第25話 四天王、調査する
リーリエル達はガヴリーに先導され、一階の端にある部屋にたどり着いた。
中は薄暗く、リーリエル達5人が入ればかなり手狭になるような小さな部屋だった。
ガヴリーは全員に、部屋の手前で待ってるように言うと、
「えーっと……あ、あったあった、ここだ!」
室内の黒ずんだ壁から、僅かにザラザラとした部分を探し出し、「よいせーっ!」っという声と共に押し込んだ。
ゴゴゴゴゴゴっという音がして、部屋の真ん中の床の一部がスライドしていき、地下へと通じる階段が現れた。
「なにこれ。怪しすぎる」
ミーナが下をのぞき込むが、奥は暗くて見えなかった。
ガヴリーが必要以上に胸を張る。
「でしょでしょ?
ボクが吸血鬼に捕らえられた振りをしてたときに、あいつの隙をついて城内をくまなく調べて見つけたんだ!」
ベルグは階下に目を向けて、
「下には何があるんだ?」
「知らない」
「え?」
「まだ調べてないもん。
なんか怪しいし、ボク一人で行って変なのに出くわしたらヤだし。
人の気配はなさげだったし、こっち押したら床は元に戻ったからひとまず放置したの」
あっけらかんと言うガヴリーに、ベルグは「そ、そう……」とだけ言った。
イレーヌが階下に目を向けて、すぅっと目を細める。
「……少し悪寒を感じるわ。何かいそうね」
「イレーヌさん、何かって?」
「わからない。でもね……」
イレーヌがミーナに言いかけたときには、すでにリーリエルが階段を下り始めていた。
「ちょ、ちょっとリーくん!? 待ってよ!?」
ミーナが止めるのを聞かず、リーリエルはそのままスタスタと歩いていく。
ミーナは慌てて追った。
「リーくん、いきなり一人で行かないでよ。
こんないかにもなところ、危ないかもしれないんだから」
「ここで考えたところで何もわからん。
とっとと行って確認すればいいだけだ」
「そ、そうなんだけど、もうちょっと慎重に行っても……何がいるかもわかんないし」
「邪魔者は叩き潰せばいい」
「…………もー、リーくんはシンプルすぎるよぅ」
眉をへの字にしながら、ミーナはリーリエルの後についていく。
「ボクも行こーっと」
様子を見ていたガヴリーも、すぐに軽い足取りで二人の後を追う。
ガヴリーが明かりの魔法を唱えて、リーリエル達の先を照らした。
ベルグはガシガシと頭をかいて、ため息を吐く。
「……まぁ、行くしかないよな。
嫌な予感しかしないけど」
「依頼を完遂したいなら、選択肢はないでしょうね」
「村人失踪の理由…………お前の予想が当たっていないことを願いたいよ」
ベルグが階下へと向かい、イレーヌも続いた。
地下への階段は長く、その先には石壁に囲まれた空間が広がっていた。
ガヴリーが明かりを天井付近に掲げる。縦横にもかなり広いが天井も高く、10メートルは優に超えるほどの高さがあった。
リーリエルを先頭にして、ミーナとガヴリーも後に続く。
歩いていくと右端に、石壁がコの字になった個室がいくつかあり、腐食した鉄格子が仕切りとなるように設置されていた。
ミーナとガヴリーは通り過ぎながら中を見ていくが、なにもなかった。
「昔はここ、牢屋だったのかな?」
「地下牢ってやつ?
こんなところに作るとか、訳ありな感じの人が入ってた感じ? 牢屋にしては、すごいおっきいし」
静かすぎる空間に声が響き、吸い込まれていくようだった。
ガヴリーは、静寂を気にせず話しを続けた。
「……ボク、死体とかあったらヤだなぁーって思ってたけど、何もないのも、それはそれで困るんだよね。
結局なんにもわからないままになっちゃうし。
ひょっとして、ここからまた隠し部屋でもあったりするとか? うわ、メンドくさー」
室内をキョロキョロと見渡しながら、ガヴリーが不満を漏らす。
ミーナが、あっと、思い出したように聞いた。
「そういえば、ガヴちゃん。城にいたときって他にだれかいなかったの?」
「いやそれがさー。あの吸血鬼、何人も人を集めているようなことは言ってたんだけどさ。
ボクが見たのは、吸血鬼に血を吸われてモンスターになっちゃった人たちだけで、他にはだーれもさっぱり見かけなかったんだよね。
あいつ、『……これでもまだ足りぬというのか、ふふはは』みたいな感じのこと言ってたから、絶対何かあるはずなんだけど。
んで、城中を調べて、ここの入り口を見つけたわけ」
「…………えっと……ねぇ、ガヴちゃん。その吸血鬼って、何人くらい集めてるような感じだったか言ってた?」
「え? どうだったかな。何人とは言ってなかったと思うけど、結構多い感じだったかも。
数十人は欲しいみたいに言ってたかなー?」
のほほんと話すガヴリーの言葉を聞いて、ミーナは明らかに顔を引きつらせた。
「数十人? ……十数人じゃなくて?」
「うん」
「……明らかに依頼で聞いていた人数より多いよね?
っていうか、そんな人数を吸血鬼が必要とするって……吸血目的なら多すぎるし、絶対おかしい……」
「おい、なんだこれは?」
先頭を歩いていたリーリエルが、部屋の真ん中を過ぎたあたりの床を見ていた。
「奇怪な紋様のようなものが描かれているぞ。呪いかなにかか?」
「え? なになにー?」
ガヴリーが駆けて行き、興味深そうに見入った。
「なにこれ? めっちゃ細かっ! よくこんなの描けるなー」
「…………」
ミーナも近づいて紋様に目を向けるが、何かはわからなかった。
わからなかったが、嫌な予感だけはビンビンにした。
「ねぇ、これどう見ても爆発するほど怪しいよね? ……離れた方がいいんじゃぁ?」
ミーナが、くいくいっとリーリエルの裾を軽く引っ張るが、リーリエルは気に留めない。
リーリエルは紋様のすぐ前まで移動して、見下ろした。
「描かれたわけではないのか。床に直接掘られている」
「え? ……わ、ホントだ。なにこれヤバ―、どんだけ器用な人が頑張ったんだよー」
ガヴリーが膝をついて、床に掘られた紋様に面白がって触る。
瞬間、ドス黒い霧が紋様から噴き上がった。
「ちょおおおお!? なにごとー!?」
霧に包まれたガヴリーがパニくり、リーリエルは反射的にガヴリーの背を掴んで後方へと飛んだ。一瞬遅れて、ミーナも慌てて後方へと避難する。
リーリエルに引っ張られたガヴリーが、「ぐぇぇぇっ」と潰れたカエルのような声を出してから咳き込んだ。
「ぼへっ、ぼへっ……ちょっと、君!? 人をモノみたいにやんないでよ!?」
不満を言うガヴリーを無視して、リーリエルは好戦的に薄く笑った。
「なんだこいつは? なかなか面白そうなモノがわいてきたではないか」
「ふぇ?」
噴き上がった黒い霧は徐々に集まり、見る間に人型へと変化した。




