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04 勇者は人外魔境に降り立つ

 オレは魔王城を後にすると走って走って走りまくった。


「チックショオオオオオオオオ!」


 夕日をバックにオレは泣き叫びながら行くあてもなく走り続けた。

 勇者パーティーナンバーワンの脚力を持つオレだから、誰もついてこれないだろう。

 唯一ついてこれる可能性を持つ、移動支援を使える風銃使いクレアは魔王の間にめりこんでいるしな。


 泣き叫びながら走り続けたオレは魔王城から遠く離れた丘に立ち、誰も聞いてないけど叫んだ。


「オレは、勇者パーティーを追放されたんじゃない。

 オレがみんなを追放したんだ、バカヤロウ!」


 バカヤロウ……バカヤロウ……


 バカヤロウというこだまだけが響き渡った。


 はあ、これからどうしようかな。

 一人になったオレだが、不思議な解放感にあふれていた。

 人前に出るとオレは全裸だから一目を気にしなきゃならなかったけど、誰もいないから大手を振って歩けるしな。


 へっくし。

 まあ、寒いのは仕方ない。

 オレは『灰かぶり』の呪いを受けた裸の勇者なのだから。


 まあ人間の国がダメでも、この世には獣人や亜人などいろいろな種族がいる。

 どこかにはこんなオレでも受け入れてくれる場所があるかもしれない。

 気長にそんな場所を探してみようじゃないか。


 ☆★

 

 ネコ族の村には明るく、挨拶をしてみた。


「やあ、こんにちは」


 結果がこのざまだよ。

 オレは村に立ち入った瞬間、手槍や手斧を投げられネコ族の集団に取り囲まれた。

 

「「変態だああああ!」」

「殺せ!」

「クソ、お前か曲者は!」


 毛を逆立て尻尾を揺らしネコ目をギラギラと光らせたネコ族の戦士たちが、ぞろぞろと剣や槍、弓を持って曲者退治に現れた。


「ま、待ってくれ!

 話を聞いてくれ、オレは勇者なんだ」


 オレは誠心誠意話しかけた。


「そんな裸の勇者がいるものか、死ねえええ」


 オレの誠意を無視され、集団で取り囲まれ、そして……


 バキ、ボコ、ドカドカドカ。


「ケッ、口ほどにもない奴らだ」

「「うぅ……」」


 あたりには数十人のネコ族がうずくまっている。

 正当防衛だ、仕方なかった。

 

「こんなことして許されると思ってるのか、人間。

 人間にいいつけて人間界から追放してやる……」

「は、オレにそんな脅し文句が聞くものか。

 すでにオレは人間たちから追放されてるんだからなあ……

 はははははは」


 む、むなしい……

 気持ちを切り替えて次だ次。


――エルフの村


「オレは、最強の勇者だ。

 この村に匿ってほしい」


 青年エルフの護衛に連れられて村長がオレの前に来た。

 周りの誰よりも耳の長い村長はオレの顔を見て、こう言った。


「灰色の髪、灰色の瞳の勇者よ。

 近くで、その目をよく見せておくれ」


 オレが長老に近づいてかしづくと、引き留める護衛のエルフの手を振り払い、長老もオレに歩み寄ってくれた。

 目を見開いて長老はオレの顔をじっと見つめた。


 長く生きたエルフは神秘的な力を持つ。

 オレは、ハダカだけど、変態でも魔族でもないんだ。

 アンタの力でオレを見定めてくれ、頼むよ!


