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第19話 四天王、先に行く

「へー、吸血鬼ヴァンパイアが住んでたんだ、この城。

 そういえば最近、失踪事件が増えてるって聞いたことあったかも」


「そう! それをボクは調べてたんだ!!

 ……まぁ、城にいるのが吸血鬼ヴァンパイアだとは思ってなかったから、ちょっとね、油断しちゃってね、捕まったりなんか……あ、いやいや、捕まったフリをね! 振り振り、振りだよー。

 あくまで捕まった振りをしたりなんかしちゃったりしてたわけなの!」


 互いに簡単な自己紹介をして、ガヴリーはミーナにこれまでの経緯を説明していた。


「今日もね、これから城の掃除をさせられるところでさー、この城ボロいし無駄に広いし憂鬱だなーなんて思ってたら、いきなりあの魔族の子がこの部屋に入ってきたんだ。

 あの子も冒険者なんだよね?

 なんかすごい格好してたけど。あんなひらひらした服着てて、動きづらくないのかな?」


「…………さ、さぁ? で、でも、聞くところによると、実はすごい付与効果がいっぱいある優れモノみたいだよ?」


「そうなんだー。

 で、結局あの子が吸血鬼ヴァンパイアを倒してくれたの? ひとりで?」


「うん。たぶんね。リーくん、先に行っちゃったから、想像になるけど。

 玉座のある部屋に、この魔石があったんだ」


「あー! その色! 薄紫色! あいつの髪の色してる!

 絶対あいつだよー、間違いないね!」


「そっか」


「あいつ本当に死んだんだ―。よかったー。

 へん、ザマぁ~~!! なーにが窓際が汚いだの、縫製が曲がってるだの、細かいことをいちいちグチグチ言ってくれちゃってさー。

 だったら自分でやれってのばーーーーっかーーーーー!!!」


 ガヴリーは、晴れ晴れとした笑顔で悪態を吐き、それから首をかしげた。


「そういえば、あの娘、この城に来たってことは、私と同じ失踪事件の調査依頼をギルドから受けたんだよね?

 じゃあ、どうして吸血鬼ヴァンパイアの魔石も持たないで帰っちゃったんだろ。

 ギルドに、実はあの城には吸血鬼ヴァンパイアがいたんですー、あいつが失踪事件の原因なんですーって報告するなら、魔石を持っていった方がわかりやすいと思うんだけど。

 もしかしたらギルドに信じてもらえないかもしれないのに。

 ていうか、吸血鬼ヴァンパイアの魔石とか、かなり貴重だと思うんだけどそれをスルーってなにゆえ?」


「……そうだね」


 ミーナは、街に戻るとだけ告げて去っていったリーリエルを思い出し、あいまいに頷いた。




 リーリエルは、単独で森を歩いていた。

 少し前に通った道を戻るだけ。迷いなく、急ぐこともなく、淡々と歩いていた。


 ゴルディート城。

 それはかつてのリーリエルが、強き者を求めて訪れた城だった。

 そして、さきほどまでいた城にも、同一の名の者がいた。

 リーリエルは不意に、アイリーン湖で遭遇した不可思議な者の言葉がよぎった。



『そうだ忘れてた。君、探し物があるなら早くした方がいいよ。

 時間が経てば、形が変わってしまうかもしれないから』



「…………形、か」 


 リーリエルはポツリとつぶやくと、ほとんど無意識に魔力を練り上げた。




 ◇ ◇ ◇


 



「奴のところに行く、とは聞いていましたが、まさか奴というのが魔王とは思いませんでした」


「くくく、ガヴリーよ、正直に話そう。

 奴はな、このリーリエルをもってしても唯一かなわぬ難敵なのだ」


「でしょうね。魔王なのですから、魔族の中で一番強いのですよね?」


「そのとおりだ。だが、それも今の内だけのことだがな。

 このリーリエルが、必ず奴を叩き潰し、魔族最強、いや、この世界で最強の者となるのだ!」


「これだけの重傷を負って、そんな強がりを言えるのは大したものです」


「強がりではない! 事実だ!」


「忌憚のない意見を申し上げれば、端的に言ってリーリエル様は、さきほどの戦いで超ボコボコにされていたようですが?

 かかしか何かと言うくらい、何もできずに一方的にボコられてましたよね」


「……や、奴に一発は入れたぞ!?」


「魔王の防護魔法に阻まれて、完全にノーダメージでしたね」


「そ、それは……」


「戦いにより、リーリエル様は気絶されたので私がここまで運びました。

 魔王は、リーリエル様にトドメをさそうと思えばいくらでもできたでしょう。

 完全に舐められていました」


「…………」


「もしかして、今までもこんな感じだったのでしょうか?」


「う、うるさいぞ!!

 ガヴリー!! 貴様、いちいち細かいことをグチグチと!!」


「まったく細かいことではありません。

 リーリエル様、このようなことを続けていたら、魔王の気が変われば即座に殺されますよ」


「む…………貴様も、魔王にはかなわないからやめておけと言うのか?

 無謀な戦いを吹っ掛けるのはやめろと、どこぞの小娘のようなことを言い出すのではあるまいな?」


「そんな真っ当な意見を言われる方がいるのですか?」


「どこが真っ当だ!?

 くそ、あのガキめ!! 魔王の娘だかなんだか知らんが、このリーリエルに憐れんだ目を向けたのだぞ!!」


「…………」


「おい、やめろ。貴様、俺が動けないと知っていてそういう目をするな!」


「その方の言うことは実にもっともな話ですが、リーリエル様に聞く気がないのであれば仕方がありません。

 なんとか状況を打破する方法を考えましょう」


「え? …………お……おぅ……そうだな……」


「現状では、力の差が歴然としています。これを短期間に埋めるのは難しい。

 となると、今までとは違ったアプローチをするとして……」


「…………な……な」


「はい? 何か言いましたか?」


 リーリエルは、黙って首を振った。

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