第46話
夜。
一行は街道近くの開けた場所で野営をする。
食事は騎士たちが用意した大鍋料理で、リーリエル達にも振舞われていた。
5人は輪になって雑談しながら食べていると、
「少し、よろしいですか?」
「はい?」
一足早く食べ終えていたベルグが、騎士の一人に声をかけられた。
ベルグは疑問に思いながらも立ち上がり、騎士と共にその場から離れる。
「なんか用ですかい?
あぁ、飯ならうまかったですよ。野営に慣れてるんですか?」
「我々はデグレア様の直属ですから。
このように城の外へ出る任務も多いのです……ではなくて!」
騎士がわなわなとしながら両手を握る。
「回りくどく尋ねても仕方がないので、単刀直入にお聞きします。
あの中で、結婚していたり恋人のいる方はいますか?」
騎士の視線は、ミーナ、ガヴリー、イレーヌを示していた。
「へ? いや、そういう話は特に聞いたことないですけど……」
「で、では、もしや……あなたのハーレムだったり?」
「は!? ないない、全然だよ!!」
ベルグが大きく手を振ると、騎士は大きく後ろを振り返った。
「おい、聞いたかお前ら!」
「マジかー! マジかー!!」
「おしっ、うぉっしっ!!」
ぞろぞろと騎士たちが集まってくる。
周辺を警戒する数人を残して、大集合していた。
「あ、あんたら、もしかして……」
「ベルグ殿、大変に有用な情報を感謝します。
総員、突撃準備! 持てる力の限りを尽くせ!
……ただし、決して失礼のないようにな」
「了解!!」
さながら戦場での動きのように、騎士たちは迅速にベルグの横を抜けて行く。
目的地は先ほどまでベルグがいた場所であり、目的は、まぁ、ナンパであった。
ベルグと騎士が話していたころ、リーリエルは3番目の馬車へと移動していた。
「何か用か?」
馬車の前で警戒していたデグレアが声をかける。
「その馬車に、何を乗せているのかと思ってな」
「金銀財宝だ」
「ふっ、なるほどな」
リーリエルが鼻で笑う。
「こうして近づくと、やはり違和感が強くなるな。
その馬車からは妙な気配がする。一体何を乗せているのだ?」
「お前が知る必要はない」
「くっくっく」
「何がおかしい?」
「お前、それだけの実力がありながら動揺が大きいぞ。
殺気が漏れている。
少しつっついた程度でそうまで反応するとはな。
本当に何を積んでいるのやら」
デグレアは表情を険しくしたが、すぐに平静を取り戻す。
「…………リーリエルと言ったか。
先のオーク討伐で、オーガを倒していたのだったな」
「正確には、俺ではないがな。
そういえば、オーク討伐についても疑問があったか」
「疑問だと?」
「街は、魔物の侵入を防ぐ結界とやらに護られているのだろう」
リーリエルは、ミーナと出会った時のことを覚えていた。
トロルに襲われた村があり、ミーナはトロルの討伐に来ていた。
その後ギルドでミーナが、魔術師による結界があれば村は魔物に襲われていなかった旨を話していたことを。
「結界があれば、いくらオークが増えようとも街に危険はない。
それがなぜ、わざわざ国の王子自らオーク程度の討伐依頼を出す?
そこまでの大事とは思えんが」
「山にオークが増えれば、周辺を行き来する者を襲うだろうが」
「そうかもしれん。
しかし、殊更に殲滅を強調していたな。それも幾人もの冒険者を動員して」
「王国民を想えばこそだ」
「では、今回の盗賊狩りはなんだ?
オークと同じ、いや、盗賊であれば街道を行き交う者を襲うことが確定している存在だろう。
王国民を想うのであれば、なぜこれまで放置していた?」
「我々にも事情はある。
動かせる兵は有限だ」
「つまり、優先順位というわけか」
「…………」
リーリエルは反射的に拳を握りしめる。
デグレアから漏れ出る殺気が強くなっていた。
「……リーリエルよ。
お前はヘシュワラの街に来てから冒険者登録をして、まだ一か月も経っていないと聞く。
その間に成したことが、コボルトウォーリアー、ヴァンパイア、レッサー悪魔、オーガの討伐か。
新規の冒険者とは思えん、実に華々しい成果だ。
一体、何がお前をそれだけ駆り立てている?