「この者は、ウソを言っていない。

 きっと勇者なのだろう」


 村長の言葉にオレは嬉しくなって飛び上がった。


「じゃ、じゃあ……」

「それでも、出て行ってくれないか。

 エルフの村には女子どもも多い。

 そなたの姿は、その……目に毒だ」


 長老はあわれむような目でオレを見つめていた。


「そ、そんな……」


 オレはしょんぼりと村を出て行こうとしていた。


「殺せ!」


 村を出ていくところのオレを目掛け、矢が放たれた。


「村長は殺すなと言ったが、オレたちは認められない。

 裸の勇者、そんな奴いるはずがない!」


 エルフの青年たちはオレに火球や氷の槍をぶつけてきた。


「……オレはどこに行っても認められないのか。

 ははは、相手をしてやる。

 かかって来いやああああ!」


 エルフの魔法を潜り抜け、オレのいら立ちを拳に乗せてお見舞いした。


「ぐ、ぐふうう」


 正当防衛で、美形のエルフたちの顔がひん曲がるほどボコボコにしたところでオレのいら立ちは収まらなかった。


「どこか、どこかにきっと、オレを受け入れてくれるところが……」


 イヌ族、マーメイド、ドワーフ……


 どこにもオレの居場所はなかった。

 どこでもオレに襲い掛かってきて、しょうがないから正当防衛してしまった。

 しまいにはオレは「スッパダカの村潰し」というあだ名をつけられる始末……


 どこか、どこか、オレを受け入れてくれるところは……


 さまよい続けたオレはとうとう訪れていないところがなくなって人里から隠れるようになった。

 どこに行っても、オレを見つけるだけで殺しに来る。

 山に隠れても、山狩りを始め火を点け徹底的にあぶりだす気なのだ。


 攻撃されたからちょっと正当防衛しただけなのに……


 オレは人里から隠れ続けた。

 逃げて逃げて……

 人類領域防衛ラインをさらりと超えて……


 辿り着いたは人外魔境。

 魔族とモンスターの楽園だ。

 

 オレは水場に近いちょうどよい洞窟を見つけ、そこを本拠に暮らしだした。

 追われることのない暮らし……


「ピギャアアアアア」


 あ、違う。モンスターからはすっごい追われる。

 火竜がオレを追っているようだ。


 ピギャアアアアアアア!


 オレの拳に赤竜は断末魔の叫びをあげた。


 でも、追われる相手をぶち殺しても文句言われない生活はオレにとってずいぶん気楽な生活だった。


 人里を追われる辛さを紛らわすようにオレは近寄るモンスターを片っ端から狩りまくった。

 イライラも解消されるし、何より食欲も満たされる。


 ☆★


 ――そして、3年が過ぎた。

 その頃のオレはずっと一人だったから人恋しくてどこかおかしくなっていたような気がする――


 あー、一人暮らしって最高だな。

 誰に気兼ねすることない暮らし。

 オレは冷たい岩肌丸出しのねぐらにゴロリと横になっていた。

 布団も用意しようとしたけど、結局灰になっちゃうからな。

 一応元は藁だったフカフカの灰の上に寝ているんだけど、おかげで全身灰をかぶって真っ白け。

 だれに見られるわけでもないから容姿なんて気にしないけどさ。


 まあ、3年も一人だと、話し相手くらいほしいなあ。

 最近はモンスターに話しかけているけど、あいつら「ピギャア」とか「グルルル」しか言わないもんな。

 うまいからいいけど。


 オレは友達だと思い込んでいた、骨となった赤竜レッドドラゴンに語りかける。


「お前も、細くなったよな」


 オレが食ったから当たり前だ。


「なあ、なんかしゃべれよ」


 骨だからそりゃしゃべらない。


「レッド……」


 しまいには骨に名前を付ける始末。

 そう、このころのオレはモンスターの骨にすら語り掛けるほど、人恋しかったのだ。


「何だ、甘えてくるのか」


 そう、人恋しくて幻覚すら見ていた。

 赤竜がニャーゴニャーゴとオレにぺろぺろしてくる……もちろん幻覚だ。


「こらこら、レッド。

 嬉しいのか? そうかそうか。

 ふふ、なでなでしてやろう」


 オレが、赤竜(の幻覚)に触れる。

 すると、幻覚の元となった骨はあっという間にただの灰へと変わった。


「うわああああ、レッドがレッドが、死んじゃったああああ」


 どうやら、オレの呪い『灰かぶり』は死体すらアイテムと認識するらしい。

 骨が灰になって、幻覚から目を覚ましたオレはようやく赤竜は自分が拳でぶち殺したってのを思い出した。


「キュウウウウン」


 ん? 外から嫌に可愛い鳴き声がする。

 珍しいモンスターかな?


 洞窟から外に出たオレが見たものは、巨大な魔獣と、魔獣に襲われる子ぎつねだった。

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