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01 魔王死す

よろしくお願いしたします

 すべてのニンゲンが魔法力を失った世界。

 でも、襲い掛かってくるモンスターはそんなこと気にしちゃいないわけで、ニンゲンたちが魔法を使えようと使えまいと容赦なく襲い掛かってくる。


 それでもその世界の者達はたくましく生きていくしかないわけで……

 失われた魔法力の代わりをすぐに用意してみせた。


 機工技術で加工した金属にモンスターの体内から得られる魔石をはめ込んで動力として使用することで、魔法にけして劣らない効果を生み出すことができる『魔導武器マギアム』を作り出した。


 冒険者はこぞって『魔導武器マギアム』を使い、モンスターや魔族などと必死に戦い、人間の領域を確保し続けていた。


 そんな世界にオレ――アッシュ・シルバーマンは『勇者』のしるしである光のあざを右手に持って生まれてきた。


 魔王に対抗しうる勇者の誕生に、オレの生まれた小さな村は喜びの宴を毎夜繰り広げるほど。

 それもそのはず、偉大な冒険者であったオレの父は、オレが生まれたその日に魔王の攻撃で体を貫かれ帰らぬ人となったそうだ。


 父の死の知らせを受けて絶望に包まれていた小さな村は、オレの誕生を喜び、そして父が果たせなかった魔王の打倒をオレの右手の勇者のあざに託した。


 そして、12年が過ぎた……


 ☆★


 『火剣』使いの戦士が剣を振る。

 切っ先から巨大な火球が数発生成され、魔王へ飛んでいった。

 魔王の出方を探るための攻撃で、たいしたダメージにはならないだろう。

 魔王は飛んでくる火球を右手を払って受け流した。


 火球による多少の熱は魔王に届いたはずだが、頑健な体にはヤケド一つつけることはできなかったようだ。

 それでも牽制と、注意を引き付けることはできたはず。


「今よ、用意はいいわね。

 アッシュ!」


隼の弾丸(ファルコンバレット)


 しゃがみ込んだオレに向かって『風銃』使いが引き金を引く。

 銃口から放たれた緑色の光がオレの身体を包み、オレは弾丸のように魔王へ飛び出していく。

 

 『風銃』による移動支援であっという間に魔王と目の鼻の先へ。

 よし、もう少しで親父の仇、魔王をぶん殴ってやれる。

 そして、魔王を倒したら魔王がオレの体にかけたという呪いを解くことができるんだ!


 近づいてきたオレに対して魔王はニヤリと笑い、先ほどのお返しとでもいうつもりなのだろうか。

 特大の火球を数発オレに放ってきた。

 このまま、至近距離で火球を受ければオレもただでは済まないが……


「なぜ笑っている?」


 魔王の問いかけに対し、オレは笑ってみせた。

 

「火球が来るって予想してたからなあッ!」


身代わり(スケープゴート)雪男(スノ-マン)


 『氷杖』使いがあらかじめすぐに発動するよう仕込んでいた氷壁でオレの体を包みこみ、炎から守ってくれた。

 プライドの高い魔王のこと、自分の魔法と同じ効果で攻撃されたならば、必ず同じ魔法でやり返してくる。

 一度、オレの父親と一緒に魔王と戦ったことのある火剣使いの戦士の入れ知恵だ。


「く、だが人間に私の魔法を防ぎきることなどできるはずがない!」


 魔王はうろたえている。


「今だ!」


 火剣の戦士がうろたえた魔王へ斬りかかるが、魔王はうろたえながらも左手で戦士の腕をつかんだ。


「ククク、また私に敗れ瀕死の仲間とスゴスゴと逃げ帰るか、火剣使い」

「チクショウがあ!」


 魔王は戦士の体をやすやすと片手で持ち上げ、近づいて来ていた風銃使い目掛けて投げ飛ばした。


「キャア!」

「す、すまん……」


 火剣使いの体が風銃使いをなぎ倒し、二人は折り重なって倒れた。


「お前らの陽動無駄にはしないぞ」


 オレは火剣使い達が時間を稼いでくれている間に力を貯めて地面のくぼみに潜んでおり、右手に全体重をかけた拳を強く握りこんで魔王へ飛びかかった。 


「くらえええ!」


 フルスイングの右ストレートを魔王のボディ奥深くへ。

 思いっきり深くまで突き刺さったストレートにたまらず魔王は膝をついた。


「グ、グアアアア」


 泡を吹いて倒れる魔王のすかさず上を取って足で体を挟み込み両の拳で乱打、乱打ァッ!


「オラオラオラオラアラァツ!」


 オレは魔王の顔面目掛けてしこたま拳を打ち付ける。


「どうだ!」

「ふん、ただの拳での攻撃など……ギヘエエエアアア!」


 魔王はたまらずうめき声をあげる。

 オレの右手の甲のあざが光っていた。


「まいったか!」


 なおも、乱打を続けようとかまえたその時……


 ブスウ……


 クソ、魔王め。もう手を動かせるのか。


「アッシュ!」


 氷杖使いがオレを心配して叫んだ。

 オレの体は魔王が伸ばした手から生えた大きなツメにより風穴をあけられていた。


「グ……」


 オレは口から血を吐いた。


「大丈夫、これぐらいの傷……

 オラオラ、オラララララァッ!」


 オレは自分の体を気にせず、ガンガン魔王の体を殴り続けた。


「持ちこたえて、アッシュ!」


 氷杖使いがオレに回復魔法を飛ばしてくれる。

 助かる、死なずに殴り続ければオレの勝ちだ!


「チクショウが、ニンゲンめ。

 内臓をえぐられたのにそこまで虚勢を張るなら体の中から燃やしてやるぞ!」


 魔王はオレの拳の乱打の痛みに顔面をゆがめながら叫んだ。


 ≪炎のツメ(ヒートクロウ)≫


 魔王はオレの体に突き刺さった爪に炎をともし、手を回転させてオレのはらわたをかき回す。


「グウウ、焼けるように痛ええ!」


 オレはたまらず叫んだ。


「バカモノめ、文字通りに焼いておるのだ。

 しかし、お前の右手を見るに勇者らしいが、なぜ素手で魔王に挑む?

 なめているのか?」


 魔王の言葉にオレの髪の毛は逆立った。


「俺が武器を持てないのは、お前がかけた呪いのせいだろうが!

 アイテム禁止の『灰かぶり』っていうヒドイ呪いをよくもかけてくれたなあ。

 お前のせいでオレの人生散々だったんだ。

 武器も持てない、装備もできない、服すら着れない……

 あの世でオレに謝り続けろ、クソ魔王がッ!」


 逆上したオレは、オレの手から肉がめくれ、骨が見えるのもかまわず徹底的に魔王を殴って殴って殴りまくった。


 ドガガガガガガッ……


 やがてピクリとも動かなくなった魔王の上から立ち上がったオレは、拳を掲げて叫んだ。


「オレは勝った。

 魔王をオレが倒したんだ!」


 オレは嬉しさにしばらく拳を掲げていた。全裸で。



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