第17話 四天王、探す
数年前。
朽ちかけた城内の最上階。
玉座のある部屋でのことだった。
「くひ……ひゃぁは……ぁ…………」
心臓を剛腕で貫かれた吸血鬼は、虫の羽音のような断末魔を漏らした。
「こんなものか。所詮は大した年も経ていない吸血鬼だな。
実力者だという噂を聞きつけてわざわざ足を伸ばしたが、期待外れだったようだ」
血を噴き倒れた吸血鬼を一瞥すらしない。
剛腕の男、リーリエルは失望したが、すぐに顔を上げた。
「魔王領に戻るか。
そろそろ、奴に一発ブチかましに行っていいころだろう……」
「あのっ!」
リーリエルが歩き出したところで、横手から声が上がった。
女の声だ。
リーリエルが顔を向けると、そこにはボロ布を纏った銀髪の女がいた。
◇ ◇ ◇
城内を走るリーリエルに、次々とグールが襲い掛かってくる。
グールとは、使い魔となった人間であり、魔物となった人間とも言えた。
「…………」
リーリエルが無造作に振るった拳は、グールを吹き飛ばしていく。
激しい音を上げて壁にへばりついたグールは、力なく倒れて魔石へと変化した。
リーリエルは一顧だにせず、ただ城の最上階を目指した。
ギルドを飛び出したリーリエルは、受付の男から聞いた大雑把な道順を頼りに走った。
最初は見覚えのない道であったが、目的地であるゴルディート城に近づくにつれ、リーリエルの記憶にあった風景と一致していった。
朽ちかけた城に着くと、リーリエルは勢いのまま突入する。
そこかしこでグールやスケルトン、レイスなどの死霊系モンスターに襲われたが、リーリエルはそのほとんどを無視し、あるいは興味なく拳を振るって吹き飛ばした。
リーリエルはわずかな時間で城内を突き進み、最上階の扉を蹴破るように開けた。
「……ほう。どんな屈強な者が来たのかと思えば、これはかわいらしい客人ですね。
我が城に一体どのようなご用件です? 魔族の少女よ」
薄紫色の髪をした青年が、優雅な声で出迎えた。
白のシャツに黒のマントを羽織った青年であったが、笑みを浮かべた口には、人ではありえない牙歯が垣間見える。吸血鬼であった。
「銀髪の女がいるだろう。どこにいる?」
「銀髪の女? さて、ここには何人もの人がいますから。
……もしかしたらそのような人間が、一人くらいは混ざっていたかもしれませんねっ!!」
青年は笑みを深くして、右手から生み出した魔力球を撃ち出した。
貫通力を伴った魔力球は、一直線にリーリエルへと迫る。
「そうか」
リーリエルは、無造作に右手を顔の前で払い、迫りくる魔力球を弾き飛ばした。
「……は?」
呆然とする吸血鬼に、リーリエルは床を踏み込み一息で接近した。
吸血鬼が反応したときには、すでに打撃術の効果が付与されたリーリエルの拳が振るわれていた。
「かはっ!?」
避ける間も、防ぐ間もなく、リーリエルの拳は吸血鬼の左胸を打ち、そのまま後方へ吹き飛ばした。
吸血鬼は不規則に転がったが、その途中で手を突き反動で起き上がり、体勢をととのえた。
「……くっ、くくく。その小さな手で、この私にこれほどのダメージを与えるとは。
あなた、いいですね。特別に、この私の眷属として生きる権利をあげましょう。
真の私の姿を前にして!! 存分に恐怖なさ」
「もう貴様に用はない」
力を解放しようとした吸血鬼が最後に見たのは、華奢な少女の拳であった。
無防備な吸血鬼の顔面を、リーリエルの瞬速の拳が打ち抜く。
果物を地面に叩きつけたように、ぱぁんっと軽い音を立てて吸血鬼の頭部が弾け飛んだ。
「…………」
頭をなくした吸血鬼が仰向けに倒れると、間もなく薄紫色の魔石へと変化した。
リーリエルは魔石には目もくれず、周囲を見渡した。
入ってきたときにも気にしていたが、人の気配はなかった。
わずかに顔を歪ませて、リーリエルは部屋を出てすぐ隣の扉を開けた。
部屋を見渡して、また部屋を移動する。
それから、隣。さらに隣。しらみつぶしに当たり、やがてそれが十回目に達した。
「……ッ!!」
簡素な部屋。家具はベッドしかなかった。
そんな部屋の窓際に、手をついて外を見ている銀髪の少女が立っていた。
扉の音に気づき、少女が振り返る。
リーリエルは無意識に口を開き、
「ガヴ……」
「うあああああああごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃいぃぃぃぃぃぃ!!!!
別にサボってたわけじゃないんです!!! ちょっと、小鳥が飛んでて、そういえば最近お肉食べてないなぁって感慨深く思ってただけなんですぅぅ!!!
すぐ、もうちょうど今、今!!! お掃除に戻ろうとしてたところで!!!
あ、そうだ!! お風呂!!! お風呂の準備してきますねっ!!!! 身体を綺麗にしてさっぱりしましょう!!!!
ですから、なにとぞっっっ!!!! なにとぞ、どうか殺さないでくださいいいいい、あと血も吸わないでっっ!!!
花の乙女なのに、グールだのスケルトンだのの化け物なんかになりたくないんですぅぅぅぅぅぅ!!!!!
あぁぁぁぁぁぁ、でも人型の眷属ならワンチャンおっけー寄りのおっけーですぅぅぅうぅぅ!!!!
でも痛いのはいやぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
問答無用で少女に土下座をされたのだった。




