第30話 四天王、回復される
悪魔が魔石になると、ミーナは剣をおさめた。
「リーくん、いぇーい!!」
ミーナがリーリエルの前に駆け寄り、Vサインをする。
リーリエルは棒立ち状態で、しらーっとした目をミーナに向けるが、ミーナはまったく意に介さなかった。
「やったねリーくん、私たち悪魔倒しちゃったんだよ!
不完全に召喚された悪魔だったけど、すごく強かったし、やっぱりAマイナーランクくらいの力はあると思うんだよね!
私やベルグさんたちはBランクで、ガヴちゃんはCなんだから、これは大金星だよっ!!」
「そうか。それはよかったな」
リーリエルはどうでもよさそうに相槌を打ち、悪魔の魔石を拾うと、すぐにミーナに向かって放った。
「おっと…………えっへへへ。悪魔の魔石なんて、私触ったの初めてだよ。
あぁ~、スベスベしてるし、なんか高級そうな手触りな感じがするよ~」
「それはお前のものだ。売るなり何がしかに使うなり好きにしろ」
「え? ……でもリーくん、この魔石って……」
「倒したのはお前だ。ならばそれはお前のものだ」
「ええと。そうじゃなくてね……うひゃっ!?」
どーん、とガヴリーがミーナに飛びついた。
ガヴリーが頬を紅潮させ、バンバンとミーナの肩を叩く。
「ちょおおおお、何今の!? 何今のーーー!?
悪魔を一撃とか、ミーナってなに!? めっちゃ強いじゃん!!
ヤバくない!? いや、ヤバイでしょ!! ミーナ様超強い最強って感じじゃん!!」
「が、ガヴちゃん、ちょっと落ち着いて……」
「もう、今のめちゃめちゃヤバいでしょ!!
……ッシャって、あっさり首はねるとかマジないでしょ!? 強すぎでしょ!?
このこのこのー! も~、ボク、悪魔に超びびって損しちゃったよ~。楽勝なら楽勝って言ってよー、ミーナってば人が悪いぞ~~」
「楽勝なんかじゃないよ、さっきのは私からは隙だらけだったから。
まともに戦ったら、たぶん勝てないよ」
「またまたまたぁ、いきなり出てきてすぱーんだよ?
あ、それでさぁ、うっふふー。その魔石どーするの?
悪魔の魔石とか、めっちゃくちゃ貴重でしよ? やっぱり売る? 売っちゃう? それとも、装備につか…………あれ?」
ミーナから離れたガヴリーの目が点になる。
ミーナが手にしている魔石は、たった今サラサラと塵になり消えてしまった。
「え? え? ……なして、消えちゃう……の?」
「やっぱりかぁ」
「やっぱりって何!? どーいうことなの、ミーナぁぁぁぁ!!!」
「お、落ち着いてガヴちゃん。
……あの悪魔はね、あくまで召喚された悪魔だったんだよ」
「ふぇ? 召喚?」
「そ。ガヴちゃんが触れたでしょ、床に掘られてた魔法陣。
そのときに召喚の条件が満たされたんじゃない? 不完全ではあったみたいだけどね」
「ええええ!? だってボク、触っただけだよ!?」
「そこは疑問なんだけどね。呪文もなしに、不完全とはいえ悪魔が召喚されるなんて聞いたことないし、自力でこの世界に出てきたって考えた方が自然なんだけど。
でも、事実魔石は消えちゃったわけだしね」
「……そっかー。そうだね、消えちゃったもんね。
はぁぁぁぁぁ、じゃあせっかく悪魔倒したのに骨折り損なのかぁ」
深い溜息をついて、ガヴリーが露骨に首をうなだれる。
ミーナは苦笑し、リーリエルは呆れた。
「お前が骨を折ることがあったか?
むしろ元凶を作っただけだろう」
「むっ? 最初は逃げちゃったかもだけど、ボクだって一生懸命やったもん!
そういう君だってさ、結局はミーナ頼りだったじゃないかー!」
「俺は俺でどうにかする方法はあった。
だが、こいつにやらせた方が成功率が高いと判断したのだ。
慌てふためくだけだったお前とは違う」
「はーーーー!? よっくそんな大口叩けるね、君ぃ!?
