01.落ちて来た青年。
ダグラスとユスの出会いの話です。リクエストなわけじゃないんですが、ダグとユスの生活でも1個お話出来るんじゃないかなとのご意見頂きましたので、ダグが落っこちた後の裏話を書いてみました。
順当にいけば4~5話のお話になると思います。
私は、魔女と呼ばれている。
魔法は使えないけれど、魔女と呼ばれて恐れられている。
理由は、私の人と違うこの容姿。
色が全て抜けてしまったかのような白い髪。血の様に赤い瞳。白すぎる肌。
だから、私は一人で住んでいる。
魔物の棲む、恐ろしい森の外れの小さな小屋で。
***
この小屋からずっと西に行ったところには、小さな村が1つある。村の人は、私の居る小屋のあたりにはやって来ない。彼らが行くのは村の傍。私の小屋よりももっとずっと森の西側。彼らは私を恐れて近づいては来ないし、私も彼らが怖くて近づかない。私はもう、ずっと一人で住んでいる。
私の小屋から東側に少し行くと、そこは高い崖になっていて、魔物はその崖の上に現れる。何故かその魔物の出る崖の周囲には、とても良く効く薬草が沢山とれた。そこでしか採れない薬草も多くて、採れた薬草は高価で買い取ってもらえた。それに東側の森の近くには、水晶の取れる泉がある。そこの水晶は魔物の吐く毒を消してくれると言われていて、お守りとして人気も高い。魔物の嫌う匂いを出す対魔香を作る材料の草も、東側の森の近くでしか採れなかった。だから、多少危険でも、私は東の森の崖の傍まで、薬草を採りに行くのが日課だった。
***
その日、私はいつもの様に崖の近くで薬草を摘んでいた。不意に上から激しい物音が聞こえ、私は思わずビクっと体が跳ねた。
次々に何かが落ちて来ている様で、木々が何度もけたたましい音を立てた。ギャンっと上げるその声から、魔物が落ちてきているのかもしれない。私は怖くて震えていた。
時々この地の警護をしているコンフォート砦から、討伐隊が訪れる。あの音は、その討伐隊によって駆除されている魔物の声かもしれない。もし魔物がまだ生きて居たら、とても危険だ。私は戦う術など持たないのだから。
私が怖くなってその場を逃げ出そうとしたその時だった。
「ぐぁッ!!」
人の、声がした。
バキバキと木の枝の折れる音と、ザザザっと茂みを揺らす音が響いた。一瞬の間の後、どすんと何かが落ちた音。私は怖くて足が竦んだ。体がカタカタと震えてしまう。だけど、もしもまだ生きて居たら。私は震えながら、音のした方に駆けだした。その人は直ぐに見つかった。大きな木の下にうつ伏せで倒れている。
──し……死んじゃったのかしら……。
私は、その人に恐る恐ると近づいた。甲冑を身に纏った男の人だった。手には剣が握られている。きっと討伐隊の人だ。私が頬に触れると、うう、っと顔を歪めて呻き声を上げた。
──良かった。生きてる。
「あの……。もし……? 大丈夫ですか? しっかりして……」
どうしよう。もしも魔物が生きて居たら、此処もきっと危ない。私は薬草を入れた籠を腕にかけ、男の人の腕を自分の肩へと回した。両足に力を込めて、何とか持ち上げる。力の抜けた男の人の体は重たくて腕も足も背中もミシミシいう。男の人の苦し気な荒い息遣いと、熱を持った体温が伝わってきた。触れた身体はがっしりとしている。私は頬が熱を帯びてしまった。こんなに近くで誰かに触れたのは初めてだったから。
男の人は私が支えて立たせると、朦朧としながらも自分の足で立ってくれた。良かった。これなら何とか運べそう。私はゆっくり、彼を自分の小屋まで連れて行った。
***
少し恥ずかしかったけれど、彼は随分と汚れていたから、甲冑とシャツを何とか脱がせ、体を拭いた。がっしりとした体格は、良く鍛えこまれていて綺麗な筋肉をしていた。私は初めて見る男の人の身体にドキドキする。やましい事をしている様な気分になって戸惑った。頬に付いた汚れを拭く。私が布で頬を拭くと、長い睫毛が揺れた。
彼の肩は、酷く腫れ上がっていた。骨が折れているのかもしれない。私はとっておきの薬草で薬を作り、彼の肩へと湿布をして、しっかりと布で固定をした。小屋について私のベッドに寝かせてから、彼は未だ目を覚まさない。時々苦しそうに、うぅ、っと呻いていた。夜になると熱が出て、私は一晩中看病をした。
彼が意識を取り戻したのは、それから3日後の事だった。ゆっくり目を開けて、小屋の中を見渡した彼は、私をほけりとした顔で見た。私は不安で胸が苦しくなる。彼も、私に怯えて逃げ出してしまうかもしれない。
「──……天使……?」
彼の言葉に私はびっくりして、かぁっと顔が熱を持った。何て返せば良いのか分からない。
「此処は、天国?」
彼が小屋の中を見渡す。私はドキドキしながら彼の傍へ椅子を引いて腰を下ろした。
「え、と。私の家、です。 あなた、崖から落ちて来て……」
「崖?」
きょとん。何処か幼い顔で彼が目を瞬く。彼の瞳には、私を嫌悪する色も、怯える色も浮かんでいなくてほっとした。
「覚えてないんですか?」
「……」
彼は口を噤んでじっと考え込んでしまった。ケロっとした顔で彼が笑った。
「……うん、駄目だ、思い出せないやー」
あんまり軽い口調だったから、思わずつられて私も笑ってしまう。
「この傷の手当て、君が?」
「あ。はい。ごめんなさい、勝手に服を脱がせちゃって……」
「へぇ、包帯の巻き方上手いんだな。ありがとう!」
ぱ、っと彼が笑みを向ける。私は鼓動が跳ね上がる。ああ、この人は何て良い顔で笑うのか。顔に火がついてしまったかの様。私は彼の笑顔が眩しくて俯いてしまった。顔を見られるのが恥ずかしい。
「ところで、君は天使じゃないなら妖精?」
「わ……わたしは、ユスと言います……」
言われた事の無い言葉に、私はどうしていいか判らない。何とか自分の名前だけは名乗った。
「俺は──……。何だっけ。ダグって呼ばれてたのは何となく覚えて居るから、ダグで良いや。君のお陰で助かったよ、ユス」
彼が手を差し出した。私はそっとその手を握る。ごつごつとした、マメがいっぱい出来た大きな手だった。
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