第32話
翌朝、リーリエルとミーナは早々に宿を出た。
リーリエルはミーナに特に何も言わずに出ようとしたのだが、宿を出ようとしたところであっさり捕まったのだった。
「リーくんってば、なんで勝手に一人で行っちゃおうとするかなー」
「これから行くところには、お前がいても意味がないからだ。
すでに昨日言っていただろう。今日は勝手にしていればいいと」
「もー…………わかった。
じゃあ勝手にするからね」
と言って、ミーナはてくてくとリーリエルの後をついてきたのだった。
リーリエルは面倒そうな顔をしたが、それ以上特に何も言わなかった。
「二人とも、おっはーよー!
どしたの? こんな朝から? もしかして、今日もギルド行って依頼探すの? 昨日、悪魔倒したばっかりなのに?
やる気すんごいねー!?」
二人は道すがら、ばったり会った元気溢るるガブリーに声をかけられた。
リーリエルは一瞥だけして歩を止めずに言う。
「ギルドなど行かんぞ」
「え? ギルドじゃないの?
じゃ、どこ行くの?」
「どこでもいいだろう」
リーリエルはそれ以上取り合おうとはしないのだが、
「……むー? なんで隠すの? あーやーしーい~~~。
ね、ミーナ。どこ行くの、どこ行くの?」
「それがねー、私もまだ教えてもらってないんだよー。勝手に一人で行こうとしてたしー。
怪しいよねー」
「うっわー、怪しさ大爆発じゃん! 何か後ろめたかったり、もしやいかがわしいところじゃない!?」
「……リーくんもお年頃だからなぁ」
「わはー、ちょっと気になってきちゃった!! ボクもついてこー」
後ろでコソコソと話をする二人を、リーリエルは極力相手にしないことにした。
そうして、リーリエルは目的地である教会の前に到着した。
ミーナは教会の敷地にいた十人くらいの子供に連れられて行き、ガヴリーも巻き込まれていった。
リーリエルも子供たちに囲まれたのだが、「この前の綺麗な服着たおねーちゃんだー!」と指を差してきた女の子を、リーリエルが殺す勢いでガンつけて泣かせたため、子供たちは速攻で離れて行ったのだった。
リーリエルが教会に入ると、神父がホウキを手に掃除をしていた。
「外がにぎやかだと思ったら、リーリエルさんでしたか」
緑髪のハーフエルフの神父、バルビナがにこやかに言う。
「ミーナさんもご一緒でしょうか?」
「そうだ。外でガキどもの相手をしているぞ。ついでにもう一人いるがな」
「もう一人、ですか?」
「そいつはどうでもいい。
神父、今日はお前に用があってきた」
「私に?」
バルビナはピクリと片眉を上げて、ホウキを並べられている机にかけて居住まいを正した。
「お聞きしましょう」
「おう。
実はな、先日と同様、今日も呪いの解呪をしてもらいに来た。お前の腕を見込んでな」
「呪い、ですか? ……もしかして、今度はその服が?」
バルビナは不思議そうに、リーリエルの服を指差した。
それはなんの変哲もない旅人風の服であった。
「服は問題ない。俺自身のことだ」
「リーリエルさん自身ですか?」
いまいち要領を得ていないバルビナに、リーリエルはきっぱりと言った。
「俺の身体は呪われている」
そう切り出してから、リーリエルはこの世界に転移する前からのことをバルビナに説明した。
四天王であることや、勇者との戦いなどについては端折り、単に転移魔法の暴走と転移以前の肉体は今とはまったく別だったこと、そして……、
「つまり、リーリエルさんは本来炎魔法が得意であったにもかかわらず、それが今は極端に威力が落ちている。
それがなんらかの呪いではないか、ということですか?」
「そうだ。
悪魔と戦った時に使用した蒼巨炎は上級の炎魔法だ。そして、その結果は児戯にも劣るものだった。
ここに来る前に他の炎魔法も試してみたが、結果は同じだった。
そして、打撃術は以前と同様に使えているのだ」
リーリエルが大きくため息を吐き、自嘲する。
「そもそも、この貧弱な肉体になってしまったこと自体が呪い意外の何物とも思えんがな」
「……リーリエルさんの言うことが嘘だとは言いませんが、世界を転移したことや肉体がまったく別の姿へと変化したというのは、にわかには信じがたいことですね」
「構わん。俺自身、こんな話は荒唐無稽だということは承知している」
「この世界には変身ともいえる技術は確かに存在しますが、それは化け物のような異形の者への変化です。
リーリエルさんのように美しい存在へと変化するという話は、聞いたことがありませんし、ましてやその姿が呪いの結果であるとは思えません。何の違和感もなく、すばらしい外見であると断言できます。
ところで、またこの前の服着てみませんか?」
「ブチ殺すぞ貴様」
「と、冗談はさておきです。
……炎魔法の威力が落ちていることはわかりましたが、なぜそれを呪いと思い至ったのでしょう?
単純に考えれば、世界を転移し、肉体が変化してしまった結果、そうなってしまったのではないかと思えるのですが」
「実はな、この世界に来た日に、俺は炎魔法が普通に使えたのだ。
決して高威力の魔法ではなかったが、問題なく使用できて違和感などもなかった。
それにな、それから間もなく、水色の髪をしたリーンとかいう奇妙な奴と遭遇したのだ」
リーリエルは、最初のギルド依頼であるアイリーン湖での一件について話した。
「奴は唐突に姿を現し、消えた。
アレは間違いなく尋常の者ではない。
そしてあの時感じた冷気、今考えれば、あれがなんらかの呪いであったのだろう」
「冷気、ですか……」
バルビナは考え込むようにし、一度目を閉じてからリーリエルの身体を視た。
「炎系統ではない、他の魔法はどうでしょう?」
「他に俺がまともに使える魔法は転移くらいだが、これは発動自体がしない。
だが、これは超高位魔法だからな。弱体化した今の俺が使えなくても仕方がないだろう」
「…………そうですか」
バルビナは口元に手を当てて思案したが、それも短時間のことだった。
リーリエルと目を合わせ、バルビナは告げた。
「結論から言うと、リーリエルさん。
あなたは呪われてなどいません。
正常で、大変良好な状態です」




