第45話
数日後。
日中、街道を走る馬車の中に5人はいた。
リーリエル、ミーナ、ガヴリーに、ベルグとイレーヌである。
馬車は全部で5台走っており、リーリエル達の乗る馬車は4台目だった。
5人は布で覆われた荷台に座り、ときおり外の様子をうかがっていた。
「のんびりと旅でもしてるみたいだね~、私たち」
ミーナの言葉に、ベルグが続く。
「今も護衛中のはずだけどな。
馬車に帯同する役割りじゃなくて、馬車の中で移動することになるとは」
「外にいるのは、騎士の人たちなんですよね?」
「ああ。デグレアさんの直属らしいしな」
「あんまり騎士っぽくない格好ですよね」
ミーナの指摘通り、馬車の外で帯同する騎士たちは旅商人のような服装であった。
武装は腰に差したショートソードのみで、はたからは護身用に見えた。
「デグレア、か」
リーリエルがつぶやく。
デグレアは、前のオーク討伐の際に、冒険者たちの前で依頼説明をした男であり、今回の護衛任務の依頼主でもあった。
20代中盤、外見は金髪碧眼の優男風であるが、その目には抜き身の刃のような鋭さを宿している。
リーリエル達は、コリンから依頼の話をされた翌日、ギルドでデグレアと顔合わせをしているが、最低限の説明しか受けていない。
「デグレアさんが直接関わるとなると、このまま何ごともなく終わる、ということはないでしょうね」
イレーヌが前方に顔を向ける。
3番目に走る馬車にデグレアは乗っており、依頼はその馬車を護衛するというものであった。
「知っているのか? 奴について何か」
「デグレアさんは、この国の王子様なんですよ。
冒険者の間では半ば公然の秘密ですね」
「え!? あの人、王子様なの!?」
ぴくーんとガヴリーが反応する。
「うわーすごー!! 言われてみれば雰囲気あるある!! なんかキラッキラしてるもんね!!
……でもなんで王子様がこんなことやってるの?」
「デグレア王子は少々特殊な身分みたいなの。
王位継承権はないけれど、国内の治安維持を担っている。
厄介な現場を主導することもあるって聞くわね」
「厄介な現場?
げげー、じゃあ今回のってヤバいんじゃないの!?
前回の依頼だって、オークはめっちゃいたしオーガなんて出てきちゃったしさぁ!!
ボクすっごく大変だったんだよ!!」
大きく手を広げて訴えるガヴリーに、リーリエルが持論を述べる。
「オーク討伐の件は、あくまで奴は指示しただけで直接関わってはいないだろう。
厄介さで言えば、今回の方が上になるのではないか?」
「ぎゃーー!!! やだーーーーー!!!
……って、なんでみんな落ち着いてるの?
超面倒そうな話なのに」
ベルグとイレーヌが肩をすくめる。
「俺は最初から予想ついてたから」
「私も」
ミーナは思い出すように言う。
「デグレアさんから依頼内容について説明されたとき、商隊を装って移動するって言われてたからなぁ。
何かあるとは思ってたよ」
「……馬車で移動だから楽だなーとしか思ってなかった」
がっくりとするガヴリーに、リーリエルが半目になる。
「お前は多少頭を働かせろ」
「なんだよー!!
リーには言われたくな……ふぎゃ!?」
ガヴリーが盛大にバランスを崩す。
4人が次々と馬車の外に飛び出して、その反動で馬車が揺れたのだ。
「ど、どしたの…………うげーーー!?」
ガヴリーが馬車から顔を出すと、炎球が向かってくるのが見えた。
リーリエル達は殺気を感じて外へ飛び出したのだ。
「炎球弾か」
リーリエルがつぶやく。
炎球弾は、中級の炎系攻撃魔法である。
炎球が何かしらの物体に触れると爆発四散するものであり、オーク程度であれば一撃で複数葬ることができる。
リーリエルは炎球弾の軌跡から、着弾箇所が馬車から外れていると判断した。
それきり炎球には目もくれず、周囲をうかがう。
沿道を外れた丘から、武装した男たちが雄叫びを上げながら馬車へと迫ってきていた。
(……30と少しといったところか)
剣と簡素な防具を装備したものが大半であり、数名が弓、さらに後方に魔法使い風の者が2名。
男たちは、旅人を襲う盗賊であった。
炎球弾が地面に着弾し、爆炎を上げる。
馬車の周囲にいた男たちは爆炎に動揺しながらも、腰のショートソードを抜く。
しかしその様子は、一見して戦い慣れしていないことが明らかな、おたおたとした頼りない動きであった。
盗賊は、リーリエル達に気づくと、
「おい、馬車から出てきた奴らがいるぞ!!」
「少ねぇ、少ねぇ!!! 一気にやっちまえばそれまでだぜ!!!
大半はどう見ても雑魚だろうが!!!」
「ひゃはははは、女は殺すなよぉ!!!」
迫る速度を緩めることなく、盗賊たちはリーリエル達へと襲い掛かった。
「甘く見てもらっちゃ困るぜ」
「同じくね」
雑に剣を振り下ろしてきた盗賊を、ベルグとミーナが一瞬で斬り捨てる。
リーリエルに盗賊が接近する。
剣の柄で頭部を狙ってきた盗賊に、打撃術で強化した拳で柄ごと顔面を打ち抜いた。
「雑魚が」
当然のごとく即死である。
リーリエル達は、さらに手近な盗賊を何名かを倒す。
盗賊たちはあっという間に半数程の犠牲を出して、ようやく相手が格上であることに気づいた。
「や、やべぇぞこいつら!!!
お前ら、退け!!! 退……ごぁぁあああああああああぁ!?」
やや後方で撤退を指示する弓の男を、イレーヌの唱えた紅炎嵐が襲う。
放たれた炎に男は焼かれ、耳障りな絶叫を上げた。
◇ ◇ ◇
「大した手際だな」
武装したデグレアが馬車から降りてきて、周囲の惨状を確認する。
死んでいる者が半数程度であり、息はあるものの満足には動けない重傷者が2人、軽傷で捕縛されている者が14人であった。
デグレアは、リーリエル達に目を向ける。
「この辺りは、こういった盗賊による襲撃が散発的に起こる。
こいつらのように、簡単に囮に引っかかってくれる者ばかりであれば排除も容易なのだがな。
学のない悪人であっても、悪知恵のはたらく者はいる」
「周囲の騎士たちがおろおろしてたのは、やっぱ演技か?」
ベルグの問いに、デグレアが答える。
「襲撃に対する対応が早すぎれば、それだけ多くの者を逃してしまう。
油断させて不用意に近づいてきたところで殲滅する予定だった」
デグレアが盗賊たちの前に立つ。
「問うぞ。
貴様等の根城、強奪品のありかを洗いざらい吐く者はいるか?」
「なんだてめぇ、いきなり出てきて舐めたこと……」
ぼと、と音がした。
捕縛された盗賊の一人が、デグレアによって首を落とされたのだ。
近くにいた他の盗賊たちは、誰一人としてデグレアが剣を抜いたことにすら気づかなかった。
首のなくなった身体が、前へと倒れる。
「ひ……ひぃぃぃぃぃぃぃ!?
まさか、おま………金髪の騎士…………鮮血王子か!?」
鮮血王子という単語に、重症者含めすべての盗賊たちがすくみ上った。
デグレアは、剣を手にしたまま変わらない様子で言った。
「もう一度問う。
貴様等の根城、強奪品のありかを洗いざらい吐く者はいるか?」




