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仮面を脱ぎ捨てた令嬢 こぼれ話  作者: 鈴森 ねこ
クェレヘクタ国の片隅で
10/13

04.新しい命。

***前回のあらすじ***

婚約期間を終え、ロンバートとシェリナは結婚式を迎えた。ささやかな式ではあったが、領民から祝福をされ、ロンバートもシェリナも幸せの絶頂にあった。

「領主さま──!」

「はーい、今行く!」


 平民が着る様な作業着のまま、ロンバートは呼ばれた方に駆け出していく。


 あれから数か月。集落は希望の地を意味する『エスペランサ』と名付けられ、集落から村へ、村から街へと姿を変えていった。

 荒れ放題だった街道はロンバートが私財をなげうち整えられ、街には水が引かれ、噂を聞きつけた貧民たちが次々と村を目指しやって来る。


 人が集まれば商人たちも集まる様になり、あちらこちらに店ができ、街はその名の通り、活気に満ちた希望の地となっていた。


***


「シェリナが?」


 屋敷からの迎えで屋敷に戻ったロンバートは、迎え入れた執事の言葉に眉を寄せる。


「はい、体調を崩されていらっしゃる様で…」

「シェリナは?」

「寝室でお休みで御座います」


 ロンバートは慌てて寝室へと駆け込んだ。シェリナはベッドに横になっている。シェリナ付きの侍女が看病をしていた。


「やだ、ごめんねロン。大したことないのに」

「シェリナ、具合は?」

「大丈夫、多分ただの風邪だわ。ちょっと熱っぽくてフラフラしてるだけよ」

「リドリー、お医者様は?」

「先ほど呼びに行かせました」

「本当にそんな大げさにしなくても大丈夫よ?」


 シェリナは苦笑を浮かべたが、顔色は良くない。大丈夫と言われても、心配なものは心配なのだ。

 程なく医者が到着し、ロンバートは部屋から追い出された。


***


「先生、シェリナの容体は?」

「ご心配には及びません」


 医師はにこやかに微笑むと、深々と頭を下げた。


「おめでとうございます。ご懐妊ですよ」

「──は?」


 驚いた俺の後ろで、侍女達がきゃぁ、と歓喜の声を上げ、大旦那様!と叫びながら男爵夫妻の許へと駆けて行く。


「子供?」

「はい、左様でございます」

「シェリナが?」

「左様でございます」

「シェリナ!!」


 ロンバートは部屋へと飛び込んだ。シェリナが、嬉しそうに、恥ずかしそうに頬を染める。


「ああ、シェリナ!」

「あ、駄目よ駄目よロン、赤ちゃんが潰れちゃうわ」


 思わず思いっきり抱きしめてしまったロンバートを、シェリナが笑いながら諫める。

 ロンバートは慌てて手を解いた。


「ああ、男の子かな。女の子かな」

「まだ判らないわ」

「此処に居るのか…。おい、聞こえるか? お父様だぞー」

「まだ早いわ」


 ロンバートは愛し気にシェリナの腹に頬を寄せ、中の子供に語り掛ける。シェリナは可笑しそうにくすくすと笑った。


「…シェリナ」

「はい?」

「シェリナ、シェリナ」

「はーい」


 ロンバートは、何度も甘く愛しい妻の名を呼ぶ。じわりと瞳に涙が浮かんだ。そんなロンバートの頬を、優しくシェリナが包み込む。


「いやね、ロン。お父様になるのに泣いたりしては可笑しいわ?」

「ふふっ。 …シェリナ。有難う。身ごもってくれてありがとう」


 ロンバートは、心から感謝を込めてそういうと、嬉しそうに微笑んだシェリナの唇に、そっと唇を重ねた。


***


 シェリナ懐妊の話は、瞬く間に領内に広がった。次々と村人たちが祝いの品を館へと届けに来る。

 領主と平民の距離が近いこの地ならではだろう。

 幸せをいっぱいにため込んでいく様に、シェリナのお腹はふっくらと膨らんでいく。


 シェリナのつわりが収まるのを待って、一度王都に戻ったクリスティアナも、馬を駆って見舞いに来ていた。


「シェリナ──っ! 荷物を持つな! 走るな!!」


 ロンバートが諫める暇も無く怒声が飛ぶ。


「クリス様、大丈夫ですわ? ちょっと花瓶の水を変えるだけ…」

「今までそれで何度すっ転んでると思ってる?!」

「奥様、そのような事わたくしどもにお任せくださいませ!!」

「少しくらい良いじゃないの」


 シェリナのつわりは少し長く続き、ようやく収まったのは6か月を過ぎた頃だった。

 つわりの間は気持ちが悪いと食欲も減り、部屋でぐったりとしている事の多かったシェリナも、つわりが落ち着くと花瓶の水を変えようとしたり、屋敷の中の掃除を始めたりと、くるくると動き回りだす。

 その度に侍女が慌てて止めに入ったのだが、シェリナは中々大人しくしてくれない。

 元々男爵家はどがつく貧乏貴族の為、家の事は何でも自分でしていたそうで、やってないと落ち着かないというのだが、いかんせんシェリナのドジは筋金入りだ。


「クリス、そうぽんぽん怒鳴るな」

「お前の妻だろうが──ッ!?」


 ──小姑か。コイツこんなに喧しかったか?とロンバートは首を傾げる。多分心配をしているのだろう。それは判るのだが、何となく夫の立場を奪われている様な気がしなくもない。勿論シェリナが転びでもしたらと心配なのは自分もなのだが、止めるタイミングを毎回逃してなんだかなぁ、という感じだ。


「クリス。お前少し落ち着け。そんなに怒ってばかりだとシェリナ嬢の腹の子が怯えるぞ」

「ぅっ」


 苦笑を浮かべ、妻に付き添ってやって来たセドリックが窘める。途端にクリスはしゅんっと大人しくなった。


「そうですわ、クリス様。お腹を蹴って抗議してますよ?」

「えっ。もう動くの? 触っても良い?」

「はい、どうぞ」


 クリスティアナはシェリナの手から花瓶を奪うと侍女に預け、膨らみが目立ち始めたお腹に耳を当てる。


「あ、動いた! …可愛いなぁ…」


 うっとりとした声で、クリスティアナが腹を撫でる。


「まだ生まれていませんよ?」

「でも、可愛いね」

「はい、とっても」


 ──可愛いのか。こんな時、まだ見ぬ我が子を可愛いと思える女性が羨ましいと思う。

 どういう感覚なのだろう。ただ、生まれて来る子は、とても愛されているのを実感し、ロンバートはとても幸福な気持ちになった。

いつもご閲覧ありがとうございます。ちょっと前のが切る場所がいまいちだったんで、2つに分けました。次のお話は直ぐ投稿します。

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