14 TーREXのあぶり肉
「なんであんなにデカい魔獣がこんなに美味しいのよ」
文句を言いながらシャーロットはT-REXの肉にかぶりついていた。
すぐに日が暮れてしまったから、オレたちは草原で火を起こして夜を越すことにした。
オレの洞窟に帰るには夜の森を抜ける必要がある。
森には夜行性のモンスターが多く潜んでいるので、草原に居た方が安全だからだ。
激しい戦闘を経て腹が減ったオレたちは、分担してT-REXをぶった切りワイルドに焼いた。
「写真が撮れればいいやと思ってたけど、まさか倒してしかも食べちゃうなんてね」
セシルも嬉々として骨までしゃぶっている。
「でかいモンスターって強いから毒とかで体を守らないからうまいんだよな」
オレも骨付き肉にかぶりつき、鳥よりも弾力のあるかみごたえを楽しんだ。うん、脂ものっていて旨味も充分だ。
「アッシュ、知ったかぶりしないでよ。
まさかいつもモンスター食べてるわけでもないでしょ」
「え? モンスターって食べないの」
「「食べない」」
シャーロットとセシルは息もピッタリにモンスター食文化を否定した。
その割には今もむしゃむしゃT-REXの骨付き肉を食べてるじゃないか。
――アッシュ、モンスターなんて普通の人は食べませんよ。普通の動物がいっぱいいるのに、狩人がわざわざ危険を冒しませんから市場に出回りません。
クズノハが思念会話でオレに教えてくれた。
知らなかった。フツーの人はモンスターって食べないんだ。
「ははは、まあいいや。
二人はなんでこんなとこに来たの?
カメラなんて高級品持ってるのに」
「へへへ、いいでしょ。お父さんに買ってもらったんだ」
セシルは大事そうにカメラを撫でて笑っているが、きっとお父さんのことが好きなんだろうな。
対して、セシルは下を向いていた。
「どうした?」
「え? ううん、なんでもないの。ぼーっとしてただけ。
どうしてここに来たか、だったわね。
アッシュも魔導学園の生徒だから知ってるだろうけど、まだ私たち仮入学なのよ」
「そ、そうか」
魔導学園の生徒のフリをしなきゃいけないけど、全然制度も知らないから、適当に話を合わせるしかない。
「本入学試験の際に実績評価っていうものがあって、新種のモンスターを発見したとか、強いモンスターを倒したとか、新しい魔道具を作ったとか、新しい剣術を編み出したとか、そういうのがあれば試験に加点されるのよね」
「そうだったな、たしか。
それで、モンスターを倒しに来たのか」
オレは話を合わせた。
「そうだよ、先輩たちが護衛に付いて行ってやるって言ってお金をせびってきたのに僕たちを置いて逃げちゃうんだもん」
ああ、オレを見て逃げて行った奴らも魔導学園の制服を着ていたな。
「でも、逃げた先輩たちが正しいから文句は言えないわ。
私のケガも歩けないほどじゃなかったから」
シャーロットは不満をいうセシルをたしなめるように言った。
「うん、ボクだってわかってるよ。
だから、ボクはもっと早く回復できない自分に怒ってるんだ」
セシルは腹立ちを食欲に変えたのか、ガツガツ骨付き肉を食べていた。
「剣技も、魔導武器の使い方も、勉強だって頑張って普通に合格できるとは思うんだけど……どうしても魔導学園に入りたいからできることは全部しておきたくて」
シャーロットの表情から、魔導学園に入学したいんだと本気の思いが伝わってくる。
「でも、良かったよ。
T-REXの写真が取れただけでもすごいのに、討伐シーンも取れたもんね。
アッシュのおかげだよ」
セシルは肉の脂でテカテカになった口を大きく開け歯を見せて笑っていた。
「ホント、倒せるなんて思わなかったもの。
どうやって逃げるか考えていたけど、アッシュが突っ込んでいくから私も戦う羽目になっちゃった」
シャーロットは口に手をあて笑っている。
「T-REXが突っ込んできたとき、二人で真反対に跳んだよな」
シャーロットはぱちんと両手を合わせた。
「そうそう、あのとき打ち合わせもしてないのに二人で一瞬でT-REXを挟み込めてすっごい気持ちよかったよね!
パーティーで戦闘してるなあって思って、最高の気分だったの」
「パーティーを汲むときの醍醐味だよな。
オレが挑発して、シャーロットが目を攻撃してくれて……オレ一人じゃ、あんなにうまくいかなかったよ。
ありがとう」
「アッシュがいたから頑張れたんだよ」
オレたちは見つめあい、戦友として互いを認めあった。
「あの、ボクも活躍してたんだからね!」
セシルは座って見つめあっていたオレたちの間に両手を腰にあてて割り込んできた。
「すねるなよ」
「セシルも、ありがとうね」
シャーロットは立ち上がりセシルの頭を撫でた。
「ば、バカ! おねえちゃ……シャーロット、もう子どもじゃないんだ、頭を撫でないでよ」
おねえちゃ……あ、なるほど顔が良く似てるなあと思っていたけど、姉弟なのか。
髪も同じ金色だし。
「あ、きょうだいなんだな」
「そうよ、セシルは最近おねえちゃんって呼んでくれないけどね」
シャーロットはセシルの頭をぽんっと叩いた。
「もう子どもじゃないんだから、おねえちゃんなんて呼ばないよ」
セシルはオレたちの真ん中に座り口を尖らせていた。
ほんのちょっとの反抗期なんだろうけど、セシルがシャーロットを大事に思ってるのはシャーロットにも伝わっているだろう。
オレにはきょうだいなんていないから、うらやましいな。
「仲いいんだな」
「そうだね、二人きりの家族だからね」
「……セシル」
シャーロットが首を振った。
「ごめん。
アッシュ今のは忘れて」
セシルが両手を合わせて謝った。
「アッシュ、私たちは必ず魔導学園に入って強くならなくちゃならないの。
今、話せるのはそれだけ。
ごめんね、一緒に戦った戦友に秘密なんて持ちたくないけど……」
シャーロットは顔をくもらせている。
今日一日過ごしただけだけど、シャーロットの生真面目さと優しさはオレにも伝わっている。
そのシャーロットが秘密にしたいことだ、おいそれと聞くものでもないだろう。
「気にするな、だれだって秘密はあるもんな」
金の鈴がしゃらんと鳴った。
そうだよな、クズノハ。オレたちにだって秘密はあるもんな。
「ありがとう、だからアッシュお願いがあるの」
「何だ?」
「図々しいのはわかってるけど、T-REXの牙もらっていい?
それがあればT-REXと戦った実績の証明になるから」
シャーロットは両手をあわせてオレに頭を下げた。
「ん? パーティーなんだからみんなで分けるだろ? 分け前以上に欲しいってんなら別にいいけど」
「え? いや、私もセシルもほとんど何もしてないんだから3等分にはできないよ」
「ボクも写真がとれたからそれで十分だよ」
二人は手を左右に振って遠慮していた。
「そうか? じゃあオレが魔石もらうから他はお前たちが持って行ってよ」
「いや、それでも多いわよ」
オレの申し出にも遠慮するシャーロットの肩を持った。
「よく考えろ、シャーロット。
オレだって魔法学園の仮入学中なんだ、そもそも家に帰るのに全部持って帰れないぞ。
どれだけ牙やツメがあると思ってるんだ」
「あ。それもそうか」
シャーロットは笑ってくれた。