第24話 四天王、再び城へ向かう
五人の冒険者が森を歩く。
目指すはゴルディート城。
森の中でモンスターに襲われる可能性は十分にあり、事実、少し前にゴブリンと遭遇していたが文字通り瞬殺していた。
現在歩いている地点では強力なモンスターが出ることはほとんどなく、先行する三人に警戒した様子はなかった。
「へー。ガヴちゃん、回復魔法が使えるんだ―。いいなー」
「他にもいろいろと使えるよ。
何を隠そう、ボクは超万能型の魔法使いなのさ!」
ドヤ顔でドヤるガヴリーに、ミーナが「おー!」と調子を合わせて拍手する。
拍手こそしないものの、イレーヌは羨ましそうにガヴリーを見た。
「私もある程度魔法は使えるけれど、回復魔法は習得できなかったわ。
アレは向き不向きが特にでるのよね」
「あんまりいないよね、回復魔法出来る人」
「そうそう! ボクってば選ばれし魔法使いなの!
……さすがに、専門職の僧侶が使うような強力なのは使えないんだけどね」
ガヴリーは、伸ばした背を少しだけ丸める。
ミーナが「えー」と漏らして、
「でも大癒術は使えるんでしょ?
ポーションだと、気休め程度の回復じゃない?
軽い打撲や擦過傷くらいしか効果ないし、戦ってる拍子にポーションの瓶が壊れたりとかあるし、持っていく意味あるのかなーって思うこともねー」
「それでも回復手段がないと困ることがあるから、結局持っていくしかないけどね」
「わかるー、そうなんですよねぇ。
あぁあぁ~。ガヴちゃん、いいなー」
「もっと羨んで! もっと褒めて! ふへへへへ」
だらしのない顔をするガヴリー。
後方で歩いていたリーリエルが舌打ちをした。
「緊張感のない連中だな」
リーリエルの指摘に、ベルグが苦笑した。
「ははっ、そうだな。
でも、いいんじゃないか? この辺は、ロウバードとかホーンラビットとかゴブリンとかの雑魚モンスターしか出ないし。
城に着いてからが本番だろ」
「……ふん」
「なんだよ。なんか機嫌悪い?」
「能天気な連中を見ているとな」
「そっか? 俺はずっと緊張しっぱなしよりはいいと思うけどなー。
それにパーティ組んでて女の方が多いとか、こんな華やかなことはすごく珍しいんだぜ。
だんだん女の冒険者も増えてきてるけど、やっぱり冒険者同士で即席で組んだら、むさいおっさんに囲まれることばっかりだからな」
「どうでもいい。まともに戦えることの方がよほど重要だ」
「はぁ~~~。
リーリエル。あんた、そんなナリしてても男なんだろ?」
ベルグが前から順番に指をさしていく。
「冒険者としての腕は立つし、気立てがいいと評判のかわいい娘。
実力はよくわかんないけど、回復魔法は使えるみたいだし、明るくて楽しそうな感じのかわいい娘。
……あとは、まぁ、外面は悪くない感じの女と………………ついでに言えば、隣の奴まですげーかわいい娘に見えるんだけど…………は!? これもしや、俺は今、物凄いハーレム状態なのでは!?」
ベルグは重大なことに気づいたかのように、わなわなと震え出した。
「どうした?」
「いや、いやいやいやいや! 大丈夫、俺はちゃんと理解している! 全然ドキドキしたりはしてない! 大丈夫! 俺は、ノーマルだ!!」
ベルグは慌てて大きく頭を振ると、ふぅっと息を吐いた。
「とにかく、さ。なかなかないんだぜ、こんなパーティは。
この状況がどれだけ幸運なのか、あんたはちゃんと理解した方がいいぞ」
「くだらん。せいぜい連中が足手まといにならんことを祈っておく。
そうなったらなったで、切り捨てるだけだがな。肉壁程度にはなるだろう」
「……リーリエル。そういうことは、もっと冗談っぽい顔で言ってくれよ」
◇ ◇ ◇
リーリエル達は、特に障害もなくゴルディート城に到着した。
重い扉を開け城の中に入ると、朽ち果てた様子はあるものの、モンスターの気配はなかった。
荒れた城内を見て、リーリエルはふと疑問が浮かんだ。
「ミーナ、雑魚共の魔石はお前が回収したのか?」
「え? なんのこと?」
「昨日、俺はここにいたグールどもを適当に倒したままにしていた。
その魔石がまったく落ちていないと思ってな」
リーリエルの言葉に、ミーナが少しだけ気落ちする。
「ここは吸血鬼の城だからね。
たぶんリーくんが倒したモンスターは、吸血鬼が地力で召喚したり、血を吸ってアンデッドにした人たちだったんだよ」
「だからなんだ?」
「え? だから、倒したのがモンスターにされた人たちだったら、かわいそうだったなぁとか。
でも元に戻す方法なんてないし仕方ないよねぇとか、魔石がないのも当然だよねぇって…………あ!」
ミーナが、はっとする。
(そうだ! 召喚されたモンスターや、人がモンスターに変えられたときは、そのモンスターを倒しても魔石が消えちゃうって、リーくん、それ知らないよね!?
冒険者なら、だれでも知ってるようなことなのに!)
ミーナが何か言おうとする前に、イレーヌが口をはさんだ。
「吸血鬼や悪魔などによって魔物に変えられた人を倒しても、魔石にはなりますが、すぐに消滅します。
召喚された魔物を倒しても同じです。
だからここには魔石がないのでしょう」
「ほう。そうなのか」
納得した様子のリーリエルに、ガヴリーが首を傾げる。
「え、君そんなことも知らないの?」
「この世界のことなど俺が知るか」
「世界?」
ガヴリーの頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。
ミーナが慌てて割り込んだ。
「あ、あー! あのね! リーくんはね、ものすんごい田舎出身でね!
最近このあたりに来たばっかりみたいで、あんまり常識とか知らないみたいなんだよね!
ねー?」
「ミーナ、お前は俺がどこで生まれたかなど知らんだろう」
「知らないけど田舎者だってことはわかるの!」
ミーナはダッシュでリーリエルに詰め寄り、小声で早口にまくし立てる。
「リーくん! 普通はね、俺は別の世界から転移してきたなんて言っても、誰も信じないんだからね!
頭おかしい人だと思われちゃうから、私に話合わせて!」
「あ? だれの頭がおかしいと……」
「ねーーっ! そういうことなんだよ、ガヴちゃん!
だからリーくんってば、強いんだけど、いろいろと知らないことが多いんだ!!」
「そっかー。それじゃ仕方ないね。
ボクの生まれたところもド田舎でさー、街に来て初めて知ることだらけだったなぁ」
ガヴリーは、うんうんと頷いてリーリエルに優しい目を向けた。
「わかんないことがあれば、ボクに聞けばいいよ。
都会出身に聞くと、鼻で笑われることあるしね。あれ地味にムカつくんだ」
「…………」
ガヴリーの笑顔が、リーリエルにはこの上なく能天気に見えた。