お前の目的は、何だ?」
「単なる過程にすぎん、俺が強くなるためのな」
「強く? それだけか?」
「はっ、それ以外に何が必要だというのだ?」
腕を組み胸を張るリーリエル。
デグレアは、物珍しそうにリーリエルを見て、
「……ならば、この任務はお前向きのもので間違いないだろうな」
「盗賊狩りがか?」
「それだけが目的なら、お前たちを雇いはしない」
そう言って、デグレアは馬車へと戻っていった。
リーリエルが戻ると、女たちはそれぞれ騎士たちに囲まれていた。
離れたところにいたベルグが、リーリエルに気づいた。
「どこ行ってたんだよ、リー」
「少しな。なんだこの騒ぎは?」
ベルグが肩をすくめる。
「見りゃわかるだろ。
女っ気のない騎士団にとっては、降ってわいた女冒険者ってのは格好の獲物なんだよ」
「そうか」
「そうかって……いいのか、リー? ほっといて」
「どうでもいい。俺はもう寝る」
「そうかい。
長くなりそうだし、俺も寝るかな」
リーリエルたちは乗ってきた馬車へと向かう。
夜間の見回りは、騎士たちが担うことになっていた。
「哨戒関係は、全部騎士持ち。
あっちは俺たち冒険者を信用していないのかね」
「さてな」
「まぁ、楽出来ていいけどさ」
「このまま楽が出来るとは限らんぞ」
「どういうことだよ?」
「デグレアと話した。
お前やイレーヌの言う通り、この依頼、裏があるようだ。
それにあの男、なかなか楽しめそうだぞ。
漏れ出た殺気であの威圧……相当な手練れだ」
「……おい、リー。お前、まさか喧嘩売ってないだろうな?
一応依頼主なんだぞ?」
「いずれは戦う相手としたいところだ」
「いずれは、じゃなくてな。やめとけよ。
相手は王子殿下で、実力も折り紙つきらしいからな。
地力も権力もあるなんて、絶対手出したらイカン相手だろ」
リーリエル達は馬車の中に入る。
ベルグは毛布を手にして外へ出ようとして、リーリエルはそのまま寝転がった。
「おい、リー。
ここはきっとイレーヌたちが使うぞ。
俺たちは外だ」
「5人寝る広さはあるだろう」
「あのな、そういう問題じゃなくってな」
「いつもの寝どこより、よほど広く使える」
「だからそういうことじゃなくて…………いつも?」
リーリエルが寝息をたて始めると、ベルグは慌てて肩を揺らした。
「おい待て待て待て! まだ寝るな、リー!!
いつもってなんだよ!?
お前、まさか……まさか、ミーナちゃんと一緒に寝てるとか……」
「あんな奴と寝られるか。死ぬぞ」
「それもどういう意味なんだよ!?」
「お前も休めるうちに休んでおくんだな」
「こんだけ気になる話聞いて、安穏と休めるわけねぇだろが!」
ベルグは必死に肩をゆするが、リーリエルは無視する。
そして馬車の中に、ガヴリーたちが帰ってきた。
「うー、ねむ…………うを!?
ベルグがリーを襲ってる!?」
「ち、ちが! これは……」
寝ているリーリエルから慌ててベルグが離れる。
その行動は余計後ろめたさを感じさせ、非常にうさんくさかった。
ミーナは咳払いをして、
「ベルグさん。そういうのは、ちゃんと同意が取れてからじゃないとダメだと思うな。
寝てるところを無理矢理っていうのは……」
「だから誤解だっての!
っていうか、俺がリーを襲うわけないだろ、ミーナちゃん!」
必死なベルグに、ミーナがあはーと笑う。
ミーナにとっては、軽くからかっただけであった。
「賑やかねぇ」
イレーヌは小さなあくびをしながら毛布を手に取り、リーリエルの隣に寝転がった。




