第34話
「ヴァンパイアの魔石をあげたああああああ!?」
ガヴリーの叫びにリーリエルは動じず、ただ騒々しいとばかりに顔をしかめた。
リーリエルは用件を終えたので教会を出ると、外で遊んでいたミーナたちが子供たちと別れて合流した。
ミーナに教会でのことを聞かれたためリーリエルが話していたところ、ガヴリーが絶叫をあげたのだ。
「ヴァンパイアって、あの城にいたヴァンパイアだよね!?
ばっっ、ばっ、ばっばっ、馬鹿じゃん!? 君、アレの魔石がどんだけの価値なのかわかってんの!?」
「知っている。お前が受けた調査依頼の報酬よりも高いのだろう」
「はああああああ!? なんで知っててそういうことすんの!?
馬鹿じゃん! 超馬鹿じゃん!! もったいなあああああいぃぃぃ!!!!」
「馬鹿はお前だ。俺のものをどうしようが俺の勝手だろう」
「うっ…………そ、そりゃそうなんだけど……。
ちょっとミーナ! いいの!? よくないよね!?」
「う、う~ん。いいか悪いかで言われると、悪いとは言えない、かなぁ。
ホントにいいの!? とは思っちゃうけど」
「俺が決めたことだ、いいに決まっている」
「じゃあ、いんじゃないかな?」
「ちょおおおおお!?
ダメでしょミーナ!! この子、絶対ちゃんと理解してないって!! ド田舎から出てきたんでしょ!? お金のこと自体よくわかってないんじゃないの!?」
(ガヴちゃん鋭いなぁ)
騒ぎ立てるガヴリーに、ミーナはしみじみと感心し、リーリエルは取り合うことを完全に放棄したのだった。
三人は、武器屋の前にいた。
用件を終えたリーリエル、もともと暇だったミーナはやることがないため、ガヴリーに連れられてきていた。
ガヴリーは鼻歌交じりに、ミーナは普通に、リーリエルは気乗りしない表情で店へと入った。
「いらっしゃい、ここは武器屋だ。
……おや、君はこの前の。ははっ、嬉しいな。また来てくれるとは」
落ち着いた声音の女店主、ゲルトがリーリエルを目にして柔らかくも妖艶な笑みを浮かべた。
リーリエルは不満をあらわにして、
「来たくて来たわけではない。
こいつがここに用があるというだけだ。勘違いするな」
「ふんふん、この感じ、わかるぞ。君はツンデレというやつだろう。
安心してくれ、私は包容力には自信がある。君の素直になれない本心も察し、海のように広き心で包み込んであげよう」
「つんでれとは何か知らんが、お前が寝言をほざいているのはわかる。
そのイカレた頭の中をくりぬいて水でゆすいだ後、教会に行き神父にヒールでもかけてもらえ」
「ふふっ、小鳥のように愛らしいさえずりだ。もっと聞かせてくれたまえ」
「…………」
笑みを崩さないゲルトに、リーリエルは諦めたようにため息を吐いた。
何を言ったところで無駄だと理解したのだ。
満足そうにうんうんと頷くゲルトに、ガヴリーがひょこっと前に出て声をかけた。
「こんちわー。この街だと一番いい武器屋がここだって聞いたんだけど、弓ってある?」
「うむ、弓ならばそちらの方だ」
「ほうほう…………かなり品揃えいいんだね。ミーナがおすすめするだけはあるよー。
おぉっ! 魔弓もちゃんとある!」
ガヴリーが並べられた弓から、短弓をひとつ手にして吟味する。
「マイナー武器だからしょうがないんだけど、魔弓ってあんまり見かけないんだよねー」
「私の店はかゆいところにも手が届くのが自慢だ。様々な武器を抜かりなく扱っている。
当然、質にもこだわっているぞ」
「確かに。なんかよさ気な感じがする。あ、これもいい感じ。お、これも~」
ガヴリーが次々と弓を手に取っていく。
ミーナも一緒になって弓を見る。ガヴリーのように良し悪しまではわからなかったが、普段手にしない武器を前に興味をひかれていた。
ゲルトは、ぐっと親指を立てて、
「ふふふふ、なんとも愛らしいな。
見ているだけで、世に疲れた心を癒してくれる」
「お前、口がなければよいのにな」
周囲に並べられた武器防具は、リーリエルにも確かな質のシロモノとして映っていた。
「そういえば、君が着ていた『ノッシュローズ』はどうしたんだい?」
「あの呪われた服のことなら解呪した。
呪いを解いた神父が怨念のようなものを感じたと言っていたぞ」
「怨念とは心外だ。慈愛と真心を込めただけなのに」
「なるほど、怨念だな」
「武器屋の心、使い手知らずといったところか。
ところで、君は魔法は扱えるのかい?」
「ああ」
「それは重畳!
ちょうど昨日、会心の出来の杖が完成したのだ。
魔法威力をこれだけ増幅できる杖は、そうそうないと自負している」
ゲルトに差し出された小さな杖を、リーリエルはつい手にした。
「……やたらとキラキラしているように見えるんだが」
「様々な宝玉を埋め込んでいるからな。それが杖の能力を大幅に向上させている」
「……………………振ると、星が出てくるんだが」
「使用者の魔力伝導・増幅率がよいと、そのように小さな星が出るのだ。出てくる星の数が杖の効力と比例する。
うむ、実に君と相性がよい武器のようだな! 最高に似合っているぞっ!
なに、心配しないでくれ。私は君から暴利をはたらこうとは考えていない。利益なし、材料費のみで……」
リーリエルは、叩きつける勢いでカウンターに杖を置いた。




