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第20話 四天王、荷物になる

 轟音が森の中で響き渡る。樹木が爆砕したようにはじけ、次々と倒れていった。

 元凶は、リーリエルである。

 リーリエルは打撃術ストレングスで強化した拳で、手当たり次第に木々をなぎ倒していた。


 ゴルディート城で吸血鬼ヴァンパイアを倒し、城にいた少女ガヴリーと、リーリエルを追ってきたミーナを残して、リーリエルは一人街へ戻る途中だった。

 森の中を歩く前から、リーリエルの胸中にはふつふつとしたものがこみあげてきていたが、過去のゴルディート城でのことがよぎってからは、どうにもならなくなっていた。

 到底抑えることのできない苛立ちに支配され、リーリエルは衝動に身を任せた。


「おおおおぉぉぉぉおおああぁぁぁああぁぁああああああああああああああ!!!!」


 リーリエルは溜まった何かを吐き出すように絶叫した。無意識に、再度魔法を唱えて拳を強化し、木々を蹂躙していく。

 森の中を巨大な生物が通ったかのような惨状となるのに、大した時間は要さなかった。




 ◇ ◇ ◇




(…………なんだ?)


 意識が覚醒したリーリエルは疑問を感じた。

 うっすらと目を開けたリーリエルの視界には、木々の先に夕暮れに染まる空と栗色の髪があった。

 それらは少しばかり上下の揺れを繰り返している。


「あ。リーくん、お目覚め?」


「………………ミーナか」


 口に出してから、リーリエルは今の状況を理解した。

 ミーナに背負われて移動しているのだ。


「身体は大丈夫? 痛いとことかない?」


「異常はない。なぜお前が俺を背負っているのだ。降ろせ」


「え? やめといた方がいいと思うけど……」


「二度も言わせるな」


「そう? じゃあ……はい」


 言われた通りにミーナが中腰になり、リーリエルは地面に降り立つ。

 そしてすぐに、リーリエルは崩れるように前のめりに倒れた。


「…………ぐぉっ、なんだ……身体が……力が入らん……」


「そりゃそーだよ。城から帰ってくる途中の道の近くで、木が倒れまくってて凄いことになってたもん。

 最初は、どんな怪物モンスターが出たの!? って思ったよ」


 うつぶせに倒れて動けないリーリエル。

 ミーナは、その身体に手を入れて起こした。


「あれやったの、リーくんでしょ?

 ちょっとだけだけど、遠くの方からリーくんの声、聞こえてきたよ」


「…………」


「魔力も気力も使い果たすまで暴れて気絶するなんて、よっぽどだよ。

 ちょっと休んだくらいじゃ、動けるようになんてならないよっと」


 ミーナは器用にバランスを取り、リーリエルを再度背負ってから歩き出した。


「大丈夫、安心して。ちゃーんと私が、宿まで連れてってあげるからね」

 

「……屈辱だ」


「ちょっと、もー! なんでそういうこと言うかなぁ、リーくんは。

 お礼のひとことくらいあっていいと思うんだけどなぁ」


「俺は頼んでいない。お前が勝手にやっていることだろう」


「そーなんだけどさー。ま、いいけどね!

 そうそう、ガヴちゃんなんだけど、たぶんもう街に戻ってるころだと思うよ。先に行ってもらったんだー」


「………………ガヴちゃんというのは、ガヴリーのことか?」


「うん」


「そうか」


「うん」


「間抜けな呼び名をつけたものだな」


「え? かわいいでしょ?」


「……ペチャクチャとよく喋るアレには、合っているか」


 リーリエルは、元気に話すガヴリーが脳裏に浮かび、鼻を鳴らした。 


「ねぇ、リーくん。

 もしかして…………ううん、もしかしなくても、リーくんってガヴちゃんのこと知ってた?」


「…………」

 

「ガヴちゃんってさ、前にリーくんが話してた人だよね?

