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第51話

 翌朝、朝食を採った後、リーリエル達はセルビオに連れられて山道を移動していた。


「今から行くダンジョンは、すでに探索済みのところだ。

 目ぼしいアイテムや宝なんかは残ってないだろうね」


「確か、気になるところがあるんでしたっけ?」 


「そう。ダンジョンにはたまに、おかしな仕掛けがあったりするんだ。

 普通に探索していたら気づかないことが……どぇあ?!」


 斜面で足を滑らせて、セルビオは10メートルほど転がっていった。

 ミーナが慌てて追いかける。セルビオは大きな樹に引っかかっていた。


「だ、大丈夫ですか!?」


「ははは、平気だよ。

 この辺りは足場が悪いことを忘れてたよ」


 ミーナは手を引いてセルビオを起こし、元の道へ戻るまで付き添った。

 腕組みをして待っていたリーリエルは舌打ちした。


「おい、俺はこんな奴の護衛をしなければならんのか?

 モンスターどころか、目的地に着く前に勝手に死んでそうだな」


「うーん。エルフって魔力は強いけど、身体能力は人間とあんまり変わらないからねー」


 肩をすくめるガヴリー。

 セルビオは苦笑して頭をかいた。


「お恥ずかしい。

 自分で言うのもなんですが、僕はかなり鈍くさいですから。

 それに魔力も大して高いわけではありません。

 ですので、戦闘に関しては本当にからっきしです。

 皆さんに守ってもらわなければ、このあたりを出歩くのも危険が伴いますね」


 足場を意識して、セルビオが歩き出す。

 ミーナは、またセルビオが転がっていかないよう注意しながら話しかけた。


「じゃあ、どうしてあんな洞窟に住んでるんですか?」 


「それはもちろん魔導研究のためです。

 人里では雑音や邪魔が入りますから」


「ざ、雑……?」

 

「はい。どこで嗅ぎつけてきたのか、僕の研究を元に商売をしたいという方が何人もいました。

 貴族にも目を付けられてしまったようで、街に住んでいたころは居丈高な人がよく訪ねてきましたよ。

 相手をする気はなかったので放っておこうとも思いましたが、何度か身の危険を感じることもありまして。

 やむなく住居を変えて、また何者かが訪ねてきて、と繰り返して今の洞窟に移り住んだのです」


 セルビオは飄々と語る。


「僕としてはパトロン的な存在がいれば助かりますが、僕の研究にあれこれ口を出してくるのはいただけませんね。

 興味のないことはやりたくありませんし、興味のあることを妨げてほしくありません」


「今は、どんなことを研究してるんですか?」


 ミーナの問いにセルビオは目を輝かせた。


「召喚ですね。

 召喚と一口に言っても、魔物召喚を始め、魔獣、悪魔デーモン、その他人族の召喚などがあります。これらは別物として扱った方がいいでしょう。

 特に悪魔デーモンと人族の召喚は興味深い。

 悪魔デーモンの召喚はいくつか事例がありますよね。

 文献に残されている情報量も多い。手間も準備もかかりますが、おそらくその気になれば可能な方はいるのでしょう。と言っても、国を滅ぼすような本物の悪魔デーモンを召喚できる方はいないでしょうが。

