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第33話

 ミーナはいつものように子どもたちと遊び、ガヴリーはその輪にあっという間に溶け込んだ。

 和やかな雰囲気の一方、教会の中ではリーリエルが眉間に深くしわを寄せていた。


「今の状態が正常だと?」


「その通りです。

 これでも私はハーフエルフですので、人よりも魔力を視ることができます」


 バルビナの薄緑色の目が、うっすらと金色を灯していた。


「以前、あの服の呪いを解いたときにも思いましたが、リーリエルさんの魔力の流れは非常に滑らかです。

 魔力量自体も優れているとは思いますが、それとは比較にならないほど、流麗であるとしか言い表せないほどに自然な流れをしているのです」


「魔力の流れだと? お前、そんなものが見えるのか? 俺には何も見えんぞ」


「エルフは神話の時代より、魔に魅入られた者たちですから。

 魔を探求し、禁忌にも多く触れたと言い伝えられています。

 世界中の種族の中で、最も魔を知りえる存在だと言えるでしょう。

 魔族という言葉がありますが、言葉の意味としてはリーリエルさんのような角の生えた方々を示します。

 が、個人的には私どものようなエルフの血を継ぐ者が、魔族と呼ばれるに適当だと思いますね」


「ふん、言葉の意味などには興味ない。

 魔力の流れが滑らかだから、どうだというのだ?」


「魔力を阻害する負荷がない、つまりは自身に宿している魔力をそのまま魔法に無駄なくつぎ込めるということ。

 それは単純に、同じ程度の魔力量の者よりも高威力かつ複数回の魔法を扱えるということです。

 俗にいう、魔法の才能がある、ということですね」


「才能だと?」


 リーリエルが鼻で笑う。


「妙な話だ。

 ならば、なぜ俺は炎魔法の威力が皆無に近いのだ」


「魔法の系統には向き不向きがあるからです。

 以前のリーリエルさんは、自由に炎魔法を扱えたのかもしれませんが、今のリーリエルさんにはそれは困難です。

 なぜなら、あなたの才は別の系統へ特化しているからです。それも並大抵の特化程度ではありません」


 バルビナは一度言葉を切り、自分の考えを述べた。


「リーリエルさんの現在の系統は、水です。

 あなたの魔力は、深い蒼を伴っていることから確信して言えます。

 リーンというのは確信は持てませんが、湖の名を冠している主、アイリーンの可能性は十分にあります。

 伝奇では、アイリーンは水の妖精と記されています。

 妖精と相対して冷気を感じたということは、リーリエルさんは非常に強力な水の祝福を受けたのかもしれません。

 それこそ、本来あった系統すら捻じ曲げてしまうほどの、ありえないほどの祝福を」


「…………」


「それほどに強力な祝福であれば、ある意味で『呪い』とも言えそうですね」


 バルビナが肩をすくめた。


「私に言えることは以上です。

 残念ですが、私ではリーリエルさんを元に戻すことなどできませんし、その方法も見当がつきません。

 お力になれず、心苦しいですが……」


「いや、いい。

 お前の話、参考にはなった」


 リーリエルはベルトにつけている魔石袋に左手を入れ、バルビナに向けて弾いた。

 

「礼だ。受け取れ」


「おっと」


 バルビナは魔石をキャッチすると、ひゅっと小さく息を吐いた。


「…………この魔石……非常に強い力を宿しています。

 ただの魔石では、ありませんよね……?」


「古城に居ついた吸血鬼ヴァンパイアだったものだ」


「………………」


「なんだ、それだけでは不満か?

 だが俺は金など持っていないし、他に魔石もないぞ」


 リーリエルは金の管理は面倒だからと、すべてミーナに任せていたのだ。


「……いえ、十分過ぎるほどに十分です。

 念のため言っておきますが、この魔石の価値、わかってます?」


「ミーナから聞いた。

 ガヴリーの依頼の報酬よりかは高い程度だろう。大したものではない」


「……………………リーリエルさんにとってはそうかもしれませんが、私のような神父には本当に大したものなのですよ。

 とてもではありませんが、おいそれと受け取れるようなものではありません……」


「それはもうお前のものだ。気に入らなければ捨てればいい」


 リーリエルがきっぱりと言いきると、バルビナは渇いた笑みを浮かべた。


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