第40話
山の中としては開けた場所で、リーリエルとガヴリーは待機していた。
続々とオーク達が追いつき、ついにはオーガの男も現れた。
「よう、小娘ども。
追いかけっこはおしまいかい?」
「ようやく来たかノロマが。
退屈すぎて何度あくびをしたことか」
「……吠えるじゃねぇかよ」
リーリエルの挑発に、オーガが青筋を浮かべる。
しかしオーガはすぐに冷静さを取り戻し、ばっと左手を振るう。
「まさか、これだけのオークを相手にたった二人で挑もうってのか?
やめとけやめとけ、お前たちがオークを何体も倒したのは知ってるがな。
抵抗すればするほど、後悔することになるんだぜ?」
「ピーチク鳴くことしかできんのか貴様は?
いいからさっさと来い。
このリーリエルが、貴様の相手をしてやると言っているんだ」
「はっ!? 馬鹿が!! 俺が直接戦うほどの相手というのか!?
ぎゃはははっははははは!!」
哄笑するオークに、しかし反論したのは控えていたオークだった。
「い、いえ、ダミアス様。
あいつら本当に強いんですよ、先行してた奴らはみんなやられちまいました……」
「あぁん!? だからどうした!!
こっちはこんだけの数がいるんだ!! 囲んで襲っちまえば、どうにでもなるだろうが!!」
激昂するオーガに、リーリエルが笑った。
「くっくっく。相手の実力もわからんとは、部下も苦労するだろうな。
それとも、本当は気づいているから部下任せにして、自分はこそこそと後ろで怯えていたいのか?」
「こ、小娘が図に乗るなよ!!
おい!! お前ら一斉にかかれ!!!」
オーガの指示にいち早く反応した2体のオークは、そこで魔石となる運命を辿った。
「爆裂矢!
爆裂矢!」
リーリエルの横で無言で待機していたガヴリーが、魔弓でオークを撃ち抜いた。
連続の速攻魔法に、思わずオーガが驚愕の表情を浮かべるが、すぐに命令を下す。
「っ!? ……ひ、怯むな!!
いいから囲め!! 半分は回り込んで押しつぶせ!!」
「蒼氷嵐」
リーリエルが端にいた一体を水魔法で撃ちぬいた。
オーク達の動揺が大きくなる。
「くくく、ただの的だな」
リーリエルは後ろを顎で示す。
「あいつは、見ての通り速攻魔法の使い手だ。
これだけ距離があれば、果たして近づける者が存在するか怪しいものだな。
どれ? これだけいいようにされても、まだ貴様は後ろで縮こまっていたいのか?
くははははははっ!! オーク共、大した度胸だな貴様らのリーダーは!!!」
「小娘ぇぇっぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
怒号を上げて、オーガが肩に担いでいた大剣の鞘を捨てた。
「いいだろう、このダミアス様が直接手を下してやる!!!
光栄に思いながら死ねぇぇぇぇ!!!!」
ダミアスが突出し、オークとは比べ物にならないスピードで迫る。
十分に力の乗った上段からの一撃。
だが、リーリエルはあらかじめ唱えていた打撃術で強化した拳で打ち払った。
大剣が軌道を変えて地面をえぐる。
直後、リーリエルが隙だらけのダミアスの顔面を打ち抜いた。
「ごあぁ!?」
吹き飛ばされたダミアスは、それでも大剣は離さずすぐに体勢を立て直した。
「ば、馬鹿な!? 俺の剣を素手で打ち払うなど!!!
小娘!! お前一体何者……ぐぉ!?」
すんでのところで、ダミアスはリーリエルの放った蒼氷嵐を躱していた。
「ほう、今のを避けるか。
逃げ回るのは慣れているようだな」
「小娘がああああああああああ!!!!」
突っ込んできたダミアスの袈裟斬りに、今度は正面から拳を叩きつける。
ぎぃんっと鈍い音を立てて、双方が踏みとどまった。
鍔迫り合いのように押し合う。
「ぐぅっ……こ、このぉ……!!!」
均衡状態をダミアスが崩し、何度か大剣を叩きつけるが、リーリエルはすべて弾き返していた。
脂汗を垂らすダミアスと比べて、リーリエルは冷静だった。
「こ、小娘がぁぁぁぁ!!!」
激昂するダミアスに、リーリエルは大きな息を吐いた。
「……期待外れだな。
これなら、まだコボルトウォーリアーとやらの方が手ごたえがあったぞ」
「馬鹿を言え!!! 小娘ごときに、ウォーリアーが倒せるものか!!!」
「戦っている相手の実力もわからんのか?
どれだけ狭い世界で生きてきたのだ貴様は」
リーリエルがダミアスの剣をかいくぐって懐に入り、胴をまともに捉えた。
ダミアスが大きく吹き飛ばされ、地面を転がっていく。
「これでしまいだ」
即座に追撃をかけるリーリエル。
しかし、ダミアスは転がり続ける中どうにか体勢を立て直し、リーリエルを迂回した。
(くそが!! この小娘、でたらめだ!!
これ以上好きにされてたまるか!!!)
にぃっと嗤い、ダミアスは後方で待機していたガヴリーの下へ全力で向かった。
ガヴリーが魔弓を構えるが、先ほどの爆裂矢はダミアスも見ている。
連続で撃てるようだが、その分オーガを貫くほどの高威力ではない。
「あの程度の速攻魔法、この俺が耐え切れないとでも思うか!?
お前を殺して、あの小娘をオークどもと共になぶり殺しにしてくれる!!!」
声に押されるようにガヴリーが下がるが、そのスピードは遅い。
オーガがさらに速度を上げてガヴリーに十分に接近し、もはや避けきれない間合いとなった。
「まずはお前からだぁぁぁ!!!!」
歪んだ笑みを浮かべるダミアスに、ガヴリーは一言で返した。
「爆炎弾!!」
ガヴリーが、魔弓を介して魔法を発動させる。
速攻魔法ではない、あらかじめ集中して練り上げていた魔力で通常の魔法を使ったのだ。
爆音と共に、炎に包まれたダミアスが吹き飛んだ。




