13 恐竜との戦い
「突っ込んでくるぞ!」
オレはシャーロットとセシルに声をかけた。
騎兵銃で武装したゴブリンライダーが数十体突撃してきた。
さっき燃やしたゴブリンたちは油断してニヤケ顔をしていたが、こいつらは眉と目を吊り上げて少しも油断している様子はなく、咆哮して士気を高めてもいた。
「流れ弾には気を付けろよ」
オレはシャーロットに言い残して向かってくるゴブリンライダーに突っ込んでいった。
「ちょ、ちょっと相手は銃を持ってるのよ。
なんで盾も持たず突っ込むのよ!」
そうか、盾を持つって選択肢もあるなあ。
でもスピードが落ちるからオレは武器だけでいい。
「盾がなくても対応できるさ」
「ギャギャギャ!」
パパパパパパパアン!
ゴブリンライダーがオレに向かって一斉に騎兵銃を撃ってきた。
【氷巨兵の手】
シャーロットが流れ弾対策に氷剣の技術で氷壁を作り上げた。
だが、そもそも騎兵銃なんてそうそう当たるもんではないのだ。歩兵銃であるマスケット銃だって命中率はお粗末なものなのに。
それに銃口がどこを向いているかを見て、こちらを向いているものの動向だけ把握していれば対処は可能だ。
左右にステップを交え走り続けるオレの体を、ひとつだけ銃口が捉えた。
パアアアン
銃弾はまっすぐオレの胸に飛んできて回避が間に合わないので仕方なく右手で受けた。
「クソ……」
「アッシュ!」
「くそ、痛かったからなあ、お返しだ」
オレに銃口を向けたまま旋回していたゴブリンに近づき火剣で馬ごとぶったぎった。
「アッシュ、大丈夫? 今、胸を撃たれてなかった?」
オレを心配するシャーロットを安心させるため、右手のひらを開いて見せた。
銃弾は既に灰になっており、オレの手のひらからパラパラと落下した。
「平気だぞ、銃弾は手でつかんだ」
「……何わけのわからないこといってるのよ。
でも、無事で良かった。
私回復終わったらすぐ駆けつけるからね!」
そういうとシャーロットは氷壁に隠れた。
ゴブリンライダーたちの隊列は乱れているが、みなオレに狙いをつけて打ち続けていた。
オレは銃弾をかいくぐってまだまだ燃え続けている特大の火球の元に向かった。
「へへへ、集団戦においてまず、攻略すべきは指揮官だ」
オラアアアアアア!」
オレは全力で振りかぶって、特大の火球を魔獣目掛けて打ち上げた。
「何してるのよ、まさか魔獣に攻撃したの?」
シャーロットが飛んでいく火球を見て叫んだ。
「将の首を取るのが戦術の基本中の基本だろ?」
「そうだけど、せっかく動いてなかったのに下手に刺激したら……」
「ギュアアアアアアアアアアア!」
特大の火球が魔獣の胴体に当たってあっという間に魔獣は炎に包まれた。
「な、効いてるだろ?」
「そ、そうだけど……」
巨大な魔獣は炎に包まれのたうち回っていた。
「ギャギャ?」
それを見てゴブリンライダーは動揺していた。
「どこ見てるんだよ!」
魔獣に気を取られているゴブリンライダーに次々と火剣を叩きつけた。
2、3匹叩き潰してやると、ゴブリンライダー達に恐怖が伝染していき、互いの顔とのたうち回る魔獣の様子ばかり気にしながら後ずさっていった。
よし、あと一押しで戦線崩壊だな。
「ハハハ、今なら逃がしてやる。
火球で燃やされたい奴はどいつだあ!」
オレは火剣を握りこみ、さっきより巨大な火球を作り上げた。
「「ギ、ギュウウウウウ」」
ゴブリンライダー達は雲の子を散らすように逃げて行った。
「あ、みんな逃げた。
この火球どうしようかな、熱いんだけど」
「アッシュ!」
回復を終えたのか、シャーロットとセシルがこちらに走り込んできた。
「私たちも戦うわよ!
ってなにその火球、さっきのよりデカいじゃない!」
「せっかくだし、あの魔獣にぶつけようかな」
「せっかくだしって、なによそれ」
シャーロットは驚くのを通り越して呆れていた。
『グアアアアアア!』
魔獣は全身を包み込んでいた炎に焼かれてのたうち回っていたが、炎に耐え立ち上がってきた。
「まだ、生きてるじゃない!
……ジャイアントTーREX、さすがね」
シャーロットは腕を組み、感心したように呟いた。
「へえ、そんな名前なんだ」
「人類が反映する前、地上を支配していたと言われる『キョウリュウ』と呼ばれていた種族の子孫だよ。
人間を超える知能を持ち、魔獣や亜人を支配下に置いていたって言うよ」
「じゃあ、ゴブリンを騎乗させ、銃の扱いを教えたのもこいつか」
人間でも乗馬させ、銃を扱わせるのにはそれなりの修練を伴うのにゴブリンは人間より知能が劣る。
教え込むには相当な知能が必要だから魔族にでも教え込まれたのかなと思っていたけど。
「きっとそうだよ!
