第39話
リーリエルとガヴリーは、再び散発的に現れるオークを倒しながら進んでいた
「リーは変わってるよね、ひとりで山の中入るとかホント危ないんだよ」
「大した敵がいるようには思えんが」
「普通はちゃんとパーティ組んで、みんなで協力していくものなの。
そのかわいい顔なら、いくらでも男の冒険者引っかけてこれるんだろうし」
「雑魚を連れてどうする。邪魔なだけだ」
「言うねー」
「ならば、お前は引っかけてくるといい」
「ボクはねー、前それで揉めて懲りてるんだよ~」
「揉めて懲りていることを俺に勧めるな」
「たはははは……。
そーいえば、変わってるといえば前に行った教会だけどさ。
あの教会って、なんであんなのあるの?」
「なにか変なものでもあったか?」
「うん? リー、気づいてなかったの?
教会の天井にあったじゃん、天使の絵」
「それの何がおかしい……」
リーリエルが突然立ち止まり、周囲に目をやる。
横合いからいくつもの気配が生まれていた。
それは今まで倒してきた数匹のオークなどではなく、明らかに待ち伏せといえる、数十の気配であった。
「……ちっ、どこに隠れていた」
「うぇ? なんかいるの?」
「いる。うじゃうじゃとな」
「うじゃうじゃとな!?」
騒ぐガヴリーに呼応するように、左右の茂みから、そして正面からオークが何匹も姿を表す。
リーリエル達は、あっという間に半円状に包囲されてしまった。
オーク達の間から一人の男が前に出てくる。
「随分と子分どもが世話になったようだな、小娘ども。
お前たち、当然死ぬ覚悟は出来ているんだろう?」
男は人間としてなら大柄な背丈であるものの、オークと比べたらかなり小柄であった。
しかし、男は引き締まった肉体をしていて、野性味あふれる厳しい表情をしていた。
オーガである。
オークの変異種ともいえる存在で、オークがCランクモンスターであるのに対して、オーガはBランクとされていた。
オーガは、鞘に収めた直刀を肩に担いだまま、視線を右に向けた。
リーリエルとガヴリーが反射的に追うと、そこにオークが投げたものが転がった。
「……あっ」
ガヴリーが声を漏らす。
転がったのは、朝にギルドでリーリエルに一発もらって轟沈した戦士風の男であった。
その他に数名が投げ込まれる。男の仲間である。
死んではいないものの、倒れたままうめき声を漏らし、ロクに動けない状態であった。
オーガは視線を男たちに向けたまま、
「これは、今日俺たちが食う。
死ぬと味がすぐに落ちるからな、まだ生きている。と言っても、ごらんの有様だがな」
ニヤリと、暗い笑みを浮かべる。
「無駄な抵抗をしなければ、痛い目を見ずにすむぞ?
こちらとしても、その方がありがたいからな。
人間は、下手な傷がない方が美味い、それに女の方が美味いな」
オーガが、くっくっくと嗤う。
そして、リーリエル達に向き直ったとき、すでにそこには誰もいなかった。
「……あ?」
「あの……あいつら、すごい勢いであっち行ったっすけど……」
「あああああ!? すぐに追え馬鹿が!!!」
オーガの怒号に、オーク達が慌てて走る。
山が揺れた。
リーリエルとガヴリーは全速力で下山していた。
食料等が入っていた荷物は、すぐに投げ捨てていた。
「なんだよアレ、なんだよアレぇぇぇ!!
いきなり、うじゃうじゃわいてきてぇ!!
オーガまで出てくるし、あんなの無理に決まってるじゃん!!」
ガヴリーが泣きそうな顔で愚痴る。
並走するリーリエルは、落ち着いていた。
「無理ではないだろう。
50程度か? あの数を倒すのは面倒だがな。
あとは、あの男の実力次第か」
「ボクはねぇ、君と違って肉体派じゃないの!!
一発二発魔法を撃って倒しても、一斉に距離詰められてボコられたらおしまいなの!!
それともなに? リーが死ぬ気でボクを守ってくれるの!?」
「それは無理だな。
多数との戦いは自由に動けてこそだ。
動きに制限が加われば、なぶり殺しにされる可能性が出てくる。
そもそも、俺だけであの数をすべて引き付けられるとは思えん。必ず何体かは漏れて、お前のもとへ向かうだろう」
「君、もしかして自分だけ生き残ろうとしてない!?」
「俺が戦っている間、勝手に死なれたとしたらどうしようもないな」
「ちょっとおおおおおおおお!!!」
ガヴリーがリーリエルの袖を掴もうとして、バランスを崩した。
「うおっ、あぶなっ……」
コケる寸前で体制を持ち直し、なんとか走り続けた。
後方からは、地鳴りのような音が響いていた。
「ね、ねぇ。……気のせいかな、なんか距離縮まってきてない?」
「当然だろう。直線を走るのであれば、奴らの方が速いし体力もある。いずれは追いつかれる。
まさか、今頃気づいたのか?」
「今頃気づいたんですよぉぉぉ!! 悪ぅございましたねぇぇぇ!!!」
半泣きになったガヴリーが、頭を抱えた。
「どうしよぉぉぉぉ!!」
「どうしようも何もない、戦うに決まっているだろう」
「そりゃ君はそれでいいかもだけどさぁ!!
……はっ!? もしかして、ここは俺に任せて先に行け的な!?」
「先に行ってもいいが、半分程度は抜かれるだろう。頑張るんだな」
「無ぅぅぅぅ理ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「ならば」
リーリエルはペースを落とした。息を整えるためである。
「覚悟を決めるしかあるまい」




