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02 『灰かぶり』 ~アイテム禁止の呪い~

 オレは魔王を倒した後、拳を天に向かって突き上げた。

 とても嬉しかったからだ。

 魔王に殺された親父の仇を取ることもできたし、何よりオレが魔王にかけられた呪いを解くことができるのが嬉しかったんだ。

 

 オレは両の拳を掲げた後、勝利の雄たけびを上げた。全裸で。


 ……ううん、違うよ。

 戦いが激しくて衣服がすべて燃えてなくなってしまったわけじゃないんだ。

 そもそも魔王の間に入ってきたときからオレは全裸だったんだ。


 ……そう、これがオレの呪い。

 オレに課せられた『灰かぶり』という、おぞましい呪いなんだ……。


☆★


 オレは魔王討伐を掲げた戦士の息子として、右手の甲に『光』のあざを持つ勇者として生まれた。

 勇者の誕生に村のみんなはそりゃあもう喜んだそうだ。

 勇者の息子ってこともあってそりゃあみんな可愛がってくれたんだ。

 赤ちゃんの頃は楽しかったよ、だってみんな服を着てないからな。

 オレがほかのみんなと違ってとんでもなくオカシイ奴ってことがばれる前までは。


 何しろオレときたら、服は着れない、武器は持てない、装備はできない、スプーンすら握れない……およそ人間らしいことが何一つできなかったんだ。

 

 オレが受けた呪いによって触れた道具はすべて灰になるんだ。 

 何度も道具アイテムに触れようとした。

 でも、それをあざ笑うように服も剣もスプーンでさえポロポロと灰になっていく。

 ……オレが触れただけで。


 10歳になったころにはオレはすっかりふさぎ込むようになった。

 外に出るとスッパダカなオレを誰かが笑う。

 オレは一歩も外に出れなくなった。


 剣も握れないんじゃ、魔王なんて倒せるわけない。

 きっとオレは勇者なんかじゃないんだ。

 こんなスッパダカな勇者がいてたまるか。

 英雄物語で語られる勇者は、もっときらびやかな服を装備して真銀に輝く刃でこの世にはびこる悪を討つんだ。

 オレなんかが勇者なわけないんだ。

 何が勇者だ、オレは勇者なんかじゃないんだ。

 こんな証……


 オレは左手の爪を立て、右手の甲にあるあざを精一杯かきむしった。

 肉が割れ骨が見えるまでかきむしる。


「チクショウ、チクショウ……」


 それでも、勇者の生命力っていうのは大したもので一時間と経たずに手の甲の傷も光のあざも復活していた。


「こんな力いらない、こんな力!

 オレだって普通が良かった、普通に剣を握って戦いたかった。

 どうして……どうして!」


 オレは泣きながら壁に手の甲をぶつけ続けた。


 ガン、ガン、ガン、ガン……


 すぐに回復するのも気にせず、ずっと、ずっと……

 叩く壁すらだんだんと灰になっていく。


 全てに絶望して小屋でうずくまっていたオレに『火剣』の戦士ゼレキオンが声をかけてくれたんだ。


「きっと諦めていないんだろうな。

 お前の手の甲は」


 ゼレキオンは傷ついたオレの右手を優しくなでてくれた。

 オレの傷だらけの腕を握ってくれたんだ。血で汚れるのも全く気にせずに。


「この手はお前が立派な勇者になるって信じているんだよ。

 だから、何度でも復活するんだ」


 ゼレキオンは涙を流し続けるオレを力強く抱きかかえてくれた。


「なあ、アッシュ。

 お前にかけられた呪いを解く方法があるかもしれないって言ったらどうする?」

「え?」


 オレは瞼をこすった。


「お前に呪いをかけた相手をオレは殺しに行く。

 ついて来てくれるか?」

「オレも連れて行ってくれるの?」


 剣も握れないオレは足手まといなんだって思ってた。


「お前の親父から、お前だけは守ってくれと言われていた」


 ゼレキオンはオレに微笑んだ。


「だから、オレはお前を戦いから遠ざけようとしてたけど……アッシュ、お前の右手のあざは戦いたいって言ってるんじゃないのか、だからお前が傷つけても決して消えないんじゃないか」

「……オレは……」


 骨が見えていたオレの右手の甲がわずかに光った気がした。


「なあ、アッシュ。

 お前の右手は諦めていないぞ。

 諦めなければ、負けない。

 負けなければきっと必ずいつか勝つんだ」


 オレは大嫌いだった勇者のあざを見つめた。


「ねえ、ゼレキオン。

 ……オレ、勇者になれるかな?」

「ああ、なれるさ。

 親父よりも立派な勇者にきっとなれる。

 お前の呪いを解きに、魔王を倒しに行こう」

「わかった、よろしく! ゼレキオン」

「ああ、頼むぞ。アッシュ」


 ゼレキオンとハイタッチをしたオレは久しぶりに笑顔を取り戻したんだ。


 その日から、オレの勇者を目指す日々が始まったんだ。

 剣も握れないオレだから修行はとんでもなくハードだったけど、少しずつ着実にオレは強くなっていった。

 魔導武器マギアムも魔導防具も装備できないんだから、徹底的に体を強くするしか方法はない。

 オレは血反吐を吐く思いをして、強くなり、そして……


 ☆★


 魔王を倒したんだ。

 オレは、長年の思いを吐き出すように勝利の雄たけびを上げ続けた。


「良し、これで呪いは解けたな」


 腹に開けられた大きな穴も、氷杖使いによって完全に治療されていた。

 用意してあった、これぞ勇者っていうきらびやかな装備に袖を通した。

 兜に鎧にマント。


「へへ、これでオレも勇者として表を歩けるんだ!」


 すると、見る見るうちに装備はポロポロと崩れていき、あっという間にただの灰になった。

 

「え? ……え?」


 おかしいだろ、魔王を倒したら呪いは解けるんじゃないのか?

 服が灰になったんだけどッ!


「なんだよ、なんだよこれ……」


 灰だらけで真っ白になったオレはうろうろと落ち着かずに歩き回った。


 「火剣」の戦士ゼレキオンはオレをまっすぐに見つめて言った。


「ありがとう、アッシュ。

 お前の活躍で魔王を倒すことが出来た。

 でも、呪いは解けなかったみたいだな」

「どうしてだよ、お前が呪いが解ける方法があるって、魔王を倒せば呪いが解けるってお前が言ったんじゃないか、ゼレキオン!」

「スッパダカな勇者を、魔王討伐の凱旋パーティーには連れていけない。

 追放だ、アッシュ」


 ゼレキオンは金色に光る『火剣』をオレの鼻先へ突きつけた。

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