03 よくもだましたな
『火剣』使いゼレキオンと『風銃』使いはオレに向かって魔導武器を構えた。
「魔王を倒したら、呪いは解けると言ったな、ゼレキオン」
ゼレキオンは腰を落とし呼吸をととのえている。
オレの問いかけに答える気はないらしい。
「オレでも勇者になれると、塞ぎ込んでいたオレにかけてくれたあの言葉はウソだったのか……答えろ」
ゼレキオンは口を固く閉ざしている。
オレは『氷杖』使いに話しかけた。
「リリー、お前は呪いが解けたら旅行にいこうって言ってくれてたな。
あの言葉もウソだったのか?」
『氷杖』使いリリーはオレに歩み寄ってきた。
「違う、違うよ、アッシュ。
私はずっと……」
「リリー、中途半端な情けをかけちゃダメだよ」
「クレア」
風銃使いクレアがリリーの肩に手を置いた。
「裸の勇者なんて王様に――ひいてはこの国に認められるわけないんだ。
魔王討伐の凱旋パレードで丸裸な勇者の隣になんていたくないよ。
みんなの笑い者になるに決まってる」
「でも、私は……」
クレアの言葉を無視してリリーはオレに近づいてくる。
「リリー、アッシュと一緒にいるってことは誰からも見捨てられるってことだよ」
「それでも、私はアッシュと一緒にいたい」
制止を振り切ってリリーはオレの側へ。
「アッシュ、お願いだ。リリーを連れていかないでくれ」
ゼレキオンはオレに土下座をした。
「アッシュ、お前はこれからの人生を人里を離れて生きていかなければならないだろう、何しろ服すら着れないのだから。
リリーはお前についていきたいのかもしれない。
でも、アッシュお前も知ってるな。
リリーが生きていくために薬が必要なことを」
リリーは『氷血病』という徐々に体が凍っていくという奇病にかかっており、高名な錬金術師が作る薬でのみ進行を止めることができる。
「人里離れた山奥では薬は作れない。
リリーは街でしか生きられないんだ。
連れていかないでくれ、アッシュ」
ゼレキオンは娘であるリリーを守ろうとしているのだろう。
それに対して、リリーはオレを守ろうと、オレの前に両手を伸ばして立っている。
「私、アッシュといる。
もう決めたから」
リリーは強い決意を瞳に宿し、オレに笑いかけてくれた。
「ゼレキオン、リリーを連れていって欲しくなければかかってこい。
娘を思う父親の覚悟どれ程か。
クレア、お前も来い。
怖ければ引っ込んでいろ」
「アッシュ、あまり調子に乗らないでよね。
裸の勇者あ!」
風銃使いクレアは長く伸ばした青い髪をかきあげ、オレをにらみつけると風銃を空中に一発放った。
「リリー下がってろ」
「アッシュ、すぐに回復できるよう、準備しておくね」
リリーを後ろに下がらせた。
「どこからでもかかってこいよ」
「アッシュ……その台詞、アンタが地面にキスした後でもう一度聞かせてくれる?」
クレアがオレに向けて銃を放った。それと同時にゼレキオンは火球を飛ばしてくる。
アイテムを使えないオレに小細工などない。
クレアの銃撃をしゃがみこんでかわし、勢いを落とさず前進した。火球はオレを自動的に追尾してくるが、オレはわざと火球と同速度でクレアに突っ込んでいく。
「ハッ、火球を私の直前でかわすつもりなんだろうけど、移動すればいいのよ」
クレアはオレと火球を同時に避けるため、風銃による移動支援を使った。
オレはクレアの癖を知っている。
移動支援っていうのは移動先に危険がないか確認するようよーく指導されるものだ。
お前は、教官の言うことをしっかり守る優等生だったよな、クレア。
クレアは数秒前に安全確認のしっかりされた場所へテレポートした。
「はは、私を捕まえられるかしら」
クレアの目視で出現箇所を予測していたオレは目一杯の力で火球を蹴り飛ばしていた。
「い、いやあああ、何でここに火球があるのよ」
クレアは火球に身を焼かれながら叫んだ。
「お前の目を見れば、どこに移動するかはわかるぞ。
大きな瞳に生んでくれたお母さんでも恨むんだな」
「な、なによお!」
火に焼かれるクレアをトドメに思いっきり蹴り飛ばす。
「ぎやあああ」
ドゴーン!
クレアは頭から魔王の間の壁へ突き刺さった。
「強くなったなアッシュ」
目を細めるゼレキオンを見てイライラが増した。
「何笑ってるんだよ!
オレをだましたくせに」
オレはゼレキオンに突撃すると、勢い良く突進するオレに向かって斬撃が飛んできた。
右に左にステップで前進しながらかわす。
「これも当たらないのか」
ますます目を細めるゼレキオンを見てオレは奥歯を噛み締めた。
「余裕か、ゼレキオン」
地面を蹴ってゼレキオンに飛びかかった。
ゼレキオンが後ろに飛び退くのが、オレはゼレキオンを殴ろうとした拳で地面を殴って前転し、ゼレキオンへ再度襲いかかった。
「食らえ!」
オレの拳を避けられないと見たゼレキオンはオレの体目掛けて横薙ぎ一閃。
空中で突撃しているオレには避けるのは難しい攻撃だったが……
ガキイイイン
オレは殴りかかった腕を引いて、肘と膝で火剣を挟み込んだ。
オレの『灰かぶり』の呪いが発動、火剣ははらはらとただの灰へと変わった。
「ゼレキオン、まだやるかッ!」
オレはゼレキオンを睨みつけた。
ゼレキオンは膝をつき、両手をあげた。
「剣士が剣を取られたなら負けを認めるしかない。
だが……頼むアッシュ。
リリーは連れていかないでくれ。
お願いだ、なんでもするから」
ゼレキオンは地面に頭をこすり続けていた。
「リリー」
オレはリリーのそばに行き、抱き締めた。
リリーの長い黒髪からはとてもいい匂いがした。
二つにまとめたおさげがオレの手に触れた。
「どうしたの、アッシュ」
リリーの服はオレの身体が触れたところから灰になっていく。
「オレはお前を抱き締めることもできない」
「そんなことないよ、服が全部灰になったら私もアッシュと一緒だね。
裸の灰かぶり」
リリーは笑顔で抱き締め返してくれるが、服はどんどん崩れていく……
オレはリリーの手を振りほどいた。
「じゃあな、リリー。
元気で」
オレは振り返らず、走り出した。
「アッシュ!」
リリーがオレを追いかけてくる。
「服が崩れているのに走るな。
丸見えだぞ」
「あ」
白い肌がほとんど見えているリリーは顔を真っ赤にして胸のふくらみを抑えた。
オレはそれを見て少し笑った。
「もう……」
リリーも恥ずかしそうに笑った。
「じゃあな、ゼレキオン。
クレアのバカにもよろしく。
……さよなら、リリー」
オレは全速力で走り出した。