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第13話 四天王、着る

「ぬぁんだこれはぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 朝、宿で目覚めたリーリエルは、早々に怒号を上げた。

 





 昨晩、リーリエルとミーナは冒険者ギルドでアイリーン湖の水を渡し、無事依頼を達成した。

 リーリエルは魔石を吸収して力を得られるとわかり、上機嫌。

 ミーナは、クエスト達成とコボルトの魔石の売却益で懐が潤い、上機嫌。

 鼻歌でも歌いだしそうな二人は、ギルド併設の酒場でお高い食事と酒を頼み食いつくしていた。

 食事が終わると宿へ戻り、リーリエルはうつらうつらしながらもベッドへ入ったわけだが……。


 翌朝、リーリエルが目覚めると、女性用の服を着ていたのだった。


「本当になんだこれは!? なぜ俺がスカートなんぞをはいているのだ!?

 くそっ、なんだこの無駄にひらひらした服は!?

 こんなレースなんぞあったところで意味がないだろう!?」


 ひとしきり突っ込みを入れて、リーリエルは肩で息をする。

 転移したときには、リーリエルの服装は、もともと着ていた服とは別のものとなっていたが、それは男女兼用の旅人服であった。

 それがいつの間にか、細かなレースやフリルで飾られた黒衣、いわゆるゴスロリ服を着込んでいたのだ。


「ちぃっ!! こんなモノ着てられるか!!」


 リーリエルは、上着に手をかけ脱ごうとするが、どうしてか身体が痺れたよう動かなくなり脱ぐことができない。


「馬鹿な!? 呪いかこれは!?

 ふぬっ!! ふぬぬぬぬっ!!!」


 リーリエルは気合で力を入れるが、どうしても服を手にかけた以上には動けない。

 ぐぎぎぎぎと唸るが、どうにもならなかった。


「ぐぅっ!! この程度の呪い、以前の俺ならどうということもなかったものを!!!」


 悪態をついて、リーリエルは仕方なくゴスロリ姿のまま隣の部屋へと駆け込んだ。


「ミーナぁぁぁぁっぁあああああ!!

 貴様ぁぁ、この服はなんだ!! 一体どういう了見だ!!?

 言い訳があるなら聞いてやる、貴様をしこたま殴った後でなぁ!!!!」


 リーリエルの叫びが安宿に響くが、応える者はだれもいない。

 ベッドはもちろん、室内にミーナの姿はなく、机にはメモ紙が一枚置かれていた。

 メモに気づいたリーリエルが素早くかっさらうと、


『今日は用事があるので、リーくんは好きにしててね。

 服は汚れてたから洗濯して宿の裏の敷地に干しておいたよ。

 代わりの服はちゃーんと用意したから安心してね。

 ていうか、リーくんの身体拭いたついでに着せちゃった。私ってば気がきくぅ!

 私はギルドにいるからねー』


「あの女絶対に許さん!!!!!」




 ◇ ◇ ◇




 リーリエルは冒険者ギルドへ全力ダッシュした。

 到着と同時に室内を見渡すが、ミーナの姿はない。

 リーリエルは舌打ちして、ギルドの受付の禿頭の大男へと向かう。

 男は大股で近づいてくるリーリエルに気づき、軽く手を挙げた。


「おう、昨日はどうもな。

 いやぁ、コボルトもまとめて討伐してもらったみたいで助かったぜ。

 あの辺りにいる分には特別困らないんだが、数が増えると街道まで出てきて人を襲いだすんだよ。

 こっちとしては、そうなる前にどうにかしたいんだが、いかんせん被害出てからでないと依頼自体がこないからなぁ。

 ……あ、そうそう。この前、お前さんに書いてもらった申請書があっただろ。

 年齢のところが25になってたから、こっちで15に直しておい…………」


「おい、ここにミーナは来なかったか!?

 あの女、ここに用事があると書き置きがあったのだが!?」


「ミーナ? いや、見ていないが……」


「なんだと? 本当に来ていないのか?

 隠すとためにならんぞ!」


「隠さん隠さん。それよりお前さん、イメチェンでもしたのか?

 その服、なかなか似合っているじゃないか。かわいいぞ」


「黙れ。今すぐその口縫い付けてやろうか」


 リーリエルが剣呑な目で睨むと、男は苦笑して両手を挙げた。


「……なんとなく事情はわかったが、ミーナが今どこにいるかは本当に知らん。

 その辺にいる連中にでも聞いてみたらどうだ?」


「くそっ!! あの女、絶対ただではすまさんぞ!!!」


 リーリエルは即座に踵を返して、酒場のテーブル席にいる冒険者たちに片っ端から聞いて回る。

 しかし……


「ミーナ? 知らないなぁ。あんまり遊んでるイメージないし、ここに来るかクエストに出てるかって感じだと思うけど。

 ところで、君、かわいいね? 名前なんて言うの? 俺たちと一緒にクエストに行かない?」


「ミーナねぇ。私、あの娘のことよく知らないのよね。

 愛想はいいんだけど、大抵一人で行動してるから」


「あ、君ミーナの連れでしょ? ミーナが誰かとクエストに行くなんて珍しいからさぁ、覚えてたんだよ。

 せっかくだし、あっちでちょっと話聞かせておぐぁっ!?」


 リーリエルの手を掴もうとした男は、アッパーを顎にもらい身体が浮いた。


(ちっ、どいつもこいつも役に立たんな。

 しかしミーナの奴、本当にここにはいないようだな。

 そうか、この俺を謀ったというわけか。

 …………くくくくく、舐めた真似をしてくれるな本当に!!)


 リーリエルが暗黒面に墜ちた笑みを浮かべていると、


「リーリエル」


「あぁ?」


 名前を呼ばれて振り返ると、そこには二十歳くらいの男女が立っていた。


「やっぱり、あんたがリーリエルか。

 黒色の服を着た、とびっきりかわいい子だと聞いてたけど、本当にその通りだとはな」


「なんだ貴様は。喧嘩を売っているなら買ってやるぞ」


 リーリエルがギロリと睨むと、男は慌てて両手を振った。


「ええ!? 全然売ってないって!!

 俺は、ベルグ!! 見ての通りの冒険者だよ!! あんたも同業だろ!?」


 ベルグと名乗った男は、黒髪短髪の中肉中背で、動きやすさを重視した格好をしていた。腰に二つの剣を差している。

 すらりとした肉体の割にしっかりと筋肉もついている。

 どことなく豹を連想させる印象だ。


(……雑魚ではなさそうだな。

 もっとも、今の俺でも勝つこと自体は難しくなさそうだが)


「んで、こっちは連れのイレーヌ」


 ベルグの脇にいた女が軽く頭を下げる。

 長い黒髪をした、中肉中背の女だった。

 ゆったりとしたローブを羽織ってはいるものの、動くには問題のない格好である。

 

「はじめまして、リーリエルさん。私はイレーヌ。

 ミーナちゃんから、あなたのことは聞いています。

 あちらで話しませんか?」


「…………いいだろう」


 イレーヌは柔らかい雰囲気の女であった。

 その物腰はリーリエルの沸騰気味だった頭を冷やし、うなずかせるに足るものであった。

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