 翻って、人の召喚というのは非常に事例が少ない。

 私が知る限りでは実例を確認できるものはなく、扱う文献は眉唾ものばかり。

 召喚された人というのは、圧倒的な力や特殊な能力を持つ者が多いですが、これは国の王族の祖先とされる者がほとんどです。

 そしてこの者たちは例外なく、災厄から人々を救う、強大な魔物を倒す、といった奇跡とも言える偉業を成し遂げます。

 しかしその割に残される資料は少なく、現存するのは具体性に欠けるものばかりです。

 つまり、国を治める王の権威付けとしてのおとぎ話のような面が強いわけです。

 ですので、召喚されたという人物が実際に存在するのかは疑わしいものでありますが……」


 怒涛の如く話し続けたセルビオは、ミーナとリーリエルに視線を向ける。


「これから行くのは、僕としては非常に気になる場所でして。

 偶然にも、あなたがたのような人達が護衛となっていただけて望外の幸運を感じています」 


 にっこりと笑うセルビオに、ミーナは「は、はぁ」と曖昧に相槌を打つことしかできなかった。


「何この人、急にめっちゃ喋るね……」


 若干引き気味のガヴリーは、興味なさげにしているリーリエルの後ろに回った。


「腐れた武器屋の店主を思い出す。

 気分が悪いな」


「あぁ、なんか似てると思ったらゲルトさんかぁ」




 リーリエル達はダンジョンの入り口に到着した。

 下へと続く石階段があり、周囲も石で覆われている。

 かなり奥まで階段が続いていて、山の中にあるものとしては場違いであった。


「よーし、じゃサクサク行こっか!」


 ガヴリーが肩を回しながら階段を降りていく。


「待ってください、ガヴリーさん。

 入り口はこちらですよ」


「ふぇ?」


 セルビオが何段か階段を降り、壁面を手でなぞる。

 セルビオの手に合わせて、鉄の扉が浮かび上がってきた。


「む」


「……わぁ」


「ふぇぇええ!? いきなり隠し扉!?」 


 リーリエル、ミーナ、ガヴリーが三様に反応する。


「さぁ、早く行きましょうか」


 セルビオが扉を押して中へと入る。

 リーリエル達も続くと、そこには広大な草原が広がっていた。

 

「……え? どゆこと?」


 ガヴリーが呆然とする。

 リーリエルは周囲をぐるりと見回して感想を漏らした。


「広いな」


「広いねー」


「いやいや、待ってよ!

 なんで山ん中にこんな広いとこあるんだよ! 大きさ合わないでしょ!! 絶対おかしいよね!?」


「あるのだから仕方がないだろう。

 しかし、俺たちが入ってきた後ろも存在するのか。

 奇怪な場所だな」


「げ!? 扉なくなってるじゃん!?

 どうやって戻るのこれぇ!?」


 ガヴリーが元の扉の場所を探すが何もない。

 ただただ、草原が広がっているだけであった。


「ここは一方通行になっているようです。

 戻ることはできないので、進むしかありませんね」


「なにそれ、怪しすぎる!? 嫌な予感しかしないー!!」


 ガヴリーが慌てふためき、セルビオはガヴリーのリアクションを楽しんでいる。

 小動物を見ている気分だった。


「ミーナ、この世界のダンジョンとは、こういうものなのか?」


「そんなことないよ。大半は普通の遺跡なんだけどね。

 たまぁに、ここみたいに全然別の空間に出ちゃうこともあるんだ」


「別の空間……」


 リーリエルの目がすっと細くなる。


「それは俺たちが、ここへ転移したということか?」


「どうなんだろ。

 私は詳しいことはわからないんだけど……」


 考え込みながら、ミーナはセルビオに視線を向ける。

 にこにこと笑いながらセルビオは解説を挟んだ。


「先ほど僕達が通った扉、普通であれば当然洞窟内部に繋がるものですが、この草原へとたどり着きました。

 これは、空間の位相がズレているため起きる現象です。

 あの扉を通じて、本来は交わることのない空間へと繋がってしまったのです。

 普通の方法では絶対に入れない、隠し部屋のようなものですね」


「ここは、先ほどまで俺たちがいた世界とは異なるということか?」


「厳密に言えばそうとも言えますね。

 しかし、この空間は『世界』と称するほどの大げさなものではないでしょう。

 小さな街程度の大きさはあるでしょうが、その程度です」


「つまり、これはあらかじめ指定されている場所にだけ行けるということか?」


「はい」


「では、指定されていない空間……他の世界へ繋ぐ方法はあるのか?」


「…………」


 リーリエルの問いに、セルビオが考え込む。

 ふっと笑い、セルビオは告げた。


「あるかないかで言えば、ありそうですね」


「その様子だと、お前に心当たりはなさそうだな」


「他の世界への移動など、突拍子もない話ですからね。

 そもそも、前提として他世界が存在するかもわかりませんから」

 

「その前提を考える必要はない。

 存在する」


 言い切るリーリエルを、セルビオは興味深そうに見ていた。

 なんとも言えない空気を壊すように、ミーナは補足するように言った。


「えっと、ダンジョンでこういう場所に出るのは、結構危険なんだよ。

 どういうモンスターが出るのかってこともそうだけど、そもそも元の場所へ戻るのに苦労することが多いから。

 場合によっては永遠にさまよったりする羽目になるなんてことも……」


「ほう。

 つまり、実力もなく冒険者としての経験が足りていない者は、こういった場所に足を踏み入れることはないわけか」


 リーリエルがガヴリーを見ながら、訳知り顔で頷く。


「ちょっと、なんでボクを見るのさ!

 大体リーだって知らなかったんでしょ!!」


「今知った」


「ボクだって今知ったよ!!」


「まぁまぁ、ガヴちゃん。

 とにかく今は進もうよ、ちゃんと出口はあるんだろうし。

 ですよね、セルビオさん?」


「ええ。おおよその道筋はわかります。

 ちゃんと案内できますよ」


 セルビオの笑みを見て、ガヴリーは安堵した。


「なんだぁ。じゃあ、今度こそサクサク行こう!

 広いだけで、やることが変わったわけじゃないしね!」

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