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08 銀髪妖狐「クズノハ・テンコ」

「……何がなんだかわからないよ」


 オレに抱きついてきた銀髪娘「クズノハ」のお尻の方には、確かに立派な尻尾が生えているようだ。

 ぶんぶんと振り回されている尻尾をにぎってみる。


「ふみゃあ!」


 クズノハは身体を震わせへたりこんだ。


「尻尾は敏感なのです」 


 座り込んだクズノハは白い帽子を落としてしまっていた。


「あら、角隠しが落ちてしまいました」


 帽子に隠されていたケモノ耳が姿を表した。


「その耳……お前、本当に子ギツネなんだな」

「はい」

「寂しかったんだぞ!」


 オレはクズノハを抱き締めた。


「……すみません、ヨメ入り道具を準備していたものですから」

「それに、変身出来たんだな」

「はい。

 あ、アッシュ様ご飯を食べながらお話ししませんか?

 私、料理道具持ってきていますから」


 クズノハは荷物を大きな「フロシキ」に包んで持ってきていた。


「あと、お前のこと、クズノハって呼んでいいか?

 オレのこともアッシュって呼び捨てでいいから」

「命の恩人ですから、アッシュ様と呼びたいのですが」


 クズノハは抵抗を示した。


「距離を感じて寂しいからさ。

 クズノハ、これからずっといっしょに居てくれるんだろ?」

「もちろんです、アッシュ様!」

 

 オレはクズノハを突き放して、ジロリとにらんだ。


「すみません……アッシュ」


 呼び捨てに抵抗があるのか、クズノハははにかんだ笑顔を見せてくれた。


 ☆★


「では、いただきます!」


 クズノハはあっという間に手際よく料理を作ってくれた。

 焼き物にスープ、小麦を練って焼いたものまで用意してくれていた。


「こんなきちんとしたご飯食べるの久しぶりだよ」


 オレは思わず笑顔になった。


「アッシュ様には美味しいものを食べていただきたいですから」

「うん。

 あのさ、クズノハ」

「何ですか、アッシュ様……あ」


 クズノハは、ペロリと舌を出した。


「アッシュ、って呼ぶんでした」

「うん。よろしくね」

「はい……アッシュ」


 クズノハは間違えたのにとても楽しそうだ。


「それにしても料理上手なんだね、あっという間に何個も作ってくれてる」


 色とりどりの料理がテーブルを埋め尽くしていた。

 このテーブルもクズノハが持ってきたものだ。


「頑張りました」


 クズノハが胸を張った。


「冷めないうちに食べましょう、アッシュ」

「……うん」


 しかし、どう食べたものかな。

 皿にもスプーンにも触れないし……椅子に座れないことはもうあきらめているけど。


「そうでした、アッシュが触れた道具はすべて灰になってしまうのでしたね。

 こちらへお座りください」


 クズノハが椅子をひいてくれたが……


「あ、椅子もでしたっけ」

「そうなんだ」


 なんとも不便な呪いを受けてしまったものだ。


「では、私が食べさせてあげます。

 この骨付き鳥なんてどうですか?」


 クズノハが持ってきてくれた骨付きどりにかぶりつく。


「おいしい……なにこれ?」

「アッシュが狩ってきていたガルーダですよ」


 昼間クズノハを探すついでに倒したものだけど……


「ガルーダは匂いが強いのに、全然嫌な臭いしないな。むしろいっぱい食べたくなる香ばしさがあるぞ」


 ぺろりと食べてしまった。


「ハーブもいっぱい持ってきました。魔境のモンスターは匂いの強いものが多いですけど、肉質はいいですからね。

 うまく臭みが消せたみたいですね」


 クズノハがもう一個持ってきてくれた。香ばしい匂いにたまらずかぶりつく。


「美味しいですか」


 クズノハが夢中で食べているオレに聞いた。


「こんなに美味しいもの初めて食べたよ」

「喜んでくれてうれしいです。

 たくさん、作ってありますからね」


 オレはクズノハが作った料理をおなかいっぱいになるまで食べた。

 スープも、小麦粉を焼いたものもとても美味しかった。オレに食べさせるのにクズノハは苦労していたけど。


 食べ終わってオレは洞窟に寝ころんでいるが、クズノハはせっせと後片付けをしていた。

 オレも手伝おうといったけど、クズノハが座っていてくださいと言ったのでお言葉に甘えさせてもらう。

 いまは道具の片づけをしているところなのでオレが手伝えることはほとんど何もないけど。

 あ、食べ終わった骨を灰にして捨ててきたよ。

 オレができるのはそれくらい。


「ねえ、クズノハ。その衣装どうしたの?」

「これですか、我が家に伝わるヨメ入り衣装です。

 身体を清めて花嫁が着るのです、この帽子も花嫁が着るのです。

 角隠しというのですが、私にとっては耳隠しになってしまいましたけど」

「クズノハは嫁入りに来たの?」


 片づけを終えたクズノハがオレの側に来て、オレを見下ろしていた。


「ふふ、アッシュったらとぼけて」


 クズノハは正座をした。


「膝枕、いりますか?」

「い、いるぞ」

「では、おいでくださいませ」


 オレはクズノハの足に頭を乗せた。


「私が勇気を出して思いをつたえるため、アッシュの首をなめました。旦那様に首輪をつけますっていう意味です。

 私は子ギツネで、人間であるアッシュとは種族が違うから受け入れられないと思っていました」


 クズノハはオレを優しく撫でてくれた。


「でもアッシュはそんなこと気にせずに、私の頭を撫でてくれ、お前はオレのモノだと言ってくれました。

 抱きしめられた手の温かさに……アッシュとずっと一緒に居たいと思ったのです」


 オレを見下ろすクズノハの笑顔には一点の曇りもないようだ。

 オレは立ち上がってクズノハに問いかけた。


「オレは何一つ人間らしいことができない、きちんとしたご飯を食べるのもクズノハの手を借りるありさまだ。

 それに、服だって着れないからオレはずっと裸だぞ。

 ずっと裸の奴と一緒なんて嫌じゃないのか」


 ずっと後ろ指をさされて生きてきたんだ。

 オレと一緒にいる奴なんていい笑いものだ。


 クズノハ笑いながら立ち上がった。


「何がおかしい」

「アッシュ、私はキツネですよ。

 今日は白無垢を着てきましたけど、そんなこと全然気になりません。

 それに……」


 クズノハは白無垢を見た。


「私の大事な白無垢はアッシュによってボロボロにされてしまいました。

 だから、他の人におヨメに行きたくてももういけません」


 クズノハは手を口にあててくすくす笑っていた。

 たしかにクズノハの言う通り、白無垢はオレに抱き着いたり、膝枕をしたりしてオレの身体にたっぷりと触れたのでもうほとんど灰になってしまっていた。


「あああ、膝枕したから下の部分ほぼ灰じゃないか」

「ふふ、抱きしめられましたから上もほとんど灰ですよ」


 白無垢はかろうじてクズノハの体にしがみついていたが、こらえきれずに地面へ落ちた。

 クズノハの透けるような白い肌があらわになった。

 銀髪が豊かな胸と引き締まった腰にまとわりついていて、赤い瞳がまっすぐにオレを見つめていた。

 ……これほど美しい人を見たことはなかった。


「これで、私もアッシュと一緒ですね」

「……キレイだ」


 オレは思わず口走った。

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