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第52話

 リーリエル達の前で、獰猛な野犬型モンスターが唸り声を上げていた。

 ヘルハウンドである。

 地獄の魔犬とも称されるモンスターであり、その背には炎を纏っている。

 ヘルハウンドは素早く動き、リーリエル達を翻弄しようとするが、


打撃術ストレングス!」


爆裂矢ブレイク・アロー!」


「てぇぇいっ!!」


 ヘルハウンドに対し、リーリエル達は魔力強化した拳で殴り、魔法の矢を撃ち込み、剣で薙ぎ払った。


 ヘルハウンドはダメージを負いながらも、リーリエル達の攻撃を耐えきる。

 が、苦しそうに低い声を漏らした。

 自身を鼓舞するように大きく吠え、一番接近していたリーリエルに身を躍らせて襲い掛かる。

 リーリエルに噛みつこうと、ヘルハウンドの獰猛な牙が姿を現した。


「はっ!!」

 

 短く息を吐き、リーリエルは飛び込んできたヘルハウンドの牙ごと顔面を打ち抜いた。

 カウンターが決まり、鈍い音がしてヘルハウンドは吹き飛んで倒れる。その頭に、ミーナがすかさず剣を突きたてた。


「……よしっと!」


 びくんっとヘルハウンドの身体が震え、魔石へと変化する。

 ミーナがほっとして剣を収めると、パチパチパチと拍手の音がした。


「お見事でした、みなさん。

 あれだけ速く動き回るモンスターを相手に、よく正確に攻撃を当てられるものですね」

 

「まぁね! 

 ボクたち、そんじょそこらの冒険者とはワケが違うからさっ!!」


「護衛が皆さんで本当に助かります。

 これなら私も安心して探索ができますね」


「大船に乗ったつもりでいていいよ~」


 胸を張るガヴリーに、セルビオがもう一度拍手する。

 ミーナがヘルハウンドの魔石を拾い、魔石袋へと収めた。


「浮かない顔だな、ミーナ」


「え? ……うん、ちょっと気になったんだ。

 ヘルハウンドってさ、Bランク下位のモンスターなんだけど」


「あぁ」


「ダンジョンって基本的に、弱い魔物(・・・・)から出てくるものなんだよね」


「そうか」


 リーリエルはミーナの懸念を察する。


「私たち、ヘルハウンドは結構あっさり倒せたけどさ。

 探索を始めてすぐにヘルハウンドが出てきたってことは、この先にもっと強力なモンスターが出てきてもおかしくない。

 そうなると、ちょっと厳しいかもしれないね」


「それを聞いて安心した」


「安心?」


「温いモンスターをいくら相手にしたところで、腕が鈍るだけだ。

 むしろ好都合だな」


「……リー君ってば、相変わらずだねぇ」


 ミーナは、しょうがないなぁという風に苦笑した。




 リーリエル達は草原を進み、途中で出くわしたモンスターを討伐していく。

 ミーナの心配とは裏腹に、モンスターは大半がヘルハウンドに劣るモンスターであり、リーリエル達の敵ではなかった。


炎舞矢フレイム・ショット

 もひとつ、炎舞矢フレイム・ショット!!」


 ガヴリーから放たれる連続の炎の矢が、2匹のヘルハウンドを捉えて燃え上がった。

 ヘルハウンドは自身の背に炎を纏うほどの炎属性寄りのモンスターであるが、ガヴリーの炎魔法を多少軽減したところで耐え切るほどの魔法耐性は持っていなかった。


「ふっ、ラクショーだね!」


 断末魔の声を上げて、ヘルハウンドが倒れた。

 魔石へと変化し、ガヴリーが拾い上げる。


「Bランクモンスター程度じゃボクの敵じゃないなぁ。

 この調子だと、ボクってばすぐにAランク冒険者になっちゃいそうだねっ」 


「ガヴちゃん、油断大敵だよ。

 ダンジョンなのにここまで罠もない。

 上手くいきすぎてる」


「ミーナってば心配性だなぁ」


 ガヴリーが軽くジャンプをして、ミーナと肩をぶつけた。

 バランスを崩したミーナを、セルビオが支える。


「あ、ありがとうございます、セルビオさん」


「みなさん、まだまだ元気が有り余っていそうですね。

 よかったです」


 にこにこと笑うセルビオ。

 ミーナはセルビオの腕から、ぱっと離れて苦笑した。


「ちょっとガヴちゃん、危ないよ。

 あんまり調子に乗ってると、痛い目に遭うかもしれないんだから」


「ふふん、ボクの戦闘センスの前では、何人たりとも傷なんてつけられっこなぐぇ」


 ガヴリーが潰れたカエルのような声を出す。

 リーリエルがガヴリーの首根っこを掴んでいた。


「べほっ、ごほっ!?

 …………ちょっと、リー!! いきなり何すんの!?

 今完全に息止まったんだけど!!」


「お前、アレと接近戦をするというのか?

 ならば止めることはなかったな」


「アレ?」


 ガヴリーがリーリエルの視線を追うと、10メートルほど先に巨大な大男がいた。

 体長は5メートル程。全身は蒼色で、顔の中心部には一つだけの目があり、腰に布を巻いている。

 巨大な金砕棒かなさいぼうを手にして、口からはみ出た牙が合わさるたびに音が漏れた。


「ちょ、ひょえええええええ!?」


「サイクロプス!? いつの間に!?」


 ガヴリーは慌てて下がり、反対にミーナが剣を抜いて前に出てくる。

 ミーナの隣でリーリエルが油断なく構えた。

 セルビオは、さりげなく後ろへと逃げて距離を取っていく。

 サイクロプスの身体が僅かに沈み、大きく跳躍してリーリエル達に襲い掛かった。


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