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12 巨大火球飛ばない

「なあ、回復あと何分かかる?」

「うーん、傷が残らない様にやってるから10分くらいかな」


 セシルはのんびりと答えるが、正直傷なんてどうでもいいからせっせと直した方がいいんじゃないかな。

 のんびり回復している間にゴブリンが動き出すぞ。

 

 氷壁からあちらを覗くと、ゆっくりとゴブリンたちが歩いてくるのが見えた。


「……包丁を持ったゴブリンがこっち向かってきてるから戦わないとカツレツにされるぞ」

「そうなんだ、困ったねえ」


 セシルは動じずに回復に集中し続ける。


「何で、二人ともそんなにのんびりしてるのよ!

 あああ、カツレツにされるうう!」


 立ち上がろうとするシャーロットをセシルが腕をつかんで引き留めた。


「逃げちゃだめだ、シャーロット。

 ボクが回復し終わるまでは動かないで」

「でも……」


 何か理由があるのだろうが、セシルは大した根性だ。

 この期に及んでまだ回復を続けようとしている。


「オレが戦うよ。

 シャーロット、氷壁はまだ使えるか?」

「ええ、まだ何回かは……」

「オレが突っ込んで倒してくるけど、ゴブリンは騎兵銃を持ってる。

 流れ弾からは守ってやれないから、もし飛んで来たら防いでくれ」


 オレは二人に背を向け、ゴブリンたちへ向けて歩き出した。


「ちょ、ちょっと待ってよ。

 本当に一人で行く気なの? あなたまだ魔導学園の生徒なんでしょ?

 魔導武器マギアム使いとしてまだ半人前じゃない」


 オレは左手で火剣を掲げた。


「そうだなあ、今日、魔導武器マギアム初めて握ったからなあ」

「は? 冗談でしょ、アッシュ……」

「行ってくるよ」

「ちょっと待ちなさいって……あああ、もう駄目だ、初心者じゃゴブリンの集団に勝てるわけないじゃない。

 銃で武装してるのよ? あああ、私はカツレツになるのね、そういう運命だったのね……」


 オレは嘆き続けるシャーロットに背を向けてスタスタとこちらに向かってくるゴブリンの前に立った。

 ゴブリンたちは所詮手負いだと思って油断しているのか、包丁を持ってこちらに歩いて来ていた。

 ひいふうみい……10体ってとこか。


「ギャギャ」


 ゴブリンたちは完全になめているのか取り囲もうともせず、横を向いて何やら奇声を発しながらゆっくり歩いて来ていた。


「へへ、ちょうどいい。

 初めての魔導武器マギアムの餌食になってもらうとしよう、頼むぜ火剣」


 オレは火剣を握り、剣先に火球を生成した。


「ちょっとアッシュ何それ!

 火球大きすぎるわよ!」


 火球はオレの身体がすっぽり収まるくらいのサイズだ。

 作っているオレにも熱気が伝わってくる、というか熱い。

 

「ん? ゼレキオンの火球はこれくらいだったぞ」

「そりゃ、火剣の戦士ゼレキオンさまならそれくらいの大きさだろうけど……

 あなたとは格が違うわよ」


 シャーロットによればゼレキオンは偉大な戦士としてみなに認知されているようだ。


「そうだな、オレの方が強いからオレの方が格上だからな」

「もう、何冗談言ってるのよ」


 オレは冗談なんて言ってないけどなあ。


「まあ、いいや。

 じゃあ、火球よ飛べ!」


 火球はうんともすんとも動かない。試しに剣を振ってみてもピッタリ剣先に張り付いて動こうとしなかった。


「アレ?」

「まさか、アッシュ火球飛ばせないの?

 そんなに大きい火球作れるのに?」


 シャーロットは驚いていた。


「はははは、そうみたいだな。

 すまん、シャーロット教えてくれ」

「アッシュ、今日初めて魔導武器マギアム握ったって言ってたけど、もしかして本当なの?

