第27話 四天王、悪魔と戦う
悪魔がしわがれた声でつぶやいた。
「……召喚」
床に、直径数メートルほどの魔法陣が生じて、そこから見上げるほど巨大な牛頭の魔物が出現した。
鼻息荒く、手にしているのは規格外な大きさの斧。
それは、怪力と理不尽なまでのタフネスを誇るモンスター、Aマイナーランクに相当する魔物、ミノタウロスであった。
ミノタウロスは巨体に似合わぬ軽快な跳躍をして、リーリエル達の入ってきた入口を塞ぐ形で着地した。
「オワタ」
逃げることができないことを悟ったガヴリーの目は、焦点があいまいになって遠くを見ていた。
「だ、大丈夫だよガヴちゃん!
力を合わせれば、なんとかなるなる!」
「ソウダネー。ミンナノチカラデキセキガオキルネー」
「ガヴちゃん、しっかり! 状況はヘヴィーだけど!」
軟体動物のように力の抜けたガヴリーを、ミーナが支えた。
ベルグは二人の様子を気にしながら、イレーヌの下へと駆け寄った。
「……本当、超ヘヴィーな状況だな。
悪魔だけでもキツいってのに、ミノタウロスまで召喚されるなんて……。
イレーヌ、お前、大分楽観が過ぎてたんじゃないか?」
「確かに私の考えは甘かったわ。
でも、不思議と大丈夫でしょうって思えるのよね」
「ホントかよ。ミノタウロスだけでもかなりの強敵だぞ?
あれを相手にするのだって、俺たちには無茶で……」
「おい」
リーリエルは悪魔を警戒しながら、ミノタウロスを親指で指し、
「お前たちはそいつと戦え。時間を稼げれば十分だ。
その間に、俺が奴を倒す」
「は? そりゃ悪魔が倒せれば、召喚したミノタウロスも消えるだろうけどよ。
あんた、まさか一人で悪魔と戦うってのか!? いやいやいや、いくらなんでもそれは……って、おい!?」
ベルグが話す間に、リーリエルはすでにその場から駆けて悪魔に向かっていった。
「あいつマジか!?
くそっ、イレーヌ! リーリエルのフォローに行け!!
不完全状態の悪魔とはいえ、あんなの相手に単独戦闘とか死亡確定だろ!!」
「大丈夫大丈夫。あっちはリーくんに任せておこ」
慌てるベルグを、ミーナが気楽な調子で止めた。
「大丈夫って、そんなわけ……」
ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
咆哮と共に、ミノタウロスがミーナたちへ斧を叩きつけた。
三人は跳躍し躱す。斧は床を容易にえぐっていた。
「リーくんが心配なら、まずはこっちをなんとかするべきだよ」
ミーナが抜剣し、ミノタウロスへ向かって駆ける。
ベルグは一瞬迷うが、舌打ちしてミーナに続いた。イレーヌはその場で魔力を練り上げる。
ガヴリーは死んだ魚の目をして隅の方に転がっていた。
ミーナたち三人がミノタウロスと戦う一方、リーリエルは悪魔を相手にしていた。
一度目とは違い、フルパワーでの打撃術で強化した拳は、悪魔を殴打するたびに少なくないダメージを与えていた。
しかし、多少のダメージを与えても、悪魔は僅かな間で傷を回復させていく。
「……タマシイ……オマエノタマシイ、ホッスル、ワレホッスル」
「くくく、いくらでも食らうがいい!
この俺を倒せたのならばなぁ!!」
悪魔が放った黒球を、リーリエルが拳で叩き消滅させた。
「……グァァガガ」
うめきと共に、悪魔の周囲にいくつもの黒球が生み出される。
黒球がバラバラに放たれる。リーリエルは黒球を躱し、両の拳で弾くが、すべてはさばききれなかった。右腿と左頬から血が流れる。
浅くはない傷を負ったが、リーリエルは笑みを深くした。
「これだけの力がありながら、貴様は未だ不完全な存在だというのか?
貴様が完全であったのならば、以前の俺といい勝負ができていたことだろう」
「ガガガ、タマシイ」
「だが今は、俺も貴様もこの程度の力だ。
残念ではあるが、嘆いても仕方のないことだな」
リーリエルは意識を研ぎ澄まし、悪魔へと接近していく。
悪魔が再度、いくつもの黒球を生み出し放つ。
リーリエルは止まることなく身を低くし、左右へと避けながらさらに加速した。
黒球が肩と脇腹を掠めていくが、構わず悪魔へと肉薄し、低い体勢のまま下から拳を突き上げる。
「グガァ!?」
リーリエルのアッパーカットが悪魔の顎を直撃した。
今までとは異なる致命傷となりうる一撃を受け、悪魔は空中へと吹き飛ばされる。
回転し、どうにか着地するが、悪魔は口から黒い血を滲ませて、初めて驚愕の声を上げた。
「グガ、ガガ!? …………オマエ、ワレヲ、ホロボス……?」
「そのとおりだ。貴様は死ぬ。俺と遭遇したのが運の尽きだったな」
「ガガ!? ミトメヌ! ワレ、オマエ、タマシイクラウ!!」
悪魔が魔法を使うため、魔力を練り上げる。
悪魔は明確にリーリエルへと敵意を向けており、黒球よりも重い攻撃が来るのは必至であった。
しかし、リーリエルは好機と確信する。
(こいつの力は脅威だが、確かに不完全な存在だ。
攻撃に意識が向くと、常時展開しているはずの魔法障壁が疎かになる。
それこそが、俺の活路となる!)
リーリエルは冷静に、同時に最大限に力を溜め、綱渡りの勝負となる瞬間を見極めることに集中した。




