屈強騎士ブーム。
リクエストにお応えして、セドとクリスの新婚生活のお話です。
お砂糖過多です。
短編数点でお送りします。
カァンッ!! キィンッ!
「うぉああぁッ!」
「せぇぇあッ!!」
赤の騎士団の訓練所では、いつもの様に剣の打ち合う音が鳴り響いていた。男たちの吼える声が至る所で上がる。むさ苦しい事この上ないが、騎士達の士気は上がりに上がっていた。というのも──
「きゃーっ! 素敵ぃーっ!」
「凛々しいですわーっ!」
ただいま王宮では過去に類を見ないほどの屈強な騎士がブームだった。
普段は観客など居ない訓練所に似つかわしくない見目麗しいご令嬢が群がって黄色い声を上げている。騎士服に身を包んでいる時はそこはかとなくモテるのだが、夜会などでは無骨さと屈強さが災いして『なんか暑苦しい』『見た目が怖い』とモテない男が意外と多かった。そこに満を持しての筋肉ブーム。普段は女っ気のない騎士団に美しいご令嬢が目をハートにして声援を送ってくれるのだから、未だ独身の騎士達は否が応でも気合いが入る。
「セドリック様、素敵でしたわ! ……あの、宜しければこれを……」
1人のご令嬢が頬を薔薇色に染め、おずおずとセドリックへ手拭を差し出した。
死神と恐れられた男は、1つの出会いを期に、近寄りがたい空気が和らぎ、ファンが付いていたりする。当の本人は自覚が無い為困惑しかない。
「あ、ああ……、どうも……?」
セドリックが首を傾げながら手拭を受け取ろうとした時、スっと後ろから手が伸びた。そのままぐぁっしとセドリックの襟首を掴み、グィっと後ろに引き寄せる。長い銀糸の髪が風に靡いた。
襟首を掴んだ主、セドリック=ウィンダリアの妻、クリスティアナ=ウィンダリアは、そのまま掴んだ襟首を引き寄せ、セドリックの唇に自分の唇を重ねる。ご令嬢達から甲高い悲鳴にも似た絶叫が上がった。
夫の唇から顔を離した銀糸の髪の男装の夫人は目を白黒させて顔を真っ赤にする夫の首にするりと白い腕を回し、アイスブルーの切れ長の瞳を細めて見惚れているご令嬢へ妖艶に微笑を向ける。先ほどまで身体を動かしていたのだろう。乱れた髪の間から覗く微笑はぞくりとするほど美しい。
「すまないね。ご令嬢。彼は私のものだから、その手拭はご遠慮させて頂くよ」
「は……はい……」
うっとりとクリスティアナを見つめるご令嬢の頬に、クリスティアナの白い指が伸びる。ふわりと頬を撫でられたご令嬢は失神寸前だ。
「ん。良い子。セド、付き合ってくれ」
「あ、ああ……」
唇を奪われた夫、死神と恐れられた騎士団団長、セドリック=ウィンダリアは顔を真っ赤にしたまま、何事も無かったかの様に踵を返した妻の後を付いていく。早くも尻に敷かれていた。
「──やりましたわっ!」
「流石ですわっ!」
「お見事ですわっ!」
ご令嬢達は確信犯だった。
そう。この屈強騎士ブームの火付け役は、この死神と呼ばれた騎士セドリックと男装の令嬢、クリスによって起こったブームだった。屈強な死神と恐れられた騎士と美しい男装の令嬢の恋話は瞬く間にご令嬢達の心を鷲掴みにした。つまり、セドリックのファン──正確には、『セドリックとクリス』のファンである。
***
執務室へと向かう廊下を先に立ってずんずんと歩いていく妻に、肩を震わせセドリックは声を掛ける。
「クリス。お前何を怒っているんだ?」
判っていて聞いてくるこの性質の悪さ。クリスの眉間に皺が寄る。
「別に怒ってなど居ない」
「嘘をつくな」
セドリックの手がクリスの腕を掴む。クリスは足を止めた。
「何故怒っている? お前の口から聞きたいんだが」
ツィ、と顎に指を掛けられ、上を向かされたクリスは、むぅ、と拗ねた顔で夫を上目に睨んだ。
「セドは私の夫なのに……。私だって、嫉妬くらいは、するんだ」
あからさまなヤキモチに、セドリックが破顔する。
「俺の妻が一番可愛いよ」
「ちょ、セドっ。此処まだ廊下──」
セドリックが唇を寄せると、クリスは真っ赤になって狼狽えた。つい先ほど、公衆の面前で堂々と口づけた癖に、羞恥に頬を染めて身を捩るクリスをセドリックは逃がさないという様に強く抱きしめて、深く唇を重ねる。
男の様な成りをしていても、その肢体はほっそりとして腕の中にすっぽりと納まってしまう。愛する妻のこういう姿を知っているのは自分だけだ。誰にも見せたくない、自分だけが知っている姿。熱を帯びた熱く甘い吐息がクリスの唇から洩れる度に、愛しさが抑えきれなくなってくる。
そっと唇が離れると、クリスは喘ぐように甘く吐息を吐き出して、ぽすんと甘える様に胸元へと頬を預けて来る。
「俺を想って妬かれるのは悪くないな。もっと妬かせてみたくなる」
「──意地悪」
「お前が可愛いからだよ」
セドリックはそう言って愛し気に笑うと、啄む様に口づけを落とした。
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リクエスト頂きましたら順次書かせて頂きますw