 私は氷剣の扱いしかわからないわよ」


 オレはすがるような眼でセシルをみつめた。


「ボク、杖しか使えないよ」


 ははは、まずいなあ、飛ばない火球なんてただのでかい松明たいまつだぞ。


――アッシュ、火球早くどうにかしてください。私、干からびてしまいます。


 オレの服となっているクズノハが熱さに弱音を吐いた。


「飛ばないなら、することは一つ」

「何する気なの?」


 シャーロットが呆れたような顔でオレに聞いてきた。


「オレが飛べばいい!

 はああああああ!」


 オレは地面を強く蹴りだし、空高く飛んで前転するとゴブリンの目の前に着地した。


「「ギャギャ!」」


 急に目の前に火球が現れたのでゴブリンは驚きの声をあげていた。


「くらえええええええ!」


 オレはゴブリンに向かって火剣を横から叩きつけた。


「「グギャアアア」」


 一匹のゴブリンにクリーンヒット。あっという間に炎に包まれた。

 残りのゴブリンも都合のいいことに横一列になっていた。



「火球が飛ばないなら、燃やしたゴブリンを飛ばせばいいんだ。

 飛んでけオラアアアアアアッ!」

 

 オレは叩きつけた火剣をそのまま力任せにぶん回した。

 すでに炎に包まれその身を火球と化したゴブリンが、弾丸となって他のゴブリンに襲い掛かっていく。


「ギャ」「グギャ」「ピギ」「ポグ」

「「プギャアアアアア‼」」


 一列に並んだゴブリンはあっという間に弾丸に巻き込まれ10体仲良く特大の火の玉となった。


「はあ?

 アッシュ、いまアンタ何やったのよ!」


 驚いたシャーロットが慌てて立ち上がろうとしたが、セシルがマントを引っ張って止めた。


「回復中だよ、落ち着いて」

「だって、あっというまに10体のゴブリンを倒したのよ?」


――ふう、やっと火球が離れてくれました。アッシュ、変身して服になっても熱いものは熱いんですからね。


「ああ、ごめんなクズノハ」


 オレは鈴を鳴らして熱かったと伝えてくるクズノハに謝った。


「なに、ブツブツ言って鈴を撫でてるのよ」

「ごめんな、すぐに助けてやりたかったから」

「……な、なにを言ってるのよ……ありがと」


 オレは熱い思いをさせたクズノハに謝ったが、なぜかシャーロットが感謝をしてくれた。


――いえ、この子たちを助けたかったのでしょう? 私は平気ですよ。


 強がっているクズノハだが、きっと熱かったのを我慢しているのだろう。


「可愛いな、お前は」

「ば、馬鹿じゃないの!

 アッシュ、からかわないでよね!」


 オレは鈴をなでながら、クズノハに話しかけた。

 なぜか、シャーロットは顔を真っ赤にして震えている。


「シャーロット、動くと回復できないよ」


 セシルは冷静にシャーロットのマントを引っ張っている。


「そうだぞ、動くなよ」

「アッシュのせいでしょうがああ!」


 シャーロットは興奮しているようで、なぜか怒られてしまった。


「おい、遊んでいる暇はないぞ。

 ゴブリンを燃やしたせいで、一斉に騎兵銃を持ったゴブリンライダーが襲ってくるぞ」

「……遊んでる暇なんてアッシュに言われたくないけど、そうね。

 もうそろそろ私も動けるかな」


 セシルは首を振った。


「せっかくいい感じだったのにシャーロットが動いたからまだまだだよ。

 あと7分かな」

「まったく落ち着きがないな。

 シャーロット動くなよ、セシルが困ってるだろ」


 シャーロットは眉を吊り上げていた。

 

「……だれのせいだと思ってるのよ」

「「シャーロット」」


 オレとセシルが答えた。


「……アンタたち……ぶっ飛ばすわよ」


 シャーロットは怒りで顔を引きつらせていた。 

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