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第15話 四天王、精神的攻撃を受ける

「もう二度と、あの店には行かん」


 これ以上ないと言わんばかりの疲れを表すように、リーリエルは胡乱な目をして、長い長い溜息をついた。


 リーリエルは、先ほどまでベルグとイレーヌに案内された武具店にいた。

 店主のマシンガントーク、そして、今着ているゴスロリ服が防具として高性能なものであるという事実によって、リーリエルは軽くはない精神的負荷ストレスを抱えることとなった。


 広場のベンチに座りながら、リーリエルはまた長い溜息をついた。


「いくらこの服が優秀とはいえ、こんなものを着ている四天王などおらん。

 だが今後を考えれば、現状これを装備するのが最善だというのか。

 ……くそ、ミーナめ、なんという恐ろしい精神攻撃を俺に仕掛けてくるのだ。やはりアイツは敵だったのだ」


 ブツブツと言っているリーリエルに、ベルグはどうしたものかと苦笑している。

 ちょうどそこへ、イレーヌが戻ってきた。いい匂いをさせた袋を抱えており、その中にある一つをリーリエルに差し出した。


「リーリエルさん、このクッキーおいしいんですよ。おひとつどうですか?」


「……もらおう」


 空腹を感じていたリーリエルは、素直にイレーヌからクッキーを受け取った。

 さくっとして、軽い歯ごたえで、甘みと共に口の中にとけていく。


「うまいな」

 

「ですよね。もっと食べます?」


「もらおう」


 リーリエルは繰り返しひょいパクしているうちに、徐々に目に力が戻ってきた。

 気力が回復し、頭の回転が正常になったリーリエルはたずねた。


「イレーヌと言ったか。

 お前、ミーナがどこに行ったか知っているか?」


「いいえ、知りません。午後にはギルドに顔を出すとは聞いていますが」


「そうか。ならばもう少し経てば、あの腐れた女の顔を、ゴブリンに変形するくらいに殴り飛ばすことができるわけだな」


 くくく、とリーリエルが不穏な笑みを浮かべる。


「……あんた、女相手に容赦なしか」


 引きつった顔をするベルグに、リーリエルは鼻息を鳴らした。


「何を不合理なことを言うのだ。

 性別で、いちいち態度を分けてどうする?」


「はは。だんだん、あんたって人の性格がわかってきたよ」


 若干呆れている感じはあるものの、ベルグのリーリエルに対する態度は好意的だった。


「単独行動の多いミーナが、なんで初対面のあんたといきなりクエストなんてこなしてたのか不思議だったが。

 今はなんとなく理解できる気がするよ」


「……他の冒険者の中にも、そんなことを言っている奴がいたな。

 ミーナは、群れるのが好きではないのか?

 あれだけうるさい奴だというのに」


「好きか嫌いかはわかりませんけど、ミーナちゃんが誰かと一緒に行動しているのってあまり見ないですよ。

 人当たりはとってもいいんですけどね」


「俺たちは、たまたま商人を護衛する依頼で一緒になってさ。

 それからも何度か一緒になることはあったな。

 けど、それらは全部依頼を受けてから偶然鉢合わせたものばかりで、最初から協力して依頼をこなさないかって誘っても、何かしら理由をつけられて断られちまってたんだ」


「それは単に、お前が避けられているだけではないのか?」


「うぐっ!?」


 リーリエルの火の玉ストレートに、ベルグが崩れ落ちる。


「……そ、そんなことは……ないと思うんだが」


「そうか」


 リーリエルは膝をつくベルグには無関心に、クッキーを頬張る。


「リーリエルさんの言うことはもっともなんですけど」


「おい、イレーヌ! お前はフォローしてくれよ!」


 半泣き状態のベルグがイレーヌにすがるが、イレーヌは一瞥すらせずにリーリエルに説明する。


「ですけど、それがベルグだけではなく、すべての冒険者に当てはまっているんです。

 もちろん、女性の冒険者も例外ではありません。

 ミーナちゃんは本当に、必要に迫られなければ誰かと一緒に依頼をこなしていることなんてないんです」


「そ、そうそう! 俺たちなんか、この街の冒険者の中では一番ミーナと話している方だったんだぜ!

 だいたい今日だって、ミーナは俺たちにあんたのことを頼んできたんだ!

 そうだよ、どう考えたって俺たちが、俺が避けられてることなんてないだろ!? だろ!? そうだろ!?」


 イレーヌと、ものすごい必死なベルグの言葉に、リーリエルは思案する。


(あの騒がしい娘が、単独で動くことを主としている? それも自ら率先してだと?

 ならば、なぜ初対面のはずの俺とは行動を共にした?

 多少偶発的なことはあったが、少なくともアイリーン湖の依頼については、あの女が自ら受け、俺を連れて行った。

 単なるおせっかいな女かと思っていたが…………奴め、一体どんな狙いがある?)







 年季がかった教会の敷地で、神官風のローブを着た男が雑草を抜いていた。


「……このくらいでよさそうですね。

 しかし、さすがに私ひとりでは骨が折れます。

 また皆に手伝ってもらいましょうか」


 20前後の顔立ちだが、男の物腰はもっと落ち着いた年代を思わせる。

 それは正解で、男の耳は普通の人間よりも少しばかり長い。

 男は、ハーフエルフだった。

 人よりもずっと長寿で、何年もの間、活動するのに適した肉体を維持できる種族だ。


 男は腰を叩いて伸びをする。

 と、教会へ向かって歩いてくる人が視界に入った。

 男は多少の驚きを感じ、それからすぐに笑みを浮かべてその人を迎えた。


「お久しぶりですね、ミーナさん。

 冒険者稼業は、順調ですか?」


「はい。幸い大きな怪我もなく、見た通り元気いっぱいですよ。

 先生もお変わりありませんね」


「ええ、よく言われます」


 男の言葉に、ミーナがくすりと笑う。


「そうですね、そりゃ先生はハーフエルフなんだから。

 何度も聞いたセリフですよね」


「正直に言って、聞き飽きた感すらあります」


「あはは。

 ねぇ、先生。皆は奥にいるの?」


「今は裏で遊んでるころだと思いますよ。是非顔を出してあげてください。

 ミーナさんが来たと知れば、とても喜ぶでしょうから」


「じゃあ、さっそく行ってみよっかな!」


「お昼は食べていきますよね。泊まっていきますか?」


「うーん…………そうだなぁ……」


 ミーナは、あごに手を当てて、ひとしきり悩んでから、


「…………………………先生。ひとつ聞いていいですか?」


「なんでしょう?」


 柔和な笑みを浮かべる男に、ミーナはなんでもないように言った。


「別の世界へ転移する方法って、知っていますか?」

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