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第49話

 デグレアからの護衛依頼から10日が経った。

 街に戻ると、ベルグとイレーヌとは別れ、リーリエル、ミーナ、ガヴリーはギルドで食事をしていた。


「あー、お腹いっぱいだよー。

 ボク満足~」


 ガヴリーが腹部に手を当て、気の抜けた笑顔を浮かべている。

 リーリエルはぴくりと眉を動かし、何気なく言った。


「そうだガヴリー。

 お前、今日から床で寝ろ」


「ぶほっ!?

 ちょっと、いきなり何言うのさ!?」


「暑いのだ。

 ここ数日、気温が上がってきている。

 お前が隣にいたら暑苦しいだろう」


「なにをー! ボクだって暑いの我慢してるんだからね!」


「お前は我慢して当然だろう。

 というか、いい加減部屋を出ろ。

 お前のいた宿には、未払い分の金は払ったのだろう。そっちに戻ればいい」


「う゛……そ、そりは……」


「え? ……ガヴちゃん、もしかしてまだ払ってなかったの?」


「ち、違うよ! 払ってる払ってる!!

 ……ただ、ボクはもう、ここには来ないでって言われちゃってて……」


「なるほど、代金を滞納するとたとえ支払い済みとなっても今後の取引に応じられなくなるのか。

 考えてみれば至極当然の話だな。

 そんな面倒な客、相手にはしたくはないか」


「うわーーーー!! リーには言われたくなーーーーーい!!!」


 わっと泣き出すガヴリー。


「でもさ、ガヴちゃん。

 そこがダメでも、普通に別の宿に泊まればいいんじゃない?

 私たちが止まってる宿で、別の部屋を取ってもいいんだし」


「う゛……そ、そうなんだけどぉ……ねぇ……」


 ガヴリーが気まずそうに魔弓を取り出す。


「これの支払い、まだ全部は終わってないんだよね。

 だから、あんまり自由にお金使えないっていうか……」


「ガヴちゃん……」


「………」


「やめてー、二人して呆れた目しないでーー!!

 武器屋の店長さんは了承済みのことなんだよーー!!」


「だからといって、お前が金にいい加減なことは変わらんだろう」


「なんだよーー、リーなんてお金のことは全部ミーナにお任せのくせにーー!!」


「阿呆が。この昼食代、だれが支払ったと思っている」


「……え゛………………そ、そんな……まざが?」


 絶望していくガヴリー。


「オーク討伐をした日、宿から追い出されたお前の姿を見て俺も気が変わった。

 金の管理など面倒でしかないと思っていたが、金がないことは非常に情けない事態となるのだと知ったのだ」


「ぐ、ぐぅぅぅぅぅ」


「わかったか?

 では今日から床で寝ろ。それが嫌なら、とっとと出ていくのだな」


「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」


 ガヴリーはドンドンと机を叩くが、何も言い返せなかった。


「ねぇ、ガヴちゃん。だったら私のベッドで寝ればいいよ。

 ちょっと暑いかもだけど、堅い床よりはいいでしょ」


「……………………」


 ミーナの気遣いに、しかしガヴリーはすっと目を逸らす。


「あれ? ダメ……だった?」


「……だ、ダメっていうか……え、えへへへへ」

 

「……ミーナ、お前、恐ろしいことを言うな。

 俺でもそこまで酷なことは強要できん」


「こ、酷なことって。リーくんってば何言って……」


「ぅぅぅ、抜け出せない、抜け出せないよぅ……。

 もうベッド間違えません、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 お願いですから離してください許してくださいぃぃ……」


「やめろガヴリー、もう忘れろ」


「ところで東方の大陸にジョロウグモっていうモンスターがいるんだけどさ。

 旅人が通りかかる森とかにいて、普段は女の姿してて、話しかけるとでっかい蜘蛛の姿になって、人を捕まえたら万力で固めちゃって、そのままボリボリ貪るんだよ」


「待ってガヴちゃん、今その話って何にも関係ないよね?

