿論、婚約者のセドリックも一緒だ。
シェリナの幼馴染や、ロンバートのお付の騎士だったエメリックの姿もある。
大勢の拍手が雨の様に降り注いでいた。どの顔も皆満面の笑みを称えている。
バージンロードの中ほどで待つロンバートへとシェリナが渡されると、オッド男爵は瞳を潤ませ、「娘を宜しく」と囁いた。
式は滞りなく、進む。明るいステンドグラスから差し込む陽の光に溢れる中で、誓いの口づけを交わすと、小さな教会は大歓声に包まれた。
次々にフラワーシャワーが投げられる。領民達が次々に祝いの言葉を掛けてくれる。
シェリナとロンバートは、領民の声に答えながら、満面の笑みを浮かべる。
幸せそうな二人の様子を見つめていたクリスティアナは、今のこの未来が最善だったと思わずにはいられない。
あのまま自分と結婚をしていたら。あのまま王太子として過ごしていたら。果たしてこんな幸せな気持ちで居られただろうか。
シェリナの視線が流れて来て、目があった。シェリナが幸せそうに笑う。本当に、天使の様だ。
クリスティアナは心からの祝福を送った。
「クリス様!」
ぽぉん、とシェリナのブーケが宙を舞う。
弧を描いた花束は、ぽふっとクリスティアナの手の中へと納まった。
遅くなってすみません!やっとこ更新です。今日はもう1個更新する予定です。