表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/62

第18話 四天王、追いつかれる

 振り返りざまに速攻で土下座を決めた銀髪の少女は、しかし「あれ?」と疑問符を浮かべて顔を上げた。


「え? 君、だれ?」


「…………」


「え? え? なんでこんなところに君みたいな娘がいるの?」


 銀髪の少女は立ち上がり、リーリエルの顔をじろじろと見る。

 リーリエルは、少女のぶしつけな視線を黙って受け止めていた。


「あ、ひょっとして君も攫われてきちゃったの!?

 うわー、今までは普通の村人だけだったのに、とうとう君みたいなお嬢様も攫うようになっちゃったんだぁ」


「…………」

 

「あれ? でもおっかしいなぁ?

 確かあの吸血鬼ヴァンパイア、人ならだれでもいいみたいなこと言ってたんだよね。君みたいなお嬢様を攫っちゃったら、大騒ぎになっちゃいそうだけど。

 ……はっ!? もしかして、あいつの趣味か!? うわっ、ありそー!!!

 君、すんごいお嬢様っぽいし、なんかその服とか、あいつ好きそーだよ!!! うわー、君ついてないねぇ。かわいそうに。

 なんかあいつってさ、ねちっこい感じなんだよねぇ。

 顔はいいんだけど、生理的にダメっていうかぁ、なんかナルシスト臭がすごくてきっついんだよねぇ……。

 ふふふふふ、でも安心するといいよ! 実はボクはねぇ、こう見えて冒険者なのさっ。

 今はこうして捕まっちゃったりしてるけど、これは振りなんだ!

 あくまでね、捕まった振りをしているだけで、ちゃーんとここから逃げ出す方法も思いついてるんだからねっ!! 本当だよっ!!!」


「ガヴリー」


 くるくると表情が変わる少女に、リーリエルは独り言のように呟いた。


「うん、なに?」


 少女、ガヴリーは小首をかしげて、自然に返事をした。

 自分の名前を呼ばれたときの、実に真っ当なリアクションであった。


「あれ? ボク、君に名前言ったっけ? まぁいっかぁ。

 ね、君はなんていうの?」


「…………」


「あ、もしかして怯えてる? そうだよねー。いきなりオンボロ城に拉致られてさぁ、びびるよねー。

 けど、さっきも言ったけど、ボクにかかればここから逃げ出すことなんてわけないん……」


「あーーーー!!! リーくんこんなところにいたぁ!!!」


 閉まりかけていたドアが勢いよく開く。

 息を切らせたミーナが、細い眉を吊り上げていた。


「もー、急に走っていくんだからさぁ。

 一生懸命追いかけたのに追いつけないし、そうこうしてたら、ヤバイ噂の城が見えてくるし、中はなんかすごい数のアンデット系モンスターがいるし。

 リーくんのことすっごい探したし、ここまで来るの大変だったんだからね。帰ったら、お説教だよ、お説教!!

 もー、一体どうしてくれようか…………って、……あの……?」


「…………」

 

「……ねぇ、リーくん。なんでこの人、土下座してるの?」




 ◇ ◇ ◇

 



 剛腕の男、リーリエルが銀髪の女に顔を向ける。


「なんだ、お前は?」


「私は……その吸血鬼ヴァンパイアの眷属です」


 リーリエルが一瞬眉を吊り上げる。


「なるほど、主の敵討ちというわけか。殊勝だな。

 いいだろう、かかって来い」


「違います。あなたに歯向かうつもりなどありません」


「なんだ、つまらん。ではなんだ?」


「……ありがとうございました」


 女が頭を下げる。

 深い礼をする女に、リーリエルは怪訝な表情を浮かべた。


「何を言っているんだお前は」


「その吸血鬼ヴァンパイアを倒していただいたので。

 それのせいで、私たちは……私は、ずっと……」


「なんだくだらん。どうでもいいことか」


「くだらないことなどありません」


「はっ、この程度の雑魚相手にいいようにされるなど、くだらんこと以外の何物でもない。

 このリーリエルがわざわざ足を運んでやったというのに、とんだ無駄足だったわ」


「あなたにとってはそうでも、私には、くだらないことではありません」


 冷静な口調で、しかし女はきっぱりと断言した。

 リーリエルは獲物を狩るように目を細め、殺気を纏った。

 

「なんだ、貴様は。死にたいのか?」 


「死にたいことなどありません。

 死にたければ、私はずっと前に自害しています」


「ならば黙っていろ。俺は今機嫌が悪い。

 期待していた相手が取るに足らん雑魚で、勘に障る女が目の前にいるせいでな」


「気分を害したのであれば、それは申し訳ありませんでした。

 私はただ、吸血鬼ヴァンパイアを倒していただいたことについて、お礼を言いたかっただけです」


 リーリエルが鼻を鳴らす。


「本当に、無駄足だったな」


 もう用はないと、リーリエルは踵を返し、古城から立ち去った。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「おい、貴様。なぜついてきている?」


「考えてみたら」


「ん?」


「考えてみたら、ずっと、あの吸血鬼ヴァンパイアを殺したいとは思っていましたが、その後のことは何も考えていませんでした」


「ほう」


「城にいても仕方ありませんし、いたいとも思いません。

 ですが城を出ても特に行くところもありません」


「そうか」


「ですので、どうせならあなたに、吸血鬼ヴァンパイアを倒していただいた恩を返すことにします」


「はぁ? いらん。馬鹿か」


「申し訳ありませんが、もう決めましたので」


「本当に馬鹿か貴様。

 いいだろう、そこまで死にたいのなら殺してくれる」


 リーリエルは無造作に拳を振り、女の顔面を殴打し吹き飛ばした。


「本当に、くだらん」


 リーリエルは足を止めることなく、歩き続ける。

 しばらくして、足音が増えた。不規則な足音だった。


「…………」


「…………」


「存外しぶどいな貴様。

 あの吸血鬼ヴァンパイア程度なら殺せる打撃だったはずだぞ」


「日頃から虐げられてきた成果ですね。

 人の身体のままであれば即死でした」


「あと何発耐えられるか試してみるか」


「一発で終わりでしょう」


 きっぱりと告げる女に、リーリエルは呆れたように言った。


「貴様、やはり死にたいのか?」


「死にたいことなどありません。

 ですが、くだらない生もいりません」


「…………」


「私は吸血鬼ヴァンパイアの眷属です。この身はすでに、吸血鬼ヴァンパイアそのものと大差ありません。

 化け物の身で人の世に戻れるとも思えませんし、今更戻るつもりもありません。

 私は、ただ私のしたいようにするのです」


 よろけながら歩く女は、迷いなく言う。

 リーリエルは歩き続け、やがて何かを諦めたように嘆息した。


「……名乗れ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