第14話 四天王、武器屋に行く
リーリエルはベルグとイレーヌに連れられて、ギルド併設の酒場の奥の席についた。
リーリエルが定食を、ベルグとイレーヌが紅茶を注文し終える。
ベルグは一度咳ばらいをした。
「改めて。俺はベルグ、剣士だ。
ランクはB。こっちのイレーヌも同じランク。そこそこの腕はあるつもりだ」
「ランクとやらについては俺にはわからんが、貴様等の実力は見れば大体わかる」
「はは。そりゃ、大したお嬢さんだ」
「貴様のような若造にまで、そう言われるとはな。
とんだお笑い草だ」
「……へ? わ、若造?」
「それで。俺に一体何の用だ?
あのふざけた女に、一体なにを命令された?」
リーリエルが悪態をつくように言い捨てる。
(こいつらがミーナの居場所を知っていれば話は早いが……わざわざ書置きを残して俺をギルドへと誘導し、こいつらと接触させたくらいだ。
ミーナには何らかの目論見があるのだろうし、それが果たせるまでは奴を捕まえてシバキ倒すのは難しそうだな)
「ふざけた女って、ミーナのことでいいんだよな?
実はな、そのミーナから、今日あんたを連れて街の案内をしてくれって頼まれてるんだ」
「……ほう」
「な、なんで睨むかなぁ?
あんた、この街に来たばかりなんだろ?
冒険者として、武器防具の店やマジックショップくらいは把握しておかないと不便すぎるだろ?」
リーリエルは反発心はあったものの、ベルグの言うことには一理あると考え、不満に思いながらも不承不承頷く。
そしてリーリエルは、非常に大事なことをひとつ告げた。
「勘違いしているようだが、俺は男だ。お嬢さんではない」
「……ぅえ?」
リーリエルの言葉の意味をすぐには理解できず、ベルグは妙な声を上げたのだった。
「いらっしゃい、ここは武器屋だ。知っている?
ははははは、そうだ看板にも書いてあるし、中を見れば言うまでもないことだな。
だがこれは様式美、それこそ言わないわけにはいかないものでね。
しかししかし、ほぅほぅほぅ。これは貴重なかわいらしいお客さんがやってきてくれたものだね。
いや、こんな店に来る客など、荒くれものばかりだからな。可憐な華など希少なのだよ。
いやしかし本当にかわいらしい魔族のお嬢さんだ。嬉しいものだな」
落ち着いた声色の、しかし矢継ぎ早に話す女店主に出迎えられ、リーリエルは即座に顔をしかめた。
「……おい、本当にここが街一番の武具を扱う店なのか?」
「そう言いたい気持ちもわかるんだけどさぁ。
ちょっと変わってるけど、ゲルトさん、いい人なんだぜ」
ベルグの言葉に、店主のゲルトがピクリと眉を動かした。
「おっとおっとおっとぉ、褒められてるのか貶されてるのか微妙なところだな。
だがしかし、他人にどうこう言われたところで私の扱う品には一片の影響もない。
君たちが冒険者だというならば、まずは美しい店主ではなく、このすばらしい武具の数々に目を向けることだな。
安心したまえ、私の扱う品に間違いはない。どれ、迷っているのであれば遠慮なく相談するといいぞ。ヘイ」
(よし、殴り飛ばすか)
リーリエルが拳を握りしめたとき、隣にいたイレーヌが優しくその手を包んだ。
「リーリエルさんは、今着ている服が気に入らないのですよね?」
イレーヌが柔和に微笑む。
リーリエルは完全に不意を突かれ、毒気を抜かれてしまった。
最初に自己紹介して以来、イレーヌはまったく話していなかったので、リーリエルは彼女の存在自体を失念していたのだ。
リーリエルが顔を向けると、イレーヌはすでに手を離していた。
なんとなく、リーリエルは罰の悪い感じがして、イラついた気持ちは霧散していた。
「……ふん、そうだ。おいお前、耐久力の高い服はあるか?