 リーくんがこの世界に来て、宿で説明してくれたときに、ガヴちゃんの名前を聞いたよ。 

 確か、リーくんの副官だったっていう吸血鬼ヴァンパイアの……」


 ミーナは言葉に詰まったが、リーリエルは特に気にした様子はなかった。


「そうだな。そして、お前と同じなのだろう。

 姿はほとんど同じだが、中身は別人と言えるほどまでに異なる」


「……うん。ガヴちゃん、リーくんのこと、知らないみたいだった」


「だろうな。俺がガヴリーと最初に会ったときには、すでに吸血鬼ヴァンパイアだった。

 人間だったころのガヴリーなど、俺は知らん」


 リーリエルが、くくく、と喉を鳴らすように笑う。


「よもやあのガヴリーが、あれほどの阿呆だとはな。

 あれが人間のころのガヴリーなのか、それとも外見だけ同じのまったくの別人なのか、それはわからんが…………くくく。滑稽なことだ」


「……リーくんと一緒にいたころのガヴちゃんって、どんな人だったの?」


「冷静沈着のひとことに尽きる。

 初めて会った頃、俺に致命傷となる攻撃をされそうになっても、奴にはまったく動じた様子がなかった。

 俺の気分次第で次の瞬間には、奴が死んでもおかしくない状況だったというのにな」


「そ、それって冷静っていうレベルじゃないような……?」


「ガヴリーはそういう奴だったのだ。

 奴が俺に同行するようになってから、俺は魔王に挑戦しに行ったことがあるのだがな。奴は俺が魔王にやられるのをじーっと観察していたのだ。

 俺が魔王にボロ雑巾にされ意識を失うまで、ただずっと見ていたらしい」


「……ガヴちゃん、やっぱりリーくんに殺されそうになったことを恨んでいたのでは?」


「だがその後で、奴は俺の手当てをしていたのだ。俺を殺す絶好の機会だったろうにな。

 その後も奴は俺に協力した」


「ガヴちゃんは何をしたの?」 


「細かいことはいろいろとだが……そうだな、奴の一番の功績は、俺が魔法を使うようになったことか」


「魔法? リーくん、魔法使えなかったの?」


「使えなかったわけではないが、得意ではなかったからな。わざわざ使おうとは思わなかった。

 しかし、魔王に勝つための手段として、奴が提案してきたのだ。

 肉体だけを鍛えて魔王に届かないのなら、別の方法も考えるべきだとな」


「なるほど、なるほど」


「それからは屈辱の日々が続いた。

 俺より遥かに弱いガヴリーが、この俺に偉そうに魔法について講釈を垂れるのだ。

 しかも奴自身は吸血鬼ヴァンパイアになった変動で、ロクに魔法が使えなくなったというのにな。

 やれ、ただ魔力を全力で使うだけなら幼子でもできるだの。やれ、制御という言葉を知っていますかだの…………なんだ! 思い出したら腹が立ってきたぞ!

 くそっ! やはりあのとき一発殴っておくべきだったか!!」


「あははは。でも、なんでそのときは殴らなかったの?」


「……曲がりなりにも効果があったのだ。奴の考案した打撃術ストレングスは、俺と相性のいい魔法だったし……結果的にはこれで魔王に対抗する力を得られたからな」


「へー、あの魔法ってガヴちゃんが考えたんだ。

 それで魔王さんには、勝てたの?」


「いや、その後魔王と戦おうとしたのだが……そのときには…………魔王は、伏せるようになっていて…………」


「他の誰かにやられちゃったの?」


「違う…………病だと聞いていたが……あの魔王が、病などに…………………………」


「……リーくん?」


「…………」


「リーくん…………?

 寝ちゃったかな? もう、あんまり無茶しちゃだめだよ……って、聞こえてないか」


「…………」


「このリーくんに、よくガヴちゃんは言って聞かせられたもんだねぇ。あはは」




 ◇ ◇ ◇




 翌朝、リーリエルは宿のベッドで目覚めた。


「身体は……問題なさそうだな」


 身体を起こし、何度か手を握ったり閉じたりする。疲労もほとんど残っていなかった。

 リーリエルは一晩寝て十分に回復していた。


「…………さすがに動けなくなるのは迂闊すぎだったか。

 まったく、俺はどうしてあんな……」


 言いかけたリーリエルの視界に入ったのは、椅子に座っていたミーナだった。

 ベッドに突っ伏して、すやすやと眠っている。口の端にはよだれが垂れていた。

 

「おい」


「…………」


 リーリエルが呼びかけても返事はない。完全に熟睡している。

 リーリエルは、ふんっと鼻を鳴らした。


「…………………………変な女だな」

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