自信満々に魔法使って、ひよっこ以下のかわいい炎出したくせにぃ!!」
「き、貴様、また言いおったな!? このリーリエルが、ひよっこ以下だと……」
「へーん、何度でも言うよー!! 素直にあのまま殴ってればいいのに、かっこつけて魔法使って失敗しちゃってさぁ!!
このピヨピヨの、見掛け倒し格闘家め!! ………………いや、見かけどおりなのか?」
リーリエルをにらみつけていたガヴリーが、思わず素になった。
リーリエルは震えるほどの怒りを感じたが、ギリギリで暴発まではしなかった。
「……馬鹿らしい。貴様の相手をするほど、俺は暇ではない」
「ふん! ボクだってね、偏屈な子に付き合うほど…………おおおぉぉぉう」
そっぽを向きかけたガヴリーの目が見開かれた。
「ねぇ……なにその腕……黒くない? 君、地黒じゃないよね? 火傷だよね……?」
「だからどうした」
リーリエルは鬱陶しそうに顔をしかめて、黒ずんだ右腕を隠すように体勢を変えた。
ガヴリーがむっとするが、小さく息を吐く。
不満そうな顔のまま集中し始める。
魔力を練り上げ、リーリエルの右側へ移動した。
「なんだ貴様、まだ文句があるなら……」
「じっとしてて。大癒術」
ガヴリーが魔法を発動させる。
大癒術は中級の回復魔法であり、その効果は高速の治癒である。
ちぎれた身体をくっつけるまでの回復効果はないが、火傷を癒すことは可能であった。
治療は程なく終わり、リーリエルの右手は全快した。
「ふぅ。これでよしっと」
「…………」
「なに? じっと見てからに。
残念だけど、ボクには女の子からのラヴで喜ぶ趣味なんてないよ」
「……………………俺は男だ」
「はぁ? 君、そんな顔してるくせに何言ってるの?」
ガヴリーは、リーリエルが言っていることが心底わからないという風に首をかしげた。
事実、今のリーリエルは魔法を使った影響で女になっていたのだが。
リーリエルは反論しようと口を開きかけるが、歩いてきたベルグに遮られた。
「あんたたち、すげーなぁ。悪魔を倒しちまうなんてよ」
「まぁねーっ!」
「ベルグさんたちも無事だったんだ。
よかった。途中で抜けちゃってごめんね?」
ミーナが駆け寄って、ほっとしたように息をつく。
ベルグ達が相手にしていたミノタウロスは、召喚主である悪魔が倒されたことで消失していた。
「いいっていいって。悪魔を倒すためだったんだし。
さすがにミノタウロス相手はヒヤヒヤしたけどさ、凌ぐだけならなんとかなるもんさ」
「あら、随分余裕があったのね。
私の魔法のフォローがなければ、何度怪我していたかわからなかったのに」
ベルグの後をついてきたイレーヌが、肩をすくめる。
「はっはっは、それ込みで実力ってことよ!」
「馬鹿ね、少しは反省なさい。
……ミーナちゃん、お疲れ様。さすがね。
ガヴリーちゃんも、リーリエルさんも大変だったでしょう。無事でよかった」
微笑むイレーヌにガヴリーが駆け寄って、両手を掲げる。二人は楽しそうにハイタッチをした。
「ガヴリーちゃん、俺も俺も!」
「えー、やだよ。ベルグ、なんか汚れてるじゃん」
「…………ミノタウロスの攻撃避けるのに、必死だったんだよ」
猛攻を躱すため、何度も地面を転がったベルグが悲しそうにつぶやく。
すかさずイレーヌが何か言い、ガヴリーも続いた。ベルグがさらに悲しそうにしていた。
そんな3人の様子を、少し離れたところから2人は見ていた。
「……ねぇ、リーくん。腕、大丈夫?」
「なんともない」
「そっか。よかったね。私、悪魔を倒すのに必死で気づかなかったよ。
今度から、怪我したら隠さずにちゃんと言ってね?」
笑いかけるミーナに、リーリエルは小さく鼻を鳴らした。