耐刃性能は欲しい。それと炎系魔法など、なんらかの耐魔性能のあるものが望ましい。
筋力や魔力を上昇させるような補助的な効果があるものならば、なおいいな」
リーリエルは、今着ているゴスロリ服については一刻も早く呪いを解いて脱ぎ捨てたいところだったが、代わりの服を用意しないことには始まらない。
以前着ていた旅人の服では、絶対にダメだというわけではなかったのだが。
(俺は魔石を吸収することで力を増す。
しかしそれは、魔石の質が重要だ。
コボルトウォーリアーの魔石を吸収して、魔石がもたらす効果がようやく確信できたのだからな)
リーリエルは今後、より強い魔物を狩るつもりでいた。
そしてそれは、弱体化したリーリエルにとっては相応の危険が伴うことも理解していた。
(今までは、俺は俺の肉体で戦うことを常とし、それが当たり前だった。
だが今後は、そう簡単にはいかん。
俺は俺の力を取り戻す。いや、それ以上となってみせよう。
そのためには、装備の質も最高のものを求める必要がある)
リーリエルの真剣な眼差しを、ゲルトは満足気に受け止めた。
「ふんふんふん。確かに君のような見目麗しい娘が負傷するのは、私も望むところではない。
だがしかし、非常に残念だ。今ここには、君に提供できる防具はないのだよ」
「はぁ? 貴様、どういう意味だ。
ハナからこのリーリエルを相手にするつもりなどないということか?
ちっ、面倒だが説明してやる。俺はな、今はこのような貧弱な身体をしているが、こう見えて……」
「落ち着きたまえ。何も意地悪で言っているわけではない。そのままの意味なのだ。
耐刃、耐魔、そして対衝撃、あらゆる攻撃への耐性。
さらに筋力、魔力の上昇効果。そしてなにより、可憐な者をより可憐な存在へと昇華させる。
つまり、君が着ているそれが、すべてに合致するものだ。
ちなみに私が作ったものだぞ」
「…………は?」
「ふふふふふ。我ながら、非の打ち所がない素晴らしい作品を仕上げたものだと思っていたものだが、君に着てもらえたことで、さらなる完成度を叩き出してしまったようだ。
なるほど、武具にはそれ単体での魅力はもちろんだが、それを装備する者によって更に輪をかけて上昇するものだったな。
ふっ、考えてみれば至極当然のことだが、ついつい失念してしまう」
「おい、マテ。まさかこんな服が、実は優秀な防具だったりするのか……?」
「そのとおりだ。機能性と目の保養を兼ねた私の最高傑作のひとつだ。
以前、ここを訪れた冒険者が気にしていたので売ったのだが、まさか別人が着るとは思ってもみなかった。
正直、彼女も似合うだろうとは思っていたのだが、ためらいもあったようでな。ついぞ私の前で着てくれることはなかった。
しかし、こうしてまるで専用にあつらえたかのように似合う者に渡ったのだ。
製作者としては、これ以上ないほど本望だ」
「……………………そうか」
「そうだぞっ。
どうだね? なかなかよい着心地だろう?
そうだ、どうせなら君に合う武器を選定しよう。なぁに、君になら多少の値段交渉も受諾するぞ」
「……この服を脱ぐにはどうしたらいい?」
「ふむ? いろいろと付加効果を盛りまくったせいか、おまけとして、脱ぐのに一苦労する呪いもついてしまったのだ。
冒険者で、その呪いを解ける実力のある者は少ない。教会にいる高位の僧侶にレジストしてもらうしかないのではないか?
しかし安心したまえ。その服は、着ている者の魔力によって復元することができる。
つまり、いつまでも新品同様というわけだ」
「…………そうか」
上機嫌で饒舌なゲルト、対照的に絶望的な表情のリーリエル。
若干ふらふらとしているリーリエルを支えながら、イレーヌはつぶやいた。
「服は綺麗でも、汗とかかいたら、清潔じゃなくなっちゃいますよね」
心底どうでもいいとリーリエルは思ったが、口に出すほどの気力はわいてこなかった。