今、この人外魔境以外では化石しか見つからないんだ。
人類領域では決して見つからないから絶滅したって思われてたんだよ」
話し出したセシルは妙にイキイキしていた。
『グアアアアアア!』
TーREXは、咆哮をあげ地面を揺らしながら突進してきた。
「セシル、のんびり解説してる暇ないわ。
……来るわよ!」
突っ込んでくるTーREXに対し、オレとシャーロットは打ち合わせもしていないのに同じタイミングで真反対に跳び、TーREXを挟み込んだ。
息ピッタリだな、有利な形に持ち込めたのが嬉しかったのか、シャーロットはオレにウインクしてきた。
……ごめん、オレウインクできないんだよな。
挟み込まれたことにも動じず、TーREXは牙と咆哮でこちらを威嚇してくる。
シャーロットは重心を低くして氷剣と盾を構えていて、その後ろでセシルは気配を消して『木杖』を握りすぐにでも回復できるよう準備しているようだ。
「かかってこいやあ! もう一度丸焼きにしてやるからな」
『アツカッタゾ、クソガキ。
コロス……コロシテヤルゾ、キサマアア』
TーREXはオレを睨みつけた。
【氷巨兵の指弾】
シャーロットは死角からTーREXの目に向かって氷剣をまっすぐに構え、氷のつぶてを眼球に命中させた。
「魔導武器使いはアッシュだけじゃないわよ」
『グウウウウウ……ヨクモ メニアテタナ。
コノ、コムスメガ、オマエカラコロシテヤル!』
TーREXが向きを変えた隙を見逃すオレではない。シャーロットに気を取られている間にTーREXを越える高さまで飛び上がった。
「シャーロット、いい攻撃だったぞ」
オレは特大の火球ごと飛びかかり全体重をかけてTーREXの脳天を突いた。
『グ、グギャアアアア!』
普段は固い表皮もすでに熱で弱体化しており、火剣は頭部を貫き、TーREXの頭蓋の内部を火球が暴れ回った。
『グ……フ……』
脳を焼かれたTーREXの巨体が地に沈んだ。
「勝ったな」
「やったわね、アッシュ」
オレに駆け寄ってきたシャーロットとハイタッチ。
――アッシュ、モンスター退治の最後の仕事を忘れていますよ。
クズノハが話しかけてきた。
「え、もう倒したとおもうけど」
――今までアッシュは死体に触れませんでしたけど、これからは違います。モンスターからの獲得物の肝心要、魔導武器の燃料、魔石を取りませんと。
今ままで人任せだったから忘れていた。モンスターは体内に魔石を持つ冒険者たちはこれを魔導武器に装備をして様々な技術を行使するのだ。
もちろん、高く売れる。
「オレが、魔石採取するんだな」
オレは、灰になりはしないかとおそるおそるTーREXの死体の上に立つ。
クズノハのロングブーツのおかげでTーREXは灰にならずに済んでいる。
――右手手袋も着けますからね。
音もせずにオレの右手に手袋が装備される。
「シャッターチャンスだね」
セシルは胸元にしまっていた機械を取り出し、TーREXに向けて構え金色に光る四角い機械をポチポチと押すとピカっと光を発した。
「何それ?」
「カメラだよ?」
オレが首をかしげているとクズノハが説明してくれた。
――カメラといって、その場の風景を一瞬にして写し取って絵にするっていう高級品ですよ。
「へー、便利な機械もあるもんだね」
オレは田舎生まれだし機械にそもそも触れなかったけど、都会では近年急速に機工技術が発展しているらしいな。
「アッシュ、TーREX討伐おめでとう。
魔石取ったら笑顔で上に掲げてね。
バッチリカッコよく撮ってあげるから」
セシルは嬉しそうにカメラを構えた。
オレはTーREXの胸部を火剣で切り開き、黄色に輝く巨大な魔石を取り出した。
オレが手にする初めての魔石だ。
「ジャイアントTーREX、討伐完了だ!」
オレはオレの頭ほどある魔石を空高く掲げた。
「うんうん、いい笑顔だよアッシュ!」
セシルはそう言うとカメラでオレを撮り続けた。
「おめでとう、アッシュ。
そして……ありがとう」
シャーロットはとびっきりの笑顔でオレを祝福してくれた。
――アッシュ、おめでとうございます。私も自分のことのように嬉しいです。
クズノハ、すべてのお前のおかげだよ。
ありがとう。
オレの胸についている金の鈴はいつまでも揺れて、心地よい音を鳴らし続けた。