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第29話 四天王、魔法を使う

(俺の拳による一撃でも、奴の命は刈り取れなかった。焼けた腕では、なおのことだろう。

 しかし……)

 

 悪魔デーモンが、リーリエルと同様に魔力を練り上げるため集中する。

 悪魔デーモン狂乱バーサク状態となっており、自身を守るための魔力障壁はかろうじて維持されているにすぎなかった。


(一か八かで拳を叩きこむのもいいが、どうせなら無理せず勝てる方法を取るとしよう)

 

 リーリエルは悪魔デーモンに先んじて魔法発動の準備を終え、余裕の笑みを浮かべた。


(俺は、自らの拳で戦うことを得意としているが、決して魔法が苦手なわけではない。

 そしてこの身体は、確かに力が弱くなってはいるが、以前と同レベルに近い魔法が使えている)


 リーリエルは転移魔法こそ使えなくなっていたが、打撃術ストレングスによる力の向上具合から、魔法力自体は弱体していないと感じていた。

 悪魔デーモンは黒炎による魔法を使ったが、ガヴリーの燃囲円フレア・サークルは効果があったことから、リーリエルは自身の魔法の中では得意としている炎系魔法を選択した。


「貴様の炎はぬるい。このリーリエルが、本物の業火を教えてやる!

 食らえ!! 蒼巨炎コンフラグレイション!!!」


 蒼巨炎コンフラグレイションは、上級に分類される魔法である。

 ガヴリーが使用した燃囲円フレア・サークルや、イレーヌの放った爆炎弾ファイア・ボムよりも強力な炎魔法だ。

 悪魔デーモンの頭上には蒼炎が広がり、巨大な花が閉じるように対象を覆い焼き尽くす…………はずだったのだが。


 ぽんっ。


 と、間の抜けた音が響く。

 悪魔デーモンの上に、小さな小さな青色の炎が生まれた。

 炎は、ふよふよとやる気なく浮遊し、ぺこっと気の抜けた音を出して悪魔デーモンの肩にぶつかって消えた。


「…………」


「…………」


 想像してたものとのあまりの落差に、リーリエルは戦闘状態にも関わらず呆然とした。

 悪魔デーモンについても、リーリエルの気合が完全に抜けたことにつられてしまい、集中が完全に途切れていた。

 結果、リーリエルと悪魔デーモンは数秒の間、お互い緊張感のカケラもなく見つめ合った。


「え? …………ちょ、え? 何? 今の何!?

 しょっぼっっっ!! 今、すっごいしょぼいの出たよ!?」


 ガヴリーが思わず突っ込むと、はっとして、リーリエルと悪魔デーモンが同時に我に返った。


「貴様の炎はぬるいとか言っておきながら、ひよっこ魔法使いでもできないような、すんごいチョロチョロ炎が出たように見えたんだけど!?

 気のせい!? ボク、なんか見間違えちゃった!?」 


 ガヴリーの言う通り、リーリエルの放った魔法は情けないことこの上ない結果である。

 それはリーリエル自身も十分に理解していたが、思わずガヴリーに対し、かっとなって言い放った。


「だ、だれがひよっこだ!

 お前、このリーリエルに向かって舐めた口をきくな!!」


「はぁぁぁぁぁ!? ボク、君のことひよっこなんて言ってないんだけどー!!

 ひよっこ以下だって言ってるんだけどー!!!」


「俺がひよっこ以下だと!? こ、この……」


「自信満々に、本物の業火を教えてやる!! って啖呵切って、出てきたのがアレとか、期待外れもいいとこすぎるでしょ!!

 君、真面目にやる気あんの!? 悪魔デーモン相手に、ふざけてる余裕なんてあるの!?

 魔法が苦手なら無駄にかっこつけないで、さっきみたいにぶん殴ればいいでしょ!!!」


「阿呆が!! 俺の腕が奴に焼かれたのを見ていなかったのか!?

 利き腕を負傷したからこそ、俺は攻撃魔法を使ったのだぞ!!

 少しはその足りない頭を使って物を言え!! この阿呆が!!」   


「ちょ!? 何アホとか言っちゃってんの!? しかも二回も!!」


「たった二回で足りるか!! この度し難い阿呆が!!」


「ちょおおおお!? 度し難いってなんだよおおおお!!!」


 ガヴリーが立ち上がり、リーリエルに向かって詰め寄る。

 リーリエルは、なおも言葉を続けてようとして、


「……くそっ」


 明確に顔をしかめて、焼けついた拳を構えた。

 ガヴリーは、リーリエルの視線を追って、今がどんな事態なのかを思い出し蒼白となった。


「あばばばヴぁ」

 

 ガヴリーの意味不明な言葉を無視して、悪魔デーモンが魔法に必要な集中を終えようとしていた。

 先に使用したものと同じ魔法、地獄より生み出されし黒炎、獄災インフェルノである。

 時間がないことを悟ったリーリエルは、今度こそ一か八かで負傷した拳を叩きこむ決意した。


「…………っ!」 


 しかしリーリエルは眉を震わせ、一瞬の逡巡を経て、決意をあっさりと翻した。

 リーエルは、再度魔力を練り上げ始める。


「え? ちょ、ええええ!?」


「…………」


 ガヴリーが驚愕し、悪魔デーモンからも僅かに訝しむような気配が漏れた。

 リーリエルは双方を無視し、愚直に魔法のための集中を続ける。


「ちょっと君!? 何ヤケになっちゃってんの!? 君の魔法、全然だめだったでしょ!?

 あーーーー、わかった! さっきの取り消すから、マジで真面目にやってよ!?

 お願いだから、わけわかんないことしないでーーーー!?」


 ガヴリーの懇願むなしく、リーリエルはさらに深く集中を続ける。

 しかし、悪魔デーモンは先に準備を終えて、くぐもった声を発した。


「クク、ワレ、オマエ、クラウ、タマシイ、クウ」


「できるものならな……蒼巨炎コンフラグレイション


 リーリエルの放った炎魔法は、先ほどと同様に極小の青い炎を生み出して悪魔に当たって消えた。

 悪魔はこの上なく醜い笑みを浮かべて、


イン……」


「そいやっ!!」


 気合と共に瞬速で振りぬかれた剣が、悪魔デーモンの首を両断した。

 斬撃は悪魔デーモンの後方に回り込んだ、ミーナによるもの。

 悪魔デーモンもガヴリーも完全に意識の外、リーリエルだけがミーナの存在に気づいていた。


 ごとり、と、悪魔デーモンの頭が地面に落ちる。

 発動間近の魔法が遮られ、首から上だけになった悪魔デーモンは淡かった深紅の目を色濃くした。


「…………ワレ、クラウ……オマエ、タマシイ、クラウ」


「貴様は強かった。だが、運がなかったな」


悪魔デーモン は、キギ……と喉を鳴らし、真紅の目から徐々に色が失われていく。


「………………ワレ、ホロビル……イナ…………イツノヒカ……モウイチド、オマエ、タマシイ……オマエノ……」


「馬鹿が。次こそは俺が勝つ」


 呻く悪魔デーモンの顔面に、リーリエルは左の拳を叩きつけた。

 弾ける音と共に悪魔デーモンは絶命し、やがて魔石へと変化した。

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