 ちょっとリー君! なんで納得したみたいな顔してるのー!!」


「納得しかできんからだ」


 ギャーギャーと三人で騒いでいるところへ、近寄ってきた者がいた。


「あぁ、やはりみなさんでしたか! ちょうどよかった!」


 三人が顔を向けると、声の主はハーフエルフの男だった。

 緑の髪からのぞく耳は、人よりも長い。


「先生?」


「バルビナか」

 

「……だれ?」


 三者三様の返事に、バルビナは苦笑した。

 ミーナにすすめられ、バルビナが席につく。


「実はひとつ、冒険者の方にお願いしたい依頼がありまして。

 それでギルドへと来たのです」


「先生が依頼?」


「正確には依頼主は私ではなく、私の古い知り合いです。

 先日発見しまして」


 発見、という言葉に3人の頭に?マークが浮かぶ。


「その知り合いとは長らく連絡が取れずにいて、しかもいつの間にか引っ越してしまっていて。

 先日、どうにか会うことができたところ、探索に付き合って欲しいと言われてしまいました。

 ですが、私は神父の身です。

 何日も教会を空けるわけには行きません。子供たちもいますしね」


「探索、ですか」


「ダンジョンとか?」


 ガヴリーの言葉に、バルビナは頷く。


 ダンジョンとは、古代の遺物が眠る巨大な洞窟のような場所である。

 いつ、何の目的で作られたかは定かではないが、遺されたアイテムや武器は強大な物も存在し、その有用性は広く知られている。

 ダンジョン内には平時の山や森よりも多くのモンスターが闊歩し、戦闘は避けられない。

 力のない者のみでの探索は不可能であった。


「はい、そこはすでに探索済みの古いダンジョンらしいのですが、知人曰く、調べたい点がいくつかあるそうで。

 ダンジョン内にはモンスターもいますし、護衛を頼みたいとのことでした」


「また護衛依頼か」


「この前のは、護衛依頼とは名ばかりのものだったような気もするけど……」


「いかがでしょう。この依頼、できればミーナさんたちにお願いしたいと思うのですが」


「先生、もう少し、詳しい内容を教えてくれますか?」


 それからバルビナは依頼の詳細を語った。

 ダンジョンの場所は、ここより南の山を越えた反対側の箇所であった。

 ダンジョン内のモンスターの大半はCランク、つまりオーク級の強さ。

 依頼人はバルビナと同じくハーフエルフで、戦闘能力は一般人と変わらない。


「うーん、これぞ護衛依頼って感じだねぇ……」


 ミーナが腕を組んで逡巡する。


「先生からの紹介だし、受けたいとは思うけど……どうする?」


「えー。報酬いいし、受けようよ~~」


「でも、結構遠いよ? この前のは馬車だったけど、これは歩いていくしかない。

 私やリー君は大丈夫だと思うけど、ガヴちゃんは体力的にきつくない?」


「平気、平気~。

 ボクこれでもBランク冒険者だから! Bランクだから!」

 

 嬉しそうに胸を張るガヴリー。

 前回のデグレアからの依頼を終えて、ガヴリーはCランクからBランクへと昇格していたのだ。

 ちなみに、リーリエルのランクは現在Cである。

 

「リー君はどう思う?」


「面倒だな」


 一言で切って捨てるリーリエルに、ガヴリーが笑う。


「ふふふふん。Cランクのお嬢ちゃんには難しいかもねー。

 この依頼、ボクはBランク相当とみたよ。

 ダンジョン内は、狭い場所もあるから行動も制限されるのさ。

 護衛しながらの戦闘になるだろうし、経験がないと、ちょーーっと厳しいんじゃないかなぁ~」


 得意気なガヴリーに、リーリエルは端的に突っ込む。


「お前は金に釣られただけだろう」


「だって本当にお金ないんだもーーん!!

 店長さんは待ってくれてるけどさ、ちょっとでも支払いの予定通りにいかなかったら、『…………身体で…………払ってもらうことになる……ふふ…………』とか怪しい感じで笑うんだよ!!

 なんなのあの人、妙に怖いんですけど!!」


 ガヴリーは半泣きになって、リーリエルの二の腕を掴んで揺らす。

 リーリエルは鬱陶しそうに大きく舌打ちし、腕を引いてガヴリーの手を外すが、再度ガヴリーに捕まれて揺らされていた。


「おい、ミーナ。この阿呆を…………うぅん?」


 ミーナは座っていた箇所からいなくなっており、リーリエルは周囲を見回す。

 なぜかミーナは、バルビナと共に少し離れた場所にいた。

 ミーナはリーリエルの視線に気づくと、すぐに戻ってきて握りこぶしを作って断言した。


「リー君! この依頼、絶対受けるよ!!」


 やる気に満ちた目をするミーナ。ガヴリーが歓喜して抱きついた。

 二人を見るリーリエルの目は、ひたすらに胡散臭いものを見るものとなっていた